2006年06月03日

ブログでバイオ リレーエッセイ 第19回「ベンチャーは若者のもの」

このリレーエッセイも大分長くやっているおかげで、そろそろ「読んでますよ」とか「楽しみにしてます」といったメールをもらえるようになってきました。反響があるというのはなかなかうれしいものです。さて、前回のエントリーはこちら。

ブログでバイオ リレーエッセイ 第18回「食品系バイオベンチャーは救世主?!」
まずはmaruさんのエントリーに対するコメントです。

日本はやっぱり植物関係(農業関係)、微生物関係(発酵など)が昔から強い国なんです。医療関係をみればアメリカに勝てるというイメージは僕の中ではなかなかわきませんが、植物、微生物の分野では農耕民族である日本人なので、勝てそうなイメージがわいてきます。
なるほど。実は、僕はオールドバイオに近くなれば近くなるほど、「テクノロジーによる効率化」が難しいと思っていて、結局は力仕事に頼らざるを得ないのかな、それだと人件費の安い中国にかなわないよな、と思っています。組み替え技術をうまく利用できれば良いのですが、日本人は組み替えに対するアレルギーが強いので、なかなか難しい気もしています。

バイオマスエネルギー関係の環境バイオベンチャーなどができてきて上場し、この業界を騒がせると面白い
確かにそうなんですが、残念ながら日本人の環境に対する意識はまだまだ低いですよね。昨日もクールビズのイベントがあったようですが、どうも環境への配慮というより新しい市場の開拓というイメージが先行していた気がします。また、環境に対してお金を払うというマインドもほとんど醸成されていないと思います。バイオマスや環境バイオなどのベンチャーが出てくるためにはまず市場が必要ですが、日本はこんな感じですし、それ以上に米国は環境に対する意識が低いようなので、このままでは前途多難だと思います。

本物の商品と偽者の商品の見分けることが困難なことも事実です。
本物と偽者、とデジタルに考えられないのが食品の難しいところですね。例えば納豆を食べていると体に良いような気はしますが、納豆だけ食べているわけじゃないし、またそういう極端な食生活を実現して納豆の効果を確認することも困難です。「本当に体に良いんですか?」と聞かれると返答に困ってしまいます。また、トクホひとつ取ってみても制度上なかなか難しいところがあります。 「おなかの調子を整える食品」と「歯を丈夫で健康にする食品」とを同じ土俵で並べて評価するのはどうしたって無理があります。例えば「どちらが歯を丈夫で健康にするか」を評価することはできると思うのですが。だから、一口にトクホと言っても、トクホの効用が13種類あるなら、それぞれ効果が違うはずで、認定をとりやすい、とりにくいというのもあるはずです。消費者側で考えなくてはならないことが多い制度だと思います。

この答えは「消費者の認知度向上」と「機能性食品の制度化」および「機能性食品の研究手法の確立」ではないでしょうか。
ふむ。結局いつもここに落ち着くんですよね。「重要なのはバイオに関する教育である」と。これには全く異論がないのですが、いかんせん文科省がやる気を見せないのでどうにもなりません。企業に補助金をつけるときは、その金額の5%を教育に費やすこと、とか、何らかの縛りが必要かもしれません。ところがこういうことをやると、今度は補助金を取る会社と教育をやる会社の間で癒着が生じたりするのですが・・・・。

食品というのは薬と違って作用が緩やかだし、日常的に摂取しているものが少なくないので、それを上手に評価するのはなかなか難しいです。まぁ、何はともあれ、市場は必ずあるんですから、食品系のバイオベンチャーにもがんばってもらいたいですね。

さて、続いてmaruさんからのパスを受けましょう。

ITベンチャーの社長よりもバイオベンチャーの社長は平均年齢が約30歳も高い。つまり、平均35歳に比べて65歳になるのがバイオベンチャーです。
僕も経済産業省にいたときにバイオベンチャー統計の整備を担当していたので、ある程度のことは知っていたんですが、平均年齢が65歳というのはただただ驚きですね。同時に、「これじゃぁ日本は駄目だ」とも思います。

「バイオベンチャー経営者の高齢化問題」と題してパスを出そうかと思います。ぶうさんはこの問題に対してどう考えていますか?
いきなり過激に断言しますが、ベンチャー企業の社長は「高齢者」というだけで×だと思います。はっきり言って高齢者は、特に日本の高齢者はお呼びでないと思います。なぜか。

#念のため書いておきますが、あくまでも「ベンチャー」です。「中小企業」とは違いますので、その点誤解のないようにお願いします。それから、「高齢化」ではなく、「最初から高齢」ですね。細かい話なのでどうでも良いですが。

まず、ベンチャーの社長にはベンチャーのマインドが求められます。それはチャレンジ精神でもあり、強靭な精神力でもあり、責任感でもあり、目的意識でもあります。こうしたマインドは練習して身につくものではなく、生まれながらにして持っているものだと思います。そして、こうしたベンチャーマインドを持っている人は、恐らく大企業や大学、役所などで定年間近まで働いていたりはしないはずです。ところが、なぜかバイオベンチャーの社長をやりたがる人は大手製薬企業を定年になった人とか、大学の教授を退官した人とか、そういう人が多かったりします。もうすでに適材適所じゃないんですね。

問題になるのはこうした精神面だけではありません。それは高齢者には残された時間が少ないということです。65歳というのでは、健康余命は長く見ても10年でしょう。バイオベンチャーの場合、株式公開まで短くて5年、今は公開の基準が大分厳しくなっていますから、これからは平均すると10年ぐらいはかかるんじゃないかと思います。そして、当然のことながら株式公開はゴールではありません。創薬ベンチャーであれば薬が完成してなんぼのものです。それまでに必要な時間は15年程度になります。こう考えると、実際に成果が出るのを見届ける前に高齢者の社長は一線から退いてしまっているわけです。となると、もう会社設立時から退場を念頭に入れた社長人事ということになります。もちろん社長を2、3年でどんどん変えていくという手もありますが、ちゃんとした後任がうまく育成できる保証もありません。それなら最初から若い人材を社長として登用し、長い先を見据えた経営を目指すべきだと思います。

また、次のような視点からも高齢者社長というのはいただけません。バイオベンチャーはセンミツと言われます。センミツとは、1000社創業したら3社が成功する、という意味です。つまり、997社は失敗に終わるわけです。しかし、「失敗した」ということはネガティブな要素だけではないはずです。なぜ失敗したのか。それを目の前で見ていた人間なら、次に必ずそれを活かすことができるはずです。30代の社長なら再起もすぐでしょう。ところが、65歳の社長が失敗したら、それでオシマイです。ということは、そこで展開された活動と、「失敗」につながった経験は全く活かされないことになります。まさに無駄死にですね。ここではよりわかりやすく失敗をとりあげましたが、もちろん「成功を収め、短期間でそのベンチャーを卒業した」という場合においてもやはりその成功経験は次に活かされないことになります。

これは卑近な例で言えば、ドイツワールドカップにカズやゴンや秋田といった超ベテランばかりをごそっと連れて行くようなものです。試合を戦うことはできるかもしれませんが、では2010年の南アフリカ大会はどうするのか、ということになります。現在を戦うことだけ考えて次代のことを考えなければ、現有資産を食い潰すだけで将来はありません。

僕の場合、大企業、公的研究機関(理化学研究所。各種統計では大学等に分類されることが多い)、中央官庁、バイオベンチャーと4つの場でそれぞれ勤務したことがありますが、当然のことながらバイオベンチャー関連の知識や経験はバイオベンチャーで得ることが多かったですし、またその多くはそこでしか得られないものでした。今こうやってバイオベンチャーについて語っているのも、また大学でバイオベンチャーの講義をするのも、そうした経験があるからです。さまざまな経験は確かにあるにこしたことはありませんが、ことバイオベンチャーの経営ということに限れば、大事なのは安定した組織の中での経験ではなく、「ベンチャー」という特殊な場での経験だと思います。そして、この視点から考えれば若者も高齢者も立場はほとんど変わらないはずです。だから、同じ経験不足なら将来のある若者を使ったほうがずっとメリットがあるはずです。

僕は職業柄、色々なところでバイオに関係する55歳前後の人と話をする機会があります。そして、その中にはバイオベンチャーの経営に対して興味を持っている人も少なくありません。しかし、彼らにとっては多くの場合、バイオベンチャーとは単なる「再就職先」です。「今の会社を定年になったらやることがない。いる場所がない。じゃぁ、ベンチャーでもやるか」みたいな感じですね。でも、こんなマインドでベンチャーの社長なんかをやっても絶対に成功しないと思います。上にも書きましたが、そんな年齢まで大企業にいて平気だった人にはベンチャーマインドなんてありませんし、そこでの経験もバイオベンチャーではほとんど役に立ちません。豊富な人脈などはベンチャーキャピタリストが提供してくれますから必ずしも社長本人が持っている必要もありません。否定的なことを書き連ねましたが、もちろん、若手の社長の知恵袋としてベンチャーを陰で支えることはできると思います。そういう裏方をやるなら大歓迎ですが、なぜか表に出たがるんですね(^^;

僕やmaruさんのように大企業を退職してしまったり、若いうちに起業してしまった人間には、大企業の社長や中央官庁の幹部というキャリアパスはまず間違いなく存在しません。それと同じ理由で、大企業や大学に定年近くまでいた人間にはベンチャーの社長というキャリアパスは存在しないはずです。

ところが、なぜかそれが存在してしまっているのが今の日本ということですね。日本のバイオベンチャーが駄目なのはもしかしたらこのあたりに病巣があるのかもしれません。高齢者を社長に据える理由もわからなくはないのです。「経験があるから」「人脈があるから」「昔世話になったから」「昔大きな成果を挙げた人だから」といったところがすぐに思いつくところです。しかし、経験も、人脈も、成果も、時間があれば手に入れることができます。あとから補充できるわけですね。ところが、時間は補充がききません。つまり、高齢者の社長には決定的に補えないものが存在してしまっているのです。このことは恐らく多くの投資家もわかっていることだと思います。わかっているのに改善できないのはなぜか。最大のものは、数億円、あるいは数十億円にもなるお金を任せることのできる人材が存在しないということだと思います。存在しないならどうしたら良いか。これはもう、育成するしかないわけです。

ということで、僕は今、首都圏バイオ・ゲノムベンチャーネットワークという組織の中で「世代交代」の必要性を訴えています。そのためには、まず「バイオベンチャーの社長をやりたい」という熱意がある人材を見つけ出し、社長人材として育成していく必要があります。今の段階で「本当にそんな人がいるのだろうか」と心配している人もいますが、いなくちゃ困るでしょう。そもそも「社長になりたい」と思っている若手がいないというなら、もう日本のバイオは駄目だと思います。本当にいないというのであれば、今のジリ貧でもあきらめもつきます。でも、何もやらないうちから諦めるのは最悪ですね。

今年度中には何らかの形で社長人材を発掘できるような事業を実現したいと思っています。バイオベンチャーの幹部として日本のバイオを引っ張って行きたいという強い意欲を持った、20代、30代の人を探したいと思っています。maruさんの周りには若手のバイオ人材がたくさんいますから、是非協力していただければと思います。

さて、今回のパス出しですが、今回僕が書いたことに対しての、僕よりも1世代も若いmaruさんの忌憚のない意見を書いていただきたいということと、社長人材の発掘に関するアイデアなどを出してもらえたらと思います。

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おはようございます! ブログでバイオリレーエッセイもなんと20回を迎えました!! すばらしいですね!継続は力です。って何の力か分かりませんが とにかくなんとなくですが、がんばってるって感じがします。 そして、まずいつもどおりのお詫び。 大変遅くなって....
ブログでバイオ リレーエッセイ 第20回「若者がチャレンジできる土壌を!」【20代バイオベンチャー社長の会社経営奮闘記】at 2006年07月13日 09:33