第59回で「そろそろポスドク問題の話はやめにして、食品の話でもどうですか」と書いたのだけれど、また人材絡みに戻ります(笑)。
ちょっとその事情を説明しますと、僕は数年前から「知的財産マネジメント研究会」というところに所属していて、そこで何をやっているかって何もやっていなくて、ただMLを受信しているだけなのですが(^^;、このMLには大学関係者やら、企業関係者やら、役人やら、まぁ雑多な人たちが所属しているわけです。
知的財産マネジメント研究会
これをオーガナイズしている隅蔵康一さんとは役人時代からの知り合いで何度も意見交換をしていますし、西村由希子さんには一時期経産省系の委員会に参加してもらい、文科省と経産省の垣根を取り除くことができないものかと(勝手に)画策したこともあります。こちらについては結局経産省の方がしり込みするような形になっておじゃんになりましたが、僕はあんまり文科省に人脈がなかったため(理研を通してならあるんですが)、文科省の役人の懐の深さが垣間見えてなかなか興味深かったりしました(役所単位で経産省がどう、文科省がどう、というよりは、あくまでも個人の問題なんでしょうが)。で、まぁ知的財産マネジメント研究会っていうのがどんなもんかは上記のリンクを見てもらえばと思うわけですが、ボトムアップ形式で何かやっていけないかと考えているお手本のような組織で、個人的には非常に期待しているわけです。で、そこのMLで昨日、
レクメドの松本正さんがメールを一本投げたわけです。
#ここでまたちょっと注釈をつけておくと、レクメドの松本さんは、僕が役人としてバイオベンチャーの網羅的調査を始めた一番最初の時点で、町田にある事務所にヒアリングをさせていただいた方で、この分野においては僕なんかよりもずっと大先輩です。当時松本さんに紹介していただいたバイオベンチャーは
キャンバスを筆頭に、個性的な会社が多く、色々と勉強させていただきました。
さて、本題。内部的なメールなので松本さんのメールをこちらに転載するわけには行かないのですが、要は、「第1回インターカレッジ・バイオリーダーズっていうのをやるから、みんな応募してくれ」という内容でした。
第1回インターカレッジ・バイオリーダーズ
それで、僕はこのメールを読んで、次のような返事を書いたわけです。
#長いから、かなり端折ります。
僕も実地で色々と人材育成をやってきていますが、机上のトレーニ
ングにしても、バーチャルなトレーニングにしても、どれもこれも実効のないものばかりで、人材が悪いのか、カリキュラムが悪いのか、それとももっと根源的なところが駄目なのか、そこのところが見極められずにいます。
是非お願いしたいのは、このイベントの成果なり、報告なりを包み隠さずディスクローズしていただきたいということです。できれば事業が終わって1年ぐらい経ってからではなく、リアルタイムでどんどん報告してもらえたらと思います。どういう人が集まって、どういうシラバスのもと、どういったことをやって、結果、どうなったのか、可能であればさらに5年ぐらい継続的に追跡調査などもやっていただけたらと思います。
ちなみに僕自身、この手のお金を財務省から取ってきた人間ですが、追跡調査をきちんとやっているとは言えないと思っています。まぁ、報告書はここにあるわけですが。
http://www.meti.go.jp/policy/bio/jinzai/mitubishisoken.pdf
この報告書を今読んでみても、ほとんど役に立ちません。報告書が駄目なんじゃないんです。書かれていることは至極ごもっとも。しかし、それを実現できないんです。少なくともリーダーというのは教育して育成できるものではない、と考えています。どちらかといえば、たくさんいる候補の中から一番筋の良い人材を選び出すような作業だと思います。ということで、個人的には期待はほとんどしていないのですが(笑)、でも、正面から無駄だと断じる気もありません。そこで、是非、きちんとした実のある報告をお願いしたいと思います。僕達のグループはバイオネタで起業シーズをいくつか持っていて、社長人材、幹部人材を常に探しています。もしこのイベントに優秀な人材が参加するようなことがあれば、是非紹介していただきたいと思います。
まぁ、僕が言いたいことはほとんどこの中に織り込まれているわけですが、ストレートに言ってしまえば「リーダーなんて、育成するものじゃなくて、自然に出てくるものなんじゃないの?」ということです。さらに言えば「でも、それが出てきにくい土壌があるだろうから、出てきやすいようにしてやったらどうか」というのも余計なお世話なような気もするなぁ、と思うのです。打たれて出てこなくなってしまうような杭なら、将来も叩かれて駄目になるでしょう、という感じです。しかしまぁ、今はまだ試行錯誤の段階。「そんなの無駄」と否定してしまっては何も生まれませんから、国に多少なりとも予算があるうちに色々やってみるのは決して無駄ではないと思います。
さて、上のメールに対して松本さんは朝早くからお礼のメールを書いてくれたわけですが(これも内部情報なので出せませんが)、その中で「情報はどんどんディスクローズしていくつもり」と書いていました。そこで、MLの中で返事をしても良いのだけれど、折角だからブログでバイオの記事にしちゃおうかな、と思って、勝手にこちらに引っ張り出してみたわけです。ま、そうすればもしかしたら「第1回インターカレッジ・バイオリーダーズ」の宣伝にもなるかもしれないですし。
ここから以後が松本さんの早朝メールに対する返信になります。長くてスイマセン。いや、MLに入っている人には必要がないのですが、このブログを読んでいる人はそういう人ばかりでもないので、一応誤解のないように背景を説明したらこんなにながくなっちゃいました。さて、松本さんのメールによると、「今回のイベントは、その成果を他の大学などでも利用できるような手法の確立も求められている」、とのことでした。
正直に、かつストレートに言ってしまうと、この部分が一番駄目なところだと思います。僕はリーダーの育成というのはマニュアルが作れるようなものではなく、「レクメドの松本だからできる」という質のものだと確信しています。他の大学でも、他の誰でもできるようなことなら、もうとっくに出来ているはずです。それがなぜ出来ないのか、そんなことはみんなわかっているはず。ところが、国の予算が絡むとそういうことになりません。このあたりがトップダウン形式の限界でもあり、いつまで経っても日本の競争力がアップしてこない原因だとも思っています。僕は役所やその周辺でトップダウン形式のやり方を散々やってみて、「これでは駄目だな」と思ったので、そういったやり方を一切辞めてしまいました。では、ボトムアップならいけるのか、ということになるのですが、それはそれでなかなか難しいというのが現状です。
ただ、僕もひとつ勘違いしていたことがあって、それはお金の出所を上に求めていた点です。要は、「企画はボトムアップだが、お金がないからお金は国が出してよ」というものです。これをやっていると、自然に目線が上にばかり向いてしまい、結果としてボトムアップの手段ではなくなり、トップダウンの手先になってしまいます。そういうわけで、今はトップからのお金もあてにせず、純粋にボトムアップでやっていくことを試行錯誤中です。
#もちろんそこに勝手に上からお金が降ってくるのは構わないわけですが(笑)
##あと、お金ではなく、仕組みは利用させてもらったほうが良いと思っています。仕組みとは、大学とか、そういうものです。
さて、そんな状況にあって、僕のこれまでの経験からひとつ言えると思っていることを書かせてもらいますと、それは「社長に必要なのは営業能力である」ということです。リーダーシップとか、専門分野に関する知識とか、株主に対する説明能力とか、人材を育成する能力とか、求められるものは色々あるのかもしれません。でも、何を差し置いても、結局のところどれだけお金を稼げるのか、これに尽きてしまいます。
今まで僕は何人かの社長人材をOJTの形で育成しようと試みました。そして、失敗しています。それぞれのケースで色々なところに問題が発生しました。
振り返ってみると、その中で共通するのは、「社長がまず形から入りたがる」ということです。形とは、「会社のロゴを作る」とか、「名刺を作る」とか、「事務所を設置する」といったことです。実はこうした作業は会社の営業にあたっては全く不要で、それでいてお金さえかければ誰でもできてしまうことだったりします。これをやることによって何ができるかといえば「俺が社長だ」「ここが会社だ」ということをアピールすることです。社長であることが嬉しいわけですね。もちろん、こういう形から入るのも一概に否定は出来ません。スキーをやるにしても、まず一流の道具から揃えるタイプの人というのは少なくないですから。ただ、好ましくないのも間違いないでしょう。何しろ、小さな会社の社長なら、出費を最小限に抑えることが重要になります。
さて、一般論として社長は形から入りたがるわけですが、一方で、何ができないか。もちろん「ビジネスプランを全く作れない」とか、「経理が全くわからない」なんていうこともあったわけですが、これは実は周囲がフォローできます。致命的だったのは、「お金を稼ぐことができなかった」んです。「名刺を作るのは良いけど、そのお金はどうするの?」、「事務所を置いたら固定費が発生するけど、そのお金はどうするの?」というところに対して何の回答も出せなかったわけです。思いつきで一瞬お金を稼ぐことは出来ても、継続してお金を集めることができなければ、会社は早晩つぶれてしまいます。そのときに何が必要なのかって、結局は営業力です。
ものを売るのでも良いし、サービスを提供するのでも良いし、借金をするのでも良いし、資本金を集めてくるのでも良い(いや、本当は良くないですけど。安易な増資ほど会社を迷走させるものはないので。でも、何もないなら仕方ない)わけです。何しろ社長はお金を稼がなくちゃならない。
ところが、研究をやっていたり、学生だったりするとこの能力が決定的に欠落しています。「どうやって食べていくんですか?」ということを自己解決できず、結果として逃げ出さざるを得なくなってしまいます。そして、これまた一般論ですが、多くの日本人は営業が非常に苦手です。
だから、僕は今、経営人材を育てるときは必ず営業から入ることにしています。営業をやってきた人なら無条件でひとつめのハードルを越えているわけですが、そうじゃない人とはまず営業に行きます。
営業ができない人に経営は無理です。これが今の僕のひとつの結論です。逆に言えば、「社長はやっぱり営業力」です。