2005年12月07日

ブログでバイオ リレーエッセイ 第9回 「BSEと、専門家と、Japan Bio Net」

今日、新聞に「輸入再開、12日に決定」という文字が掲載されましたね。まぁ、日本なんてこの程度の国。パブコメなんて全く関係なしです。それで、もしvCJD患者が出たら誰が責任を取るんですかね?

今、耐震偽装マンションで大騒ぎしていますが、そこでも問題になっているのは責任の所在ですね。責任問題というのはなぜこじれるのかって、それは「何かが起きる前にきちんと責任の所在を明確にしておかないから」です。こんなことは色々なケースを想定して、思考実験した上で責任の所在を明確化し、それを明文化しておけば良いだけのこと。ところが、日本はこれを全くやりません。何か問題が起きるとだらだらと裁判をやって、当事者が全然いなくなってから誰が悪いのかを決めたりします。こういうなぁなぁ主義が農耕民族である日本人の本質なんでしょう。

こういう「みんなで仲良く」という国民性では、世界のトップなどにはなれっこありません。でもまぁ、それも一つのものの考え方。1400年も前に「和を以て貴しと為せ」と日本の方向性を決めた方がいることですし、それが日本人の精神の根幹にあっても不思議ではないです。日本人は「国を牽引するリーダーを育成すること」なんかより、自分や自分の家族が他の人と一緒でいられることを望んでいるのでしょう。そのためには、「出る杭を打つ」のも辞さない。それがこの国の姿だと思います。僕などは福島瑞穂さんが「勝ち組社会が日本をダメにする」などと喋っているのを見ると「やれやれ」と思う人種ですが、彼女の考えに同調する人はきっとたくさんいるんでしょう。なぜ社民党が議席を伸ばせないのかが不思議です。

一見、BSE問題と日本の科学技術がダメなのは全く別の問題のようですが、その根っこは結構同じところにあるような気がします。

ちょっと話がそれたので元に戻します。何はともあれ、BSE問題についてはこのブログで展開している「ブロガー新聞」でまた取り上げますので今日の新聞記事については詳細を書くのはやめておきます。それで、まずは第8回の記事について。

第8回はこちら
国民からすると「アメリカの圧力で日本の政府が負けたのではないか?」と思う方も多いのではないでしょうか。
というか、間違いなく圧力に負けたわけです。今の日本は米国産牛肉が輸入されなくてもほとんど困っていません。「あれば良いなぁ」とは思うでしょうが、空気と違って必需品ではありません。

日本の政府の主張では内閣府の食品安全委員会のプリオン専門調査会で出た結論と言うことになっています。専門家の間では「日本が輸入している牛は若い牛が多いため、どのみち検査をしたところで異常プリオンが検出できない」と言うことらしい。
ちょっと補足すると、プリオン調査会の報告書は「データ不足で評価は困難だが、『生後20ヶ月以下の牛で、危険部位を完全に除去できれば』という条件をつければ」という条件付きです。さらに、暗黙の了解事項として「米国の統計資料がきちんと整備されたものであれば」という前提があります。売りたくて売りたくて仕方がない人が「ほら、こんなに安全ですよ」と提出している資料がどこまで信用できるんでしょうね。耐震強度が不足しているマンションを売っている人たちとほとんど一緒です。

検出できないならそれではどうすればもっとリスクを低減させられるかと言うことを考えて「しっかりと取り除かれているかのテストをおこなうべき」のような次のハードルを作るのが良いのではないでしょうか。
これはその通りなんですが、その一方で「今はそういう技術がない」という問題があります。そういう状況下でどうすべきか、ということですね。対策として考えられることは、

1.原因物質である肉骨粉を一切利用しない
2.きちんと検査をする
3.検査体制を厳格化する

の3つだけのはず。しかし、今の技術では2.はできません。となると、やれることは1.と3.です。そして一番簡単なのは1.です。原因物質がわかっているんですから、その利用をやめれば良いだけ。話は非常に単純です。日本では実際にこれをやっています。ところが米国は相変わらず肉骨粉を製造し、牛以外の動物に飼料として与えているわけです。そして、その肉骨粉を使った動物から排泄された物質を牛に与えたりしています。日本は「肉骨粉を利用し続けている国からは牛肉を輸入しない」という姿勢を打ち出すべきだと思いますが、結局は米国の属国ですからそれも無理なんでしょう。「あとは生活者レベルでなんとかしろ」ということのようです。輸入解禁後は外食するときは「ここの肉はどこの肉ですか?」ときちんと確認しなくてはなりません。面倒ったらありゃしない。

さて、続いて専門家について。

いつも思うのは「果たしてこのチームは機能しているのか?」と思うことも多々あるのです。
これは同感する部分もあり、同感しない部分もあり、ですね。

役人は基本的に素人です。ある分野については専門家であっても、全ての分野について専門家であることは不可能です。例えば僕は役人としてバイオベンチャーの支援をやっていましたが、僕の専門は核酸、タンパク質あたりの基礎科学と、大規模研究施設の運営(具体的には理化学研究所)、研究機関における知的財産の確保、バイオテクノロジー全般の産業化などでした。ということで、医学や薬学にはほとんど素人でした。しかし、それでもバイオ全般について俯瞰しながら政策立案をしていかなくてはなりません。ではどうしたら良いか。専門家に聞くわけですね。これはもう物理的に避けられません。では、その専門家が「チームとして機能しているか」となるとこれは微妙です。専門家はコンサルタントではなく学者であることが多いです。そういう人たちは、人にアドバイスをするのが仕事ではなく、研究し、それを指導することが仕事です。プレゼン能力やコミュニケーション能力が絶対必要というわけではないので、その能力に差が出ます。そういう人たちを一箇所に集めると、どうしても発言量に差が出ます。ですから、専門家は部分的には非常に有効に機能するんですが、その一方でチームとして考えると機能しないケースも少なからずあります。結局のところ、そのチームを統括する側に(そもそもその面子選びの段階から)かなりの力量が要求されてしまいます。

maruさんが「このチームは機能してないな」と思う場合は、それを統括している人たちの能力不足なのかも知れません。

また、バイオ業界における専門家チームについて、とのことですが、このチームには本当に色々なものがあって、その役割も雑多です。

政府系のものとしては総合科学技術会議をトップとして、ニーズに適合した様々なチームがあります。さすがにどこかにフォーカスが当らないとなんとも言えないのですが、政府系のチーム(委員会)の場合、まず旗振り役の役所が中心になる人物を決定します。この人物は役所が選ぶわけですから、当然役所の方針に反したりはしません。そして、役所と中心人物がその人脈を通じて人選を進めます。こうした委員会ですから、単一省で作った委員会(たとえば経済産業省であれば産業構造審議会とか)の場合、旗振り役の省の方針に反した結論になることはほとんどないと言って良いでしょう。要は、お墨付きを与えるのが役割です。

役人はまず自分で専門家にヒアリングなどをして勉強します。大体の方針を決めたところで再び専門家に「これで良いか」と聞く必要が生じるわけですが、そこで「委員会」に諮問します。そこでオッケーとなったところでその名簿を添付して財務省に予算要求したり、プレスリリースを出したりするわけです。

これは一つのパターンで、他にも上に書いた総合科学技術会議のように、各省の代表として送り込まれてそれぞれの省の利益を主張するケースもあります。ある意味、役所と専門家は癒着しているとも言えますが、少なくとも2、3年で異動してしまう役人に完全なる専門家を求めるのは無理ですから、構造的に仕方がありません。この状況を変えるためには国家公務員のキャリアパスを変えなくてはなりません。このことは、2年ほど前に朝日新聞に投稿した文章がありますのでそちらを参照してください。

次に財団法人やシンクタンクの委員会。これもやはり人脈ベースで構成されるので、旗振り役の意に反するケースは稀です。僕の場合はこの手の委員会は旗振り役も専門家もやったことがありますが、旗振り役の場合はキーマンを数名探して委員長を決め、そして委員長に「誰かいい人いませんか?」と紹介してもらいます。まぁ、どこでもやっていることは一緒のはずで、議論していて紛糾するようなことは稀です。

最後に民間企業の場合ですが、これはちょっと良くわかりません。委員会を組んだりすることがあるんでしょうか。まぁ、シンクタンクに委員会の設置を依頼することはあるでしょうから、やはり上に書いたシンクタンクのやり方とあまり変わりがないでしょうね。専門家の意見をそれなりに聞きつつ、同時に話がわからない上司を説得する材料にする、という感じなんじゃないでしょうか。

投資時の専門家ははたしてどのくらいの意味があるか?
うーーん、僕は投資される側の経験しかなくて、投資する側の専門家としてアドバイスしたことはありません。今はベンチャーキャピタル付属のシンクタンクにも籍を置いていますが、投資を目的とした調査やアドバイスはやったことがないんですね。だから、この点についてはコメントできません。

ということで、今度はこちらからのパスだしですが、僕は首都圏バイオ・ゲノムベンチャーネットワークのサブクラスターマネージャーというのをやっています。まぁ、上述のチームで言えば、経済産業省系のバイオベンチャー支援組織の専門家という位置づけです。それで、その委員会で「何か良い支援策はないか」と問われたため、「すでに様々な個別支援アイテムは出揃っている。それを充実させていくことも重要だが、それよりも、そういった支援策が有機的に連結することを可能にするネットワークが必要だ。それは既存のインターネットシステムを利用しても可能だ」という提案をしました。言うだけでは話にならないので、同時に「Japan Bio Net」というものを立ち上げて運用を開始してみました。一応バイオベンチャー支援が主眼になっていますが、それ以前に「日本人全体でバイオ関連情報を共有化し、それを有効利用するための基盤的システム」としての構築を考えています。このシステムについて何か意見をもらえませんか?システムそのものの存在意義についてでも構いませんし、それを一般に広めていく方法についての提言でも構いません。それこそ、「JBN普及委員会」というチームを作るという提案でも構いません。

Japan Bio Netの概要はこちら(IEに最適化されています)
#会員制です。参加希望の方は僕まで登録希望アドレスを連絡してください。

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ブログでバイオ リレーエッセイ 第10回 「バイオ関連情報を共有化しよう!」【学生社長の会社経営奮闘記】at 2005年12月20日 00:56