2005年07月30日

MACメディカルに参加してみての私見

たまにはバイオ関連の人脈のメインテナンスでも、と思い、大手町で定期的に開催されているMACメディカルというセミナー&交流会に顔を出してみた。

MACというのはMedical Associates Clubの略らしいのだけれど、そこにさらにメディカルって追加するのはPTAオヤとか、IOCオリンピックとか、NHK日本とか、YMOイエローみたいなもので、それってどうよと思うけど、BSE牛なんていうのもあるからまぁいっか。っていうか、個人的にはMACと言えばappleのmacなので、Associates Club of MedicalでACMにした方が良いんじゃないかと思うんだけど、まぁ別に僕が何か貢献しているわけでもないのでどうでも良いんですが。

昨日はセルシグナルズというバイオベンチャーの社長さんの話を聞いたわけです。まぁなんというか、同意できない部分もあったのですが、オフィシャルな場では「頑張ってください」というしかありません。で、反論の部分はおいておいて、大きく同意したのは「米国では一番優秀な人間がベンチャーに、セカンドベストが大企業に、向上心のない人間が公務員になるが、日本ではこの逆」という部分。これは全くその通りなんですね。僕は三菱総研に7年間、理研に約3年間、経済産業省の本省に2年間、つくばにある産総研系バイオベンチャーに1年間在籍したわけですが、そこで受けた印象は全く同じものです。

その後交流会みたいなのがあったのでそこでも色々な人と話をしたわけですが、その中にはバイオベンチャーの人も少なからずいたわけです。それで、その人達と話をしてみたわけですが、彼らの何人か(ほとんど全部かもしれないけど)は創薬ベンチャーが成功すると明確な根拠もなく信じているわけですね。ここに対して非常に強い違和感を持つわけです。創薬系のバイオベンチャーなんて失敗するのがデフォルトです。社員に求められるのはそういう危機感の中で、「それでも絶対に成功させてやるんだ」という強靭な意志と、その目的意識を実現していくだけの行動力です。で、これはアーリーステージのバイオベンチャー、設立から数年で社員数が50人に満たないような小さな会社では、社長とか、取締役とか、そういうトップグループだけじゃなくて、社員全員の共通認識として存在しなくてはならないはず。ところが、普通の大企業に就職するような感覚で、「きっとうまく行くんじゃないかな」「うまく行ったら良いな」って考えている節があるんですね。

ちなみに成功に対する明確な根拠というのは、その会社のビジネスプランを完全に理解し、会社の資金状況を理解し、対象となる市場の規模、将来の動向、対抗技術などを含めたリスク分析など行ったうえで「これをクリアすれば成功する」ということです。
#もちろんどこまで公開されているかは会社次第なんでしょうけど。でも、このあたりを把握していなければ「なんとなくうまく行きそう」ということになってしまいます。僕が社長をやっていたときはこういう情報はきちんと社員に対してオープンにしておきましたが、残念ながらそれらに関心を持つ社員はいませんでした。

ちょろっと10分、20分話しただけですから、彼らの本当のところなんてもちろんわかりません。しかし、僕が社長をやっていた会社でもそうだし、僕が官僚をやっているときにまわった100近いバイオベンチャーでもそうでしたが、まぁおおよそのバイオベンチャーの社員というのはちょっとした不安は持ちつつも、また言葉面だけではベンチャーを意識していても、本当の意味でのベンチャーマインドというのは持っていませんでした。

日本の社会自体がそういう人材を育成してきていないし、所詮は農耕民族ですから、「ベンチャーってこうですよ」と口で説明しても理解できない部分もあるのでしょう。最終的には「そういう人材はいないんだから、入社後に教育するしかない」ということになってしまうのですが、残念ながらそんなくだらないことに時間を割くような余裕は普通のバイオベンチャーにはありません。教育を受けなくては使い物にならないような人材はバイオベンチャーになんか行っちゃいけないんです。ただ、現実問題として人材がいないわけで、じゃぁどうしたら良いかって、社員が自分で考えて努力するしかないんですね。それって、誰にでもできることではないです。ここで「一番優秀な人間がベンチャーにいかなくてはダメだ」ということになるわけです。ところが日本ではなかなかそういう人材がベンチャーに来ない。

昨日、僕が「バイオベンチャーなんて潰れるのがデフォルト」と言ったら「関係者がたくさんいるのにそんなこと言って大丈夫ですか?」と言われましたが、そんな意見が出てくること自体が甘いんですね。そんなこと、わかっていて当たり前のはず。当たり前のことをわざわざ突きつけてあげなくちゃならないところが残念ながら日本の現状です。日本で非常に高く評価されているアンジェスMGだって、オンコセラピーだって、今はかなり苦労しているはず。10年後には会社は存在しているかもしれませんが、20年後となるとかなり怪しいと思います。これはあくまでも僕の主観ですけどね。ツール系のバイオベンチャーならともかく、創薬系のバイオベンチャーは本当に厳しいはず。だって、武田とかの馬鹿でかい製薬会社ができなかったことをやらなくちゃいけないんですから。

社員の側にも問題はあるわけですが、経営サイドにも問題はもちろんあります。上にあげた2社を含め、日本には一応株式公開まで行ったバイオベンチャーが複数あるわけですが、株式公開というのはゴールではありません。そこで調達した資金で何をやるかが重要なはず。ところが、これすらもわかっていなかったりする会社も存在するわけです。バイオベンチャーの社長の中には「とにかく株式公開」と、株式公開が当面のゴールになっている人もいます。これも日本独特の問題。まぁ、こういう会社はこれからはほとんど公開まで行きつかないんじゃないかな。株式公開というのは10年、あるいは20年のビジネスプランの中の中間(それも前寄り)に位置づけられるもので、何か大きな資金の必要に迫られてのもの。資金調達の必要がないならそもそも公開なんか必要ないわけで、プライベートカンパニーとして大もうけすれば良いんです。ところが、株価が上がるとか、ストックオプションで大もうけできるからとか、目立つから、といった理由で株式公開をゴールに設定しちゃうんですね。公開が一つのゴールなのはベンチャーキャピタルの立場なら当たり前ですが、経営者や社員までこれになっちゃうと会社はアウツじゃないんですか?でも、公開後の事業計画がほとんど白紙の状態で「とにかく株式公開したいんです」と平然と口にする社長がいたりするのが日本の現状だったりします。

このあたり、ITベンチャーなどにおいてはまた違った様相を呈していて、ここまで書いたようなことは全く当てはまらないのですが、バイオに限ればこんな感じかな、と。ただね、バイオベンチャーは本当に人材不足なんです。博士を持っていてそこそこペーパーを出している人間が「ベンチャーに就職したい」といえば大抵の場合就職可能だと思うし、会社側は会社側で人材難ですから、あちこちで「みなさん大企業じゃなくてベンチャーに行きましょう」と大合唱するわけです。

でもね、無責任に勧誘するのもどうかと思います。ちゃんとした覚悟のない人が就職してしまえば会社も困るし本人も困ります。そういう事例をいくつも見てきています。「バイオベンチャーとは非常にやりがいのある場所ではありますが、大企業や役人よりもずっとタフで能力を要求される世界です。本当に優秀で、本当に覚悟のある人だけ、バイオベンチャーに行ってください。生半可な覚悟とか、就職先がないからという理由とかでは間違っても行かないで下さい」と、こっそり思ったのですが、僕は小心者なので昨日はほとんど喋りませんでした(^^

ということで、ちょっと書いてみた次第。念のため書いておきますが、あくまでも私見です。

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