このブログの読者ならわかると思うが、僕はかなりヘビーな中島みゆきファンである。中学生時代からオールナイトニッポンを愛聴し、ハガキが読まれたこともある。高校生からはほとんど全てのコンサートに行き、前回のツアーも調布、大阪、東京と三回観ていた。その前のツアーでもほぼ同様である。また、夜会も第一回から欠かさず観ていた。ただ、それは過去形で、赤坂に移ってからは観劇の頻度が下がっていた。この「橋の下のアルカディア」は再演だが、初演も観ていない。なぜこれほどまでのみゆきファンであるにも関わらず、夜会については熱心ではないのか。答えは簡単で、つまらないからである。
中島みゆきの実験劇場として始まった夜会は、当初、中島みゆきの持ち歌で構成されていた。コンサートに演劇の要素を加えた舞台という位置付けだった。ところが、そこは実験の場である。徐々に、質が変わっていった。変化を説明するのは簡単で、それまで持ち歌で構成されていた歌が、オリジナルになっていったのである。ここ数年は全曲オリジナルだ。
夜会とは、いうなれば、中島みゆきがひとりで歌い、演じる独壇オペラである。ここにそもそもの無理がある。数名の追加キャストは存在するものの、彼らはあくまでもオマケである。ほぼ一人芝居なので、話に膨らみがない。加えて、初めて聞く曲なので、歌詞がわからなかったりする。構造的にエンタメとして難しい上に、形式的にも難しいのだ。そのせいで、僕の場合、まず間違いなく、夜会では眠くなった。そんな退屈な歌劇なのに、チケット代は20000円と、コンサートなら2回観てもお釣りがくる価格である。僕は「ファンだからなんでもかんでも受け入れる」というタイプの人間ではないので、これはお金を出すのはもったいない。あとで映画館で上映されるなら、それを観れば良いや」と考えて、劇場へは足を運ばないようになっていた。
しかし、今年からはちょっと状況が変わってしまった。僕が米国在住となったため、映画館でフィルム上映していても、観に行くことができなくなった。そこで仕方なしに、赤坂サカスまで出かけざるを得なくなったのである。
チケットはチケットキャンプなどで大量に定価以下で供給されていたのだが、当日券もあるようなので、こちらを利用することにした。当日の朝、10時からチケットぴあでネット販売されるのである。ここで引換券を購入し、開演の一時間前に劇場窓口に並べば良い。ここでちょっと不安になったのが、どういうやり方でチケットを配布するのかだった。早い者勝ちなのか、抽選なのか。そこでプロモーターに電話して確認すると、チケットは完全に抽選で、早く行って並んでも効果はないとのことだった。それなら、19時に赤坂に行けば良いので、楽である。
さて、夜になったので赤坂に向かうと、僕は当日引換券を持つ人間の中では3番目だった。順番に引き換えたのだが、どうも、座席は事前に決まっている感じだった。注目の座席はH列34番。今回の舞台は前から3列を使わないので、実質5列目。ちょっとサイド寄りだが、かなりの良席である。当日券でこんな良い席が確保できるなら、チケットキャンプを利用する意味はない。
ということで、かなり良い席で夜会を観ることになったのだが、やっぱり今回も眠くなった。何しろ解釈に自由度がありすぎる。また、聞き取りにくいという問題に対応するためか、歌詞が平易な言葉中心になっていて、言葉に深みがなくなっている。ストレートな歌詞で曖昧に表現する、という、非常にハードルの高い実験になっていた。そして、それはものすごく好意的に考えないと楽しめない質のものになっていたと思う。正直、僕は楽しめなかった。
次にやるときは記念すべき第20回である。だから、ここでやめるわけにもいかないだろう。ただ、それが面白い舞台になる可能性は低いと言わざるを得ない。僕が観に行くかどうかはかなり微妙である。