2006年04月20日

向こう岸には届かない手紙

昨日は昔うちの会社(って、今の会社じゃないけど)にインターンシップで勉強に来ていた人(今はバイオベンチャーの社員)と、東大の職員と、3人で飲み会。まぁくだらない話ばかりしてきたわけだが(メインテーマは大島での釣りの話)、その中でちょっとまじめな話もした。それは「格差は拡大しているか」「格差は固定化しているか」というもの。で、僕は格差は拡大しているが固定化は進んでいないと思っている(というか、固定化していた格差が徐々に柔軟になりつつあると思っている。ただし、たとえば子供の学力は親の経済力に密接に連関しているとも思っているし、格差の固定化傾向は厳然として存在していると思っている)のだが、別に専門家でもないし、そういう仕事をしているわけでもないのでごくごく限られた範囲を見ての個人的な感想に過ぎない。

で、このことを一所懸命主張する気はさらさらないのだけれど、仕事を通じて思うのはネットスキルの格差。ハードの面を見るとネットスキルの格差は解消する方向に動いているはずなのだが、現実にはそうなっていない気がする。ということで社会の格差ではなくネットの格差についてちょっと考えてみる。

10年ぐらい前はパソコンをネットに接続するのは本当に一仕事だった。なかなか理屈どおりに進まず、あーでもない、こーでもないと試行錯誤して、やっとつながるという状態。その試行錯誤の蓄積がスキルになるような有様で、またウェブサイトも今ほど充実していないから「困ったらとりあえずぐぐってみろ」みたいな理屈も存在しなかった。おまけに、苦労してつながっても異常に遅い回線速度。ISDNが画期的だった時代がわずか10年前というのだから驚きである。で、そんな時代に比較すると今のネット環境のハードルというのは非常に低くなっている。パソコンを買ってきてもまぁなんとなくいじっていればネットにつながる。ワイヤレスLANにセキュリティをかけて、などとなってくるとやはりスキルが必要だが、単に接続するだけであればそれほど難しくはない。

と、ハード側からの初心者へのアプローチは着実に進んでいるのだが、肌で感じることはネット初心者というのは厳然として存在し、またそれが減少する歩みは蝸牛のそれのようにゆっくりだということだ。

僕は1993年ぐらいの、日本人としては非常に早い段階にネットへの接続を始めた人間である。当時の会社は一人に一台以上パソコンが与えられていたし、就職前に所属していた大学の研究室にも98(まぁ、一太郎ver.4を使うためにはディスクを何度も入れ替えたりしなくてはならない代物ではあったけれども)が3台とマック(当時の価格は1セットで100万円以上だったと思う)が置いてあった。その後、色々と会社を変わっているが、どこの会社にいてもパソコンは一人一台以上が与えられている会社ばかりだったし、その中ではほぼ100%の人が、少なくともワードやエクセルは普通に使えるという状況だった。そんなところで10年以上生きてきていのたで、「パソコンが使えるなんて当たり前。使えない方がマイノリティ」などと思ってきていたのだが、仕事の相手がここ数年様変わりしてきて、実はそんなことは全然ないということがわかってきた。そして、ぼんやりと「40代以上とかだと仕方ないとしても、若い人ならパソコンぐらい使うでしょう」などと思ってきたのだが、それも誤解だったようだ。

たとえば、僕はあるクラブイベントのちょっとしたサポートをしているのだが、クラブイベントだから当然運営しているのも参加しているのもほとんどが20代から30代前半の人たちである。そしてこの人たちのネットスキルというのは驚くほど低い。ほとんど使ったことがないという人も少なくない。「え?本当に?」という感じだったのだが、どうもそれが普通らしい。

ネットスキルというのは、多分理系と文系の間で大きな格差があるだろう。また、学歴によっても格差があるんだと思う。勝手に大卒以上のスキルを推測して数値化すると(全然根拠ないですよ。ちなみにパソコンを買ってきて、家でネットにつなぐことのできる人間の割合ぐらいのイメージです)、

大学院理系  90
大学院文系  50
大学理系   80
大学文系   20

ぐらいの感じなのかなぁと思う。で、この割合は意外なほど変わりがないというか、実は格差は拡大の方向にあるんだと思う。それは文系の人たちが下がっているというわけではなく、文系は文系で底上げしているのだが、理系のスキルアップのスピードに劣っているということである。これにはハード側のアプローチが理系の初心者には対応できていても文系の初心者のレベルには対応し切れていないというのもあるかもしれないが、同時に文系の初心者にはそもそもパソコンやネットの必要性が低く、ユーザー側からのアプローチがないというのもあるんだと思う。まぁ、この数値で言えば100で頭打ちになるのだから、ワイヤレスLANみたいな技術革新がない限りは格差は今後減少に転じるはずだが、また新しい技術がでてきて、さらに格差が拡大する可能性も否定できない。

個人的には、みんながネットスキルが高い理系のフィールドよりも、まだまだ利用者が少ない文系のフィールドのほうがネット利用のメリットが大きいと思うのだが、「別に必要ないから」ということであれば「そんなこと言わずに使ってみなよ」と説得する立場にない。ただ「もったいないなぁ」と思うだけである。みんなが利用している中で差別化するのは大変だが、一部しか利用していない状況での差別化は凄く簡単な気がするんだけど。

ところで、こうした状況の中で微妙な役割を果たしているのが携帯である。携帯はネットスキルがほとんどゼロでもインターネットに接続できる。そこで見ることが出来るコンテンツは全コンテンツの5%にも達しないと思う(主観ですよ、念のため)のだけれど、必要最小限の部分には到達できる。パソコンを買ってくる必要もないし、セッティングに時間をかける必要もない。携帯のおかげでネットスキルのない人もネットに接続できるようになった。これはプラスの面。ところが同時に「携帯で十分だから、これ以上は不要」と思う人も少なくない。おかげでネットスキルの格差は硬直化している。

この状況を寿司屋で表現してみると、携帯は回転寿司である。寿司の雰囲気は手軽に味わえるし、もちろん寿司を食べることもできる。昔は「所詮回転寿司」だったが、最近は寿司自体のクオリティも徐々に上がってきていて、「これが回転寿司なの?」という店もあったりする。しかし、「回転寿司は回転寿司」であって、カウンターで食べる寿司屋との間には越えられない壁がある。壁はあるのだが「回転寿司だって十分美味しいじゃん。別に高いお金を払って高い寿司を食べる必要ないよね」という意見ももちろん一つの見識だ。結果として、良い店で食べている人たちは基本的に良い店で食べ続け、でも店が休みの時には回転寿司に立ち寄る。いつも回転寿司で満足している人たちは滅多にカウンターの寿司屋などにはでかけない。まぁ、こんな状況なのではないかと思うわけである。それで、回転寿司専門の人に「とりあえず八重洲の吉野鮨か築地の寿司清にでも行こうよ」という気はないのだが、一方で回転寿司だけで寿司を語るのもどうなのよ、と思うわけである。

たとえば宅急便とかもネットを使えるのと使えないのとでは便利さに大きな差がある。銀行や郵便局の振込みだって同様だし、まぁ身の回りのサービスの多くは徐々にインターネットに適応しつつあって、新しいサービスの開発もネットを利用していることを前提としているケースが少なくない。そういった環境の中で、ネットスキルの低い人たちは本人が知らないうちに情報敗者になりつつあると同時に一般的なサービスの受益想定層からもはずされつつある。今は絶対的な必要には迫られていないが、このまま行くといつの間にか大きな差がつきかねない。もちろん、どこかのフェイズで「やっぱり必要だから使ってみよう」と思うかもしれないし、そのときはさらにハードルが低くなっていて、アプローチすること自体は容易になっているかもしれない。しかし、そういう決心をするまでに使ってしまった時間はもう取り戻せない。「あぁ、こんなに便利だったんなら、もっと早くから使っておけば良かった」と思っても後の祭りである。

僕個人で言うとカーナビがこんなものだった。カーナビを手に入れる前の僕の考えは、「たとえば週に1度車で出かけるとする。一年間で50回。この際に必ずカーナビを使うとすると、年50回の利用。そのカーナビの減価償却期間を5年と想定すると、その間に利用する回数は250回。カーナビの価格を25万円とすると、一回あたりの費用は1000円。一方で本屋でマップルを買ってくれば数千円。つまり、費用対効果を考えれば一ヶ月に一冊地図を買っているような計算。これでは買う気にならない」というもの。しかしまぁ、実際に車にカーナビをつけてみればこれがなかなかに便利なんですな。運転していて、「あぁ、ラーメンでも食べようか」と思うと、まずネットで近所の評判の良いラーメン屋を探す。「ここがいいね」ということになったらその電話番号を入れれば大抵の場合、データベースに登録があってすぐに経路情報が提供される。仮に電話番号の登録がなくても、住所を入れればほぼ間違いなく目的地に到達できる。その店が美味しい保証はもちろんないけど。一回あたりの費用が1000円というのはまぁその通りなんだけど、地図は利用方法が「地図を見る」に限られてしまう。当然だけど。ところがカーナビというのは地図を見るということ以外の利用方法が色々あって、地図以上の利用価値があるわけですね。あぁ、なるほど、と、カーナビを使ってみて初めてわかったわけです。これは利用者からいくら説明を受けても実感できないわけで、どこかで「実際に経験してみる」というフェイズが必要になる。

ということで、そろそろ「パソコンのネット環境なんて別に必要ない」とは言い切れない状態になりつつあると思うのですが、いかがなものですかね?って、こんなことをここに書いても、これを読む人のほとんど全員がすでにこちら側の人々で、向こう岸の人々には届かないわけですが(笑)。

この記事へのトラックバックURL

この記事へのコメント
カーナビのメリット良くわかりました。住所で道順までわかってたどり着けるのは良いですね。東京はいっつー多いし。
ネットスキルって言葉はむつかしいですね。ネットから情報を得て咀嚼できる程度度合いって感じなんだろうけど、客観的に表現しづらい。スキルがある人は?ない人は?どうすれば上達する?何をもって上達とする?
スッキルしないですね〜^^。
Posted by べんちゃ at 2006年04月21日 09:57
ネットスキルといっても別に難しいことはなくて、インターネットに接続できて、そこから目的としている情報を取り出すことができる、ぐらいの意味です(^^
Posted by buu* at 2006年04月21日 17:34