2006年04月29日

地域SNSに自治体が安易に参入すべきではない

現在、地域SNSには大きく分けて2つの流れがある。1つは民間主導のSNS。もう1つは公的機関主導のSNSである。

株式会社ライブログが運営しているBayNetやSWAN NETはもちろん前者となる。全国的に見ても数自体は民間が運営している地域SNSの方が多い。しかし、一般に「地域SNS」を論じる場合、民間主導の SNSとほぼ同格で公的機関主導のSNSも取り上げられることが多い。この公営SNSの代表例が八代市の「ごろっとやっちろ」である。数自体はまだそれほどでもないが、官営地域SNSの存在感は小さくない。

総務省は地域SNS設置の動きをいち早く察知し、「官営SNS」の実証実験を開始している。それは長岡市や千代田区で行っているものだが、こうした動きを民間企業として無視できなくなってきている現実がある。

この代表的な例が川崎市で展開されている「かわさきソーシャルネット」である。ライブログが展開しているBayNetは横浜中心の地域SNSを謳ってはいるが、実際には川崎、横須賀、湘南、三浦といった地域を内包しており、事実上神奈川県東部のSNSである。そのテリトリーの中に官営SNSが競争相手として存在していることになる。

SNSの設置目的は多様だが、実際に運営してみてわかるのは、その利用方法を運営側でコントロールすることは非常に難しいということだ。あくまでも主体は利用者であり、その方向性を決定付けるのも利用者である。結果として、地域SNSの特色とは「どこの地域を対象としているか」と、「どんな人が参加しているか」に帰着される。換言すれば、「基本的に運営は誰がやっても同じ」ということになる。

では、その地域SNSは民営でやるべきなのか、官営でやるべきなのか、ということになる。小さい政府を標榜し、「民間のことは民間で」が常識になりつつある現在、ビジネスとして成立する限りはその運営は当然民間に任せるべきである。では、「ビジネスとして成立するかどうか」のボーダーラインはどこにあるのか。

ライブログはこれまでに5を超えるSNS(BayNet(横浜の地域SNS)、SWAN NET(志木市、和光市、朝霞市、新座市対象の地域SNS)、Skix-SNS(ウィンタースポーツ専門SNS)、Japan Bio Net(バイオテクノロジー専門SNS)、民間企業の社内イントラSNS等)を運営してきているが、その経験からはじき出される数字は「参加者500人」というものである。この数字を超えることが可能であれば、ビジネスとして十分に成立する。ただ、ここで注意が必要なのは、単に人数では割り切れない部分もあるということである。要はアクティブユーザーがどの程度いるか、という話であって、社員が10人に満たないSNSでも全員が当事者意識を持ってきちんと情報発信しているのであれば、SNSはきちんと機能する。これはいささか極論ではあるが、SNSが機能するかどうか、商業ベースで成立するかどうかはあくまでもアクティブユーザー数による。

では、500人の参加者を集めるのに必要なベースの人口はどの程度か、ということになるが、参加率をやや低めに0.1%とした場合(実際にはmixiの参加者が400万人として、日本の総人口を1億2000万人と設定すると、潜在的利用率は約3%程度とも考えられる)、その対象地域の人口は50万人となる。つまり、50万人都市であれば十分に商業ベースに乗るし、場合によっては2万人程度のスケールでも成功の可能性があるということになる(もちろん、その都市の人口の構成年齢にもよる。SNSは明らかに20代の若年層に受けが良い)。

さて、話を川崎市に戻すと、現在の川崎市の人口は約130万人である。川崎市は東西に長い市なので、大まかにJR・東横線圏と田園都市線以西圏に2分類したとしても、各地域の人口はそれぞれ50万人以上を見込むことが出来る。つまり、先導的立場となって「川崎の地域SNSを運用していきたい」と考える個人、あるいは団体が存在すれば(この仮定は非常に重要ではあるのだが)、明らかに商業ベースに乗るのである。しかし、そうした個人が現れる前に川崎市では官営地域SNSが運用されてしまった。民間企業が参入しにくいのは言わずもがなである。

ちなみに現在のかわさきソーシャルネットは「かわさき・ソーシャルネット運営委員会」が運営していることになっているが、入会画面ではこの「かわさき・ソーシャルネット運営委員会」がどういう団体であるか明示されておらず、また個人情報の管理責任者が誰なのかといった記述もない(2006年5月1日現在)。どういった体制なのかは外からはうかがい知る事ができず、本当にこのサイトが官営SNSなのかについては確証がない。もし万一かわさきショーシャルネットが官営SNSでなかった場合にはお詫びするとともに文章を修正する。

総務省は地域SNSを実験と称して複数の地域で展開し、さらに拡大を図ろうと考えているようであるが、安易な地域SNS導入はすぐに民業圧迫に直結する。地域SNSの標準となっているopen gorottoを開発した小林氏と意見交換した際、小林氏は「すぐに民業圧迫と言われる」と発言したので、僕は即座に「でも、民業圧迫になるケースも少なからずありますよね」と指摘しておいたが、民業圧迫にならないための一定の基準は当然必要だ。すでに民間企業が地域SNSを展開している地域に官営地域 SNSを投入しないのは当然として、地域SNSが現在存在しない地域においても、民営の地域SNSが投入される可能性はないのかを事前検討するのが大前提となるはずである。上で試算したように、人口50万人を超える地域であればその時点でまず民営の道を探るべきだ。少なくともライブログは「運営したい」という人が存在するならいつでも協力する準備がある。

公務員が公的リソースを利用して地域SNSを運用する、あるいは地方自治体と密接な関係にある企業・NPOなどが補助金を得て地域SNSを運用する、といったことについては非常に慎重であるべきだ。自らを安全な場所に置きつつ地域SNSを運営し、地域に芽生えつつある新産業の芽を摘むということが長い目で見てその地域のためにならないことは明白なのだから。

この記事へのトラックバックURL