2005年10月26日

ブログでバイオ 番外編「今後のバイオベンチャー支援策について」

本日は関東バイオ・ゲノムベンチャーネットワークのミーティングに出席したので、それにあわせて「ブログでバイオ」の番外編を書きます。


関東にはバイオベンチャーを支援するための集まりとして、「関東バイオ・ゲノムベンチャーネットワーク」というのがある。これは経済産業省および周辺自治体によって形成されているネットワークで、主につくば、かずさ、そして横浜が主体となっている。ただ、これらの3地域は関東の中での重点地域という位置づけで、そのほかの地域が軽視されているというわけではない。

今日はこのネットワークの3拠点連携ミーティングが実施され、僕も関東バイオ・ゲノムベンチャーネットワークのサブクラスターマネージャーとして参加した。横文字ばかりで恐縮だが、要はネットワークを整備していくにあたって、コーディネートの中心的な役割を期待されているのがクラスターマネージャーとサブクラスターマネージャーである。クラスターマネージャーはバイオインダストリー協会の地崎氏(専務)が就任しているが、かなり忙しい方なので、実質的に動き回るのはサブクラスターマネージャーとなる。サブクラスターマネージャーは関東では4人が選任されているが、僕はそのうちの一人ということになる。どういう経緯で選ばれたのかは不明だが、経済産業省でバイオベンチャー支援を始めたときの担当課長補佐だったということが大きいのかもしれない。

今日参加したのは関東経済産業局バイオ・ゲノム産業室、茨城県商工労働部、つくば研究支援センター、千葉県商工労働部、千葉県産業振興センター、横浜市経済局、バイオインダストリー協会といった面々。で、現在の事業進捗の報告や、今後の活動方針についてのディスカッションが行われた。

それで、色々な意見が出されたわけだが、ここで出た個別具体的な意見を提示して評価するのではなく、支援にあたっての個人的な考えを書いてみる。

僕自身、日本のバイオベンチャー支援の最初の一歩を企画、立案してきた人間だが、それ以後、かれこれ5年近くが経過している。その間、いくつかのバイオベンチャーが株式公開まで行き着いたわけだが、株式公開がベンチャーのゴールではないことは言わずもがなである。日本のバイオベンチャーで成功をおさめた会社は皆無といっても間違いではない。日本のバイオベンチャーはまだまだよちよち歩きで、これからなのだ。そうした中で、公的機関ができる支援とは何があるのだろうか。

僕は役人としていくつかの支援策を立案すると同時に、当事者としてバイオベンチャーの社長もやってきた。そうした立場からは、公務員をずっとやってきた人には見えないことも色々と見えてくる。

例えば、良くあるベンチャーと大企業のマッチング。こうした事業は非常にわかりやすく、予算消化も楽なので国や自治体としては非常に手を出しやすい部分なのだが、では、効果はあるのか。僕はベンチャーの社長として様々な製薬会社とアライアンス交渉を行ってきた。そこでわかったことは、アライアンスのためのイベントというのはほとんど意味がないということだ。大企業は自社で様々な開発をしていると同時に、もちろんあちらこちらにアンテナを張り巡らせて、導入可能な技術シーズを常にウォッチしている。それはアライアンスのためのイベントなどでではなく、論文が出た時点でチェックしている。論文が出た瞬間に技術に関する情報を収集し、評価し、もし良さそうならすぐにアクセスする。つまり、誰の目にも触れずにひっそりと開発されている技術などは存在しないのである。ウェブサイトで公表されていることは当然として、論文、特許に至るまで、相手はきちんと情報収集している。ベンチャーとして起業して、アライアンス先を探してイベントに出品されるような技術は、もうずっと前に企業に評価され、バツを出されている技術なのである。

次に良くあるのはベンチャー同士のアライアンスである。弱い会社同士が束になって力をつけよう、という主旨だが、この効果もはっきりいって大きいとは言えない。会社が創薬系のベンチャーの場合、いくら小さい会社同士が集まっても話にならない。マッチングすべきは大企業である。また、創薬ではなく、インフォマティクスやツール系のベンチャーの場合、販路を求めてこうした場に参加することは多少意味があるが、その手のベンチャーが相手にすべきは予算が潤沢な一部の国立大学や公的研究機関であって、試薬を節約して少しでも経費を減らそうとしている弱小ベンチャーではない。また、こうした需要と供給の話とは全く別の次元の話として、株主の問題がある。日本にはいくつかのバイオ系ベンチャーキャピタルが存在するが、これらは基本的に例外なく仲が悪い。具体例を出して申し訳ないが、バイオ・フロンティア・パートナーズが出資している会社とバイオテック・ヘルスケア・パートナーズが出資している会社がアライアンスする可能性はほぼ100%ない。逆に同一系列のキャピタル、例えばレクメドとエムビーエルベンチャーキャピタルが出資している会社であれば、アライアンスのためのイベントなどをやらずとも情報交換はそれなりに実施されているはずだ。

では、バイオベンチャーは公的支援に何を必要としているのか。一つは金であり、もう一つは人である。アライアンスの相手の仲介ではないのだ。では、バイオベンチャーはあまり期待していない公的なアライアンスイベントに参加するのか。それは、そうした形で役人と仲良くしておけば、補助金情報などをいち早く入手できるかもしれないなどと考えているからだ。もちろん同業他社との情報交換も目的ではあると思うが、そこから具体的に何かが生まれることは期待していないと思う。唯一ありうるのは、ベンチャー同士で結束することによって圧力団体となり、厚生労働省などの規制官庁に対応していくことだろう。例えば大学発バイオベンチャー協会などはこうした色合いが濃い。これはもちろん必要なことで、前例主義で構築された今の様々な規制を、現場の現状に合わせた形に変えていかなくてはならない。役人は自分で事業を行ったことがないから、こうしたことには鈍感である。きちんと外部から圧力をかけていくことは重要だ。ただ、こうした業界団体はすでに複数存在しており、公的な機関が旗を振って実施していく必要はもちろんない。

アライアンスのためのイベントが全く無駄だとは思わないのだが、そろそろ視点を変えるべき時期に来ているのが僕の主張である。しかし、金を入手するための基盤を整備することは非常に困難である。例えば「補助金を取りやすい書類整備のやり方」などは実際に実施すれば抜群の人気となるだろうが、もちろんそんな事業をやれるわけがない。補助金をばらまくスキームはそれなりに充実しており、今からわざわざバイオ限定でやっていく必要性があるとも思えない。

となると、最後に残るのは「人」である。実はすでにこうした事業は一部で実施されつつある。それはアドバイザー派遣事業という形で実施されている。弁理士、弁護士、会計士などを企業に派遣するといった事業である。これはこれで一部で成果を挙げているようなので、引き続き実施していくべきであると思うのだが、僕が考えているのは研究者、ポスドク、大学院生といった研究人材とバイオベンチャーのマッチングの場の設置である。僕がベンチャーの社長をやっていたときに、一番頭を悩ませたのは研究人材の確保である。会社には中堅製薬会社の現役社員やNEDOフェローなど、色々な人材からの売込みがあったのだが、残念ながら会社のニーズに適合する人はほとんど見つけることができなかった。ピンポイント対ピンポイントのお見合いなので非常に効率が悪く、うまくいかないのも当たり前といえば当たり前の話である。ヘッドハンティング会社からも様々な売込みが来るのだが、これもなかなかフィットしない。そもそも、数回の面接だけで決めるというのも困難な話である。とにかくバイオベンチャーに取って最大のリスクファクターは人事である。人を雇えばそれだけで固定費が発生する。年俸600万円程度の人材を一人確保すれば年間の経費は1000万円アップする。例えば製薬企業とのアライアンス交渉を半年かけて実施すれば、その間に社員一人当たり500万円が失われることになるのだ。大企業に対して「資金がショートするからのんびり稟議なんかまわしてないでさっさと意思決定してくれ」といってもそれは無理な話。したがって、無駄遣いにならないように、採用に当っては慎重になる。当然、それなりの働きをしてくれる人材でなければ採用には至らない。

ということで、今、僕は「どうやったらバイオベンチャーと研究者、ポスドク、学生との恒常的ネットワークを構築できるか」を考えている。そして、すでに一つの回答に行き着きつつある。まだちょっとその内容をオープンにはできないのだが、恐らくなんらかのかたちで今年度中に表に出すことが出来るのではないかと思う。

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