2001年06月10日

贋作・桜の森の満開の下

初台にある新国立劇場で「贋作・桜の森の満開の下」観劇。

言わずと知れた野田秀樹の遊眠社時代の名作の再演である。しかし、当時のキャストで今作に出演しているのは野田のみ。他は全部一新されているので全く別物と言って良いだろう。

坂口安吾の短編小説「桜の森の満開の下」「夜長姫と耳男」をベースにした物語は、前回とほぼ一緒。細かいディテールでは前作と異なる部分もあるが、95%以上は変わっていない。従って、ストーリーの完成度は当然高い。

さて、内容の評価であるが、これがすこぶる難しい。初演から12年、一度目の再演から9年、当時の舞台を観ている人は、全観客の中でせいぜい5割ぐらいだろうか。この人達の受ける印象と、今回初めて桜を観た人の印象は、当然違うものになるはずだ。僕は前者なので、今回初見の人がどういうう印象を持ったのかは想像ができない。ただ、色々な意味で前回と似た舞台だったと思うので、おそらくこういった人達の多くは「とても良い舞台だった」と感じたに違いない。

#ラストシーン、夜長姫が消えてしまうところ、消えてしまうということを知っている僕は、「あぁ、今穴があいたな。あぁ、今姫が下に降りたな。あぁ、それで蓋がしまった」と、全部見えてしまっていた(ちょっと横から観ていたから仕掛け、丸見えだった)けど、隣の、もっと良く見えているはずの人が「え??どうしたの?どこいっちゃったの???え???え???」と心底驚いていた・・・・

そして、問題は僕を含めた「前の舞台を観ている人間」である。

前作と比べて「これは良くなった」と感じるのは、まず舞台そのもの。日本青年館と違い、物凄く奥行きのとれる新国立劇場では、前作と違った(場としての)舞台の雰囲気をつくり出し、そしてその奥行きを上手に活かした(劇としての)舞台を作り上げていた。

次に良かったもの。・・・・と、ここまで考えて、「良くなった」もの、あげられない。

続いて、変わったけど、良くなってもいない、悪くなってもいない点。まず、舞台の装飾。前回はピンク、茶色、白あたりがベースになっていたと思うが、今回はかなり濃いピンクがベース。血の色をイメージさせるような作りで、それはそれで雰囲気があるのだが、「ちょっとしつこいかな」という印象を受ける。

それから役者。これも、どれもこれも無難に演じている。演出も前作にほぼ忠実。

悪くなったもの。特になし。じゃぁ、前作より良いぢゃん・・・・・・・・。本当に?

この作品、僕は(生だけでも)6回ぐらい観ているおかげで、ついつい「前はこうだった」と感じてしまう。今回の演出が前作に非常に忠実だっただけに一層、その比較が明確になってしまう。毬谷の夜長姫はドスの効いた方の声の時、もっと声に勢いがあったよな。ラストシーン、野田の「まいった、まいった」はもっと味があったよな。段田のオオアマはもっと気高い雰囲気があったよな。佐戸井のエンマロは棒が重かった時、もっと下働きの悲哀を出していたよな。向井の貴い女はもっと狐っぽかったよな・・・・。今作の方が良いな、と感じたのは古田のマナコぐらい。控えめに「悪くはなってない」と言ってはあげたいが、どれもこれも(野田のヒダの王家の王ですら、松沢一之の方がマッチしていると思う)、やっぱり「前の方が良い」感じを受ける。結局、この劇は初回のメンバーで演じることを前提にして作ったもので、役者側によっぽどの魅力がない限り、初演の役者の「役」を奪うことができないということなんじゃないだろうか。してみると、どこに問題があったのかというと、初演の演出にこだわった演出者(野田だけど)の方針なんじゃないだろうか。折角深津を使うのであれば、もっと深津色の出た夜長姫を作って欲しかった。前作と比較したくなるのではなく、前作と別 物と感じさせてくれるような演出があっても良かったんじゃないだろうか。

#もちろん、初演、一度目の再演を観た人の中には「全然別物じゃん」という人もいるだろうけど。

劇としては完成度が高い。ストーリーも、役者も、演出も、これが初演なら凄く魅力的なものだったと思う。しかし、それでいて観劇後に無条件の満足感が得られなかった(というか、頑張っている役者がちょっと気の毒だな、と感じてしまった)のは、この劇があまりにも「私的」な作品、もっと言ってしまえば、あまりにも「毬谷友子」のための劇だったということではないだろうか(そういう意味では「弥々」と一緒か?)。作者、演出家の野田であっても、その「私的」な部分を打破することができなかった、というのが正直な感想である。

色々な意味でとても失礼な言い方にもなるが、 「野田(耳男としての)、羽場(上杉よりも良かったと思う。でも、ここは)、段田、毬谷、松沢、佐戸井、松浦、浅野、田山、向井、川俣(エナコの方)といった面 々による劇を見ることができたことが、とても良かった」と感じてしまった。  

Posted by buu2 at 21:26Comments(0)TrackBack(0)演劇││編集