2005年10月19日

ブログでバイオ リレーエッセイ 第5回 「バイオの国民理解」

お知らせ
「ブログでバイオ」はバイオベンチャーの代表取締役をやりながら大学院博士課程でバイオテクノロジーを専攻しているmaruと、元バイオベンチャー社長で現ITベンチャーCEOの魔人ブウ*が不定期に連載するリレーエッセイです。
ブログでバイオ 第4回はこちら→ブログでバイオ リレーエッセイ 第4回「バイオ人材と教育」

戦略大綱の中でも、「バイオテクノロジーがどのように発展しても、それが国民に理解され、受け入れられなければ、国民生活の充実にはつながらない」と記載されている(第4回より)


この大綱を作ったのは内閣府ですが、中心になって動いていたのは経済産業省生物化学産業課の補佐だったので、僕もいろいろと横で見ていました。まぁ、僕も少しだけ作業もやったわけですが。それで、この文言が入ったことは非常に高く評価していたのですが、ここに数値目標を入れることは結局出来ませんでした。数値目標とは、例えば「関連予算のうちの5%は国民理解のための活動にまわす」といったことです。結局、お題目としては国民理解の重要性を唱えていますが、実際にそれが実現しているかといえばかなり疑問です。この手のお金は活用できる業界が少ないので、プッシュする主体が不在なんですね。ま、そういう政治的な話はちょっとおいておきましょう。
つい先日、アガリクスでガンが治るという本の内容が薬事法違反の疑いということで関係者が逮捕されるという話がありました。もちろん、こういう本を出版すること自体どうなのか、という問題はあるのですが、例えば僕やmaruさんは、こんな話を信じるほうもどうかしている、と思いますよね?「溺れるものは藁をも」ということわざもあるくらいで、そういう人の弱みに付け込むことの是非はここで論じるまでもないことですが、その一方であまりにも国民のバイオに対する理解度は低いんじゃないかと思うわけです。

わかりやすいところでアガリクスの例を出しましたが、きちんとした理解が進まないことを背景にして日本の世論・政策がミスリードされている事例は山ほどあります。

例えば、健康食品なんていうのも理解が進んでいないものです。最近はバイオベンチャーでもトクホを扱う会社がいくつもありますが、じゃぁ、トクホって何なの?健康食品とは何が違うの?そもそもトクホや健康食品って、本当に効くの?という問いに、一体どれだけの国民が答えられるんでしょうか。ちょっと知識がある人からすれば、一般論として「効かないから健康食品」「ちょっと効くかもしれないからトクホ」なわけで、逆に言えば「効くなら医薬品」「医薬品ほどではなくても効くことが期待されるなら医薬部外品」となるわけですが、そんなことは恐らくほとんどの人が知らないと思います。まぁ、これは化粧品でも同じですけどね。たとえば化粧品分類の育毛剤なんていうのはそもそも効かないから化粧品なんです。

「おもいッきりテレビ」とか、「あるある大事典」とか、あの手の番組もかなり滅茶苦茶なことを放送していますが、大学の教授とかが出てきて何か喋っていれば全部本当だと信じてしまう人が少なからずいるようです。

ちょっと目先を変えてみれば、北海道では遺伝子組換え作物(GMO)が実質的に栽培不可能になりました。GMOを考えていくにあたっては、GMOというものが一体どういうものなのか、世界ではどう扱われているのかといったことを基礎知識として、日本の農業事情と照らしてどう扱うべきなのか、将来に向けて何をしていけば良いのか、といったことを考えていく必要がありますが、実際にはこれらの情報はほとんど生活者には行き渡っていません。

BSEの問題でも同様です。プリオンが何なのか、ウイルスとは何が違うのか、これまでの病原体との違いは何なのか、予防に当たっては何に配慮すれば良いのか、そもそも米国産牛肉の問題はどこにあるのか、これらのことが全く理解されていません。おかげで、吉野家が「一日限りの牛丼復活」などとやると多くの生活者が大行列するわけです。その結果、一部の政治家が「国民は牛丼の復活を望んでいる。これが民意なんだから、(米国産牛肉の危険性には目をつぶって)輸入を再開すべきだ」などと国会で発言したりするわけです。

もっと身の回りのことで言ってしまえば血液型だってそうです。話の種に、ということでエンターテイメントとして楽しむのは勝手ですが、このような話を心の底から本気にしている人もどうやら少なくはないようです。

こうした事例をどんどん列挙していくとキリがないですし、また議論が拡散してしまう可能性もあるのでこの位にしておきますが、どこまでが科学でどこからが科学ではないのか、このあたりが特にバイオ関連ではあいまいだと思います。そして、そうした国民理解が進まない中で、専門家からみると「それはおかしいんじゃないの?」という方向に話が進んでいってしまっていたりします。

誤解されると困るのでちょっと突っ込んで書きますが、例えばGMOについて「導入すべきかどうか」という議論は慎重に行われるべきです。また、きちんとした議論の結果、「日本ではGMOの導入は見合わせるべき」という結論に至るのであれば、当然それは尊重されるべきでしょう。問題なのは、ほとんどの生活者がGMOについて正確な知識を持っておらず、また知ろうともしていないという状況です。その中で議論してもまともな結論に行き着くはずがありません。ところが、日本人というのはどうも「難しいことは偉い人に任せておこう。偉い人が言う通りにしていけばなんとかなるに違いない」と考えがちなようです。

何が言いたいかというと、日本人のメンタリティは「人に任せておけ」というものだということです。教育の現場にいるmaruさんならこういうことは良くわかっていると思いますが、何かを教えようとするときに一番効果があるのは相手に学習意欲がある場合です。知的好奇心が活性化していて、「これってどうなっているんだろう。おもしろいな」と思っている相手に教えるのは非常に楽です。逆に、「こんなのどうだって良いよ」と思っている相手にものを教えるのは大変な労力を必要とします。そして、今の日本人のほとんどはバイオに対して後者のスタンスにあると思います。GMOにしたってBSEにしたって、「難しいことはわかんないよ。偉い人に任せておけば間違いないでしょ」という感じです。そんなことだから、一部の大臣などは「一番良いのは、消費者が知らない間に食べてしまっていたってことなんだよなぁ」などと発言したりするわけです(出所は明かせませんけど(^^;)。

そうした状況で、どうしたら国民の理解が向上するのか。これは非常に困難な課題です。

世の中には似非科学がたくさんあって、その中には自分の命に関わるものも含まれていますが、自分が被害者になるまではどれもこれも他人事です。そういう危機意識のない人たちに対してどう接していくのか。本来はこういった内容は義務教育の中できちんと教えておくべきだと思いますが、なぜかステップやサバンナやツンドラといった一生役に立ちそうにない言葉は教えても、生命科学の基本的なところは教えていないようです。

ということで、総論としては「どうしたらバイオに対する国民理解が進むのか」、各論としては「健康食品について」「BSEについて」「GMOについて」あたりをこのリレーエッセイで取り上げていきたいと思います。

総論に対しての僕の一つの回答は「親と子のゲノム教室」の出版でした。生命科学のキーワードについて、かなりわかりやすく書いてみたつもりです。しかし、弱小出版社から出版したこともあり、それほど多くの人の目に触れてはいないようです(今では書店の棚で見つけるのも困難ですが、出版社に連絡すればまだ在庫はあるようです)。ただ、この本はあくまでも「薬」なんですね。どうしたら「薬を服用する必要がありますよ」と理解させられるのか。本質はこちらにあると思います。その一つの手段がこのリレーエッセイでもあるわけですが、果たしてどの程度効果があるんでしょうかね。でもまぁ、継続は力なり。いつかは日の目をみることもあるかもしれないので、とにかく続けて行きましょう。

で、こちらからのパス出しですが、どうしたら国民の意識がバイオに向くと思いますか?

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近頃、就職活動戦線真っ只中です。 企業のエントリーもスタートして、試験の日程なども決まってきました。 スケジュール帳に会社の名前が並んでいます。 就職活動をしてるから考える、というわけでもなく、ずっと考えていたことでもあるんですが研究室で研究をしている
就職活動しながら考えるコト【分子生物学研究者の卵の日記】at 2005年10月28日 00:26
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この記事へのコメント
うげげ...まぢにそんな事いってたんですか?>島○
そりゃあまりにひどいっす

#と本論と関係ないところに反応してみる
Posted by e-%知らん間に食ってた奴@US at 2005年10月19日 11:50
違う人です。
Posted by buu* at 2005年10月19日 11:54
mixiから見に来ました。とても興味深い話題だと思いました。
これからもっとバイオの分野の研究が発展して、医療の現場などに応用される時代になるかもしれませんが、「科学不信」の人と「科学の恩恵を受ける人」の格差のない社会になってほしいと願います。
Posted by mihha at 2005年10月26日 10:06
こんにちは。

このリレーエッセイはmaruさんと二人でやっていますが、ものの見方は色々なものがあるはずです。二人だけでやっていればどうしても偏ったものになってしまいますので、何かおもしろいなと思うことがありましたら是非参加してください。コメントでは文字数に制限がありますが、mihhaさまはブログをお持ちのようですので、トラックバックでどうぞ(^^ 
Posted by buu* at 2005年10月26日 10:27