今日、日本の株価は連休前の全面高だが、僕がメインで運用している銘柄はあんまり芳しくなくて世の中から取り残された感じ。そして、そういう「取り残され」を嫌うのが今の若者気質という分析が三浦さんの書いた「情報病」。
この本では残念ながらTwitterについて触れられていないのだけれど、情報病の若者たちとTwitterの相性が良いのは自明で、それがそろそろ顕在化しつつある。
Twitterの中には強烈なフラッグマンがたくさんいる。それは例えばTwitter自体や、それのメイン・プラットフォームであるiPhoneとか、その他色々なもので見受けられるけれど、ここでいうフラッグマンとは、それにぞっこんになって、自分が使うだけじゃなくて是非みんなに使って欲しくて、同じようにそれを愛してくれて、それが駄目って言われると自分の全価値観が否定されていると考える人達。「これがだめだよね」っていうと、「いやいや、それは」とメーカーの代わりになって打開策を考えてあげる。色々ダメ出しされて最終的に行き詰まると、「騙されたと思って使ってみて」と、感情論になったりする。こういう人たちが新しいかと言えばそんなことはなくて、普通に昔から存在していたし、それのおかげでソニーとか、アップルとかは存在している。ただ、その存在はそれほど表面化しなかった。
Twitterはこういうフラッグマンにフィットしているので、フラッグマン濃度が高いし、それに顕在化しやすい。そして、その背後には大量の情報病の若者たちが存在する。今、Twitterの中では着々と、フラッグマンと情報病患者の蜜月関係が形成されつつある。
Twitterのマーケティングの強みというのは、例えば豚組の事例で顕著である。このお店で食べた時の僕の評価については下記のリンクを参照して欲しい。
豚組
豚組しゃぶ庵
Twitter内でのマーケティングは、Twitterの中でファンを作ってしまうと、ネガティブ層を駆逐できるというのが最大の特色。一度フラッグマンを巻き込んでさえしまえば、あとはフラッグマンが勝手に頑張ってくれるし、雰囲気を作り上げていってくれる。そして、その雰囲気が、「空気を読むことが最大の重要事項」であるところの情報病患者に蔓延し、そしてネガティブ層を駆逐する。「みんなが美味しいって言っているから、自分はそうは思わないけれど、波風立てたくないから黙っておこう」ということになるわけだ。「どうやってフラッグマンを取り込むか」が最重要テーマになるし、極論すれば、これさえ出来てしまえばTwitterマーケティングは成功したも同然。だから、店側はフラッグマンをネットでもリアルでも丁重にもてなす。こういったことはラーメン評論家が顔出しし始めた頃にやられていたことだが(新しいメニューを投入するときにその試食会に招待するとか)、似たようなことを豚組も、Twitterを使って展開している。
僕がラーメン評論家として活動していた時はこうしたフラッグマンをどうやって見つけ出すのかが媒体(雑誌、テレビ)やお店の最大のテーマだったのだが、Twitterの場合はそれが「フォロワー数」という客観的な数字で数値化されているというのも大きい。つまり、店側は誰を利用すればいいのかがすぐにわかるのである。
僕はとんかつ屋の評論もやっているから、ラーメン屋ほどではないものの、そこそこの数の店を食べてきている。豚組は美味しいけれど、じゃぁ他のとんかつ有名店と比較して格段に美味しいかと言われれば、全然そんなことないし、それに対して価格は1.5倍ぐらいだから、コストパフォーマンス的には全然得じゃない。ただ、大抵のとんかつ屋はデートに使えないけれど、豚組はデートに使える雰囲気がある。僕たちはそういう雰囲気にお金を払っていた時代を知っているので、あぁ、景気は悪くても、部分的にこういうのって再現されるんだなぁ、と思うし、それはそれで良いんじゃないかな、と思う。だから、ことさら「豚組ありがたがるなんておかしくね?」と主張する気はないのだけれど、本題は、そういうお店であるところの豚組のTwitter内での扱われ方である。話を元に戻そう。
Twitterの中での豚組の評価は物凄く高い。これは間違いなくTwitterを利用したマーケティングの成功例である。
上にも書いたように、豚組は上手にTwitter内部のフラッグマンを取り込んだ。そして、フラッグマンたちはそれに気がついているのか、いないのか、その役割を的確に果たしている。だから、Twitterの内部は豚組マンセーの情報一色である。こうなってしまうと、その背後にいる情報病患者達は抵抗不能だ。豚組のお店自体、非常に雰囲気の良い店だけれど、Twitterの内部にも豚組マンセーの雰囲気を醸成したわけで、これはこのお店のオーナーの才覚なんだと思う。
ラーメン界では、以前、ラーメンオタクに対して「お前らはラーメンを食ってるんじゃない。情報を食ってるんだ」というセリフが強烈なパンチとして放たれたことがあるが、これはラーメンオタクだけじゃなくて、レビューサイトを参考にしている全ての人達に言える言葉だった。対象もラーメン、食べ物だけではなく、映画でも、本でも、レビュー全般に言えるところがあるのだけれど、要は、「情報を食っている」のがレビューサイトユーザーである。一方で、「雰囲気を食っている」のがTwitterユーザーだ。
Twitterとは、雰囲気、空気を作るシステムだ。つまりはもともと、情報病患者と蜜月な関係にあるべきシステムなのである。それがなぜ情報病患者の若者ではなく、そのちょっと上の、ロスジェネ世代から浸透していったのかは良くわからない。もしかしたら、情報病世代に対するロスジェネ世代のアプローチツールとして利用されてきたのかも知れない。その、空気を作るシステムは、空気を読みたがる情報病患者とセットになると、バブル発生器として機能を始める。つまりは、ものを必要以上に大きく見せちゃう。豚組という「雰囲気偏重で味はまぁ高級とんかつ店の中では普通レベル」の店が、実体以上に評価されてしまうわけだ。豚組は、それと気付かれないようにして、Twitterによって実力以上の姿を見せることに成功しているのである。
例えばコンピューターソフトだと、絶対的な評価ができてしまうところがある。「これって単にPDFを読めるだけじゃん」とか、「立体表示がちょっとおかしくない?」とか、「ソフトが大きすぎてPCに負担」とか、様々な、そして、そこそこに客観的な指摘ができたりしちゃう。だから、実像以上の虚像へと拡大するには限界があるのだが、こと、味という部分については絶対的な評価が難しい。こういう客観的な反論が難しい事象に対して、フラッグマンが作り上げる「雰囲気」というのは非常に強力である。だから、主観的な評価が中心になる業態のマーケティング手法としては、運用次第でかなり使えるのかな、というのが今のところの僕の判断である。そういえば、映画でも、評価サイトではけちょんけちょんにけなされている映画が、Twitterでは高評価だったりする。
「情報病」という名著で指摘されていた「空気を読む」という部分は、Twitterの中でももちろん蔓延している。つまり、Twitter自体がすでに情報病に感染しているわけだ。情報病の188ページに、今の若者を分析して「孤独になれないというか、コミュニケーションがうまかろうが下手であろうが、抜け出せない」とした記述がある。これは、そのままTwitterユーザーにもあてはまる。ただ、Twitterの内部で進行しつつある情報病は、若者の中に存在する情報病とは少しタイプが異なる。若者の情報病は、「知らないけれど、フォロワーがたくさんいて影響力が大きい人」の情報を重視するのではなく、身の回りにいる「知っている人」の情報を重視する。その点で、今、Twitterの中に広まりつつある情報病は、年寄りに感染する変異型情報病である。この変異型情報病はマスの雰囲気を重視する。フォロワーの多い人、コミュニケーションの多い人を高く評価する。評価される人の典型例が有名人になるわけだが、それがすなわちフラッグマンである。
ネット内での口コミベースの集合知は、今、評価が非常に下がりつつある。「みんなの意見は案外正しい」ということに対して疑問が提示されつつある。それは、この理論が疑問なのではない。その前提となっている「多様性」や「独立性」が、ネット内では十分に担保されていないことによる。サクラレビューも蔓延していて、情報自体の信憑性も落ちてきている。だから、食べログも、Yahoo!映画も、以前ほどのエネルギーを持ち合わせていない。そうした中、次の「案外正しい情報」は、フラッグマンによって作り上げられる「雰囲気」なのかも知れない。
ともあれ、変異型情報病時代のマーケティングの典型的成功例として、豚組のマーケティングは記憶されるべきだろう。
なお、豚組の場合、その成功は最初から仕組まれていたわけではないようだ。豚組がフラッグマンを積極的に取り込もうとしたのではなく、たまたまフラッグマンが顧客だった。そして、それに気がついたオーナーが上手にそれを利用した。ただ、「豚組以後」は違う。その成功例を参考にしたマーケティングが始まるのだろう。それはもちろん、「どうやってフラッグマンを見つけ出し、取り込み、ハンドリングするのか」である。
#一番上手なのは、フラッグマンを創りだすことから始めること。それをやったのがTwitter。
#三浦さんの「もっと孤独になりなさい、孤独になってもっと自分を掘り下げなさい」(237ページ)というのは名言であり、情報病患者にも、変異型情報病患者にも適切なアドバイスだと思う。