まず、僕が書いた一連の記事はこんな感じ。
今日の朝日新聞朝刊の中村桂子さんの「私の視点」について
補足しておきます
何気なく書いたら結構反響があってそれはそれで驚き
中村桂子さんからのコメントとそれに対する返答
和田さんのコメント
さて、順を追っていくつかのブログにコメントしておこうと思うのだけれど、まず「5号館のつぶやき」さんの「過去から見たタンパク3000、横から見たタンパク3000」というエントリー。
元木さんの書かれたものは、普段我々には見えてこないところから見たバイオ予算の決まり方がストレートに書かれたものとして、私には衝撃的なものでした。
衝撃的と言われてしまうことが「えーーー、本当に知らなかったの?」と逆に衝撃的なのですが(笑)、つまりは一般生活者ではなく、アカデミックな場にいる人ですらこういう状況だということですから、日本の情報公開が如何に偏っているかがわかるというものです。早く一般常識となることを祈るばかりです。
もしも、何年経ってもこのプロジェクトの周辺から人が育ってこないことが明らかになったとしたら、この著者の方はタンパク3000プロジェクトを全面否定することになるような気がします。
ところが、残念ながらその頃には責任者達はもうすでに土俵の上にはいないんですね。
こんなに素晴らしい批評家がたくさんいる、ブロゴスフェアをもっともっと積極的に意見収集の場として利用していただけると、日本の科学政策も変わるような気がする、素晴らしい論争が展開されている気がします。
楽天的すぎますか?
正直なところ、楽天的すぎると思います。評論家はいくらたくさんいても世の中は変わりません。世の中を変えていくのはあくまでも実務者です。「私は言いました。あとはよろしくお願いします」って、誰にお願いするのやら。意見が正しいのであれば、それをどうやって力に換えていくのか、そのあたりを考えなくてはいけないはず。「このままじゃ駄目だ」という意見は別に今に始まったことではありません。単に、それを力に換えていける人がいなかったからです。そして、「誰か現れないかな」と期待しているだけだったわけです。
僕が三菱総研から経済産業省に転職したとき、同僚と飲んでいて「三菱総研では評論家でも良かったでしょうが、経済産業省では評論家では困ります」と言われました。この一言に良い意味での官僚の野心が表現されていると思いますし、僕もその通りだと思いました。もう25年も前にこんな歌もありましたね。
誰が悪いのかを言い当てて
どうすればいいかを書き立てて
評論家やカウンセラーが米を買う
迷える子羊は彼らほど
賢いものはいないと思う
後をついてさえ行けば何とかなると思う
見えることとそれができることは
別物だよと 米を買う(中島みゆき「時刻表」)
このエントリーにはコメントもたくさん寄せられていてなかなか面白いです。
続いて「地獄のハイウェイ」さんの「タンパク3000の徒花の陰に隠れて」というエントリー。
このエントリーではBERIについて書かれていて、「そういえば中村春木さんのところにも行ったなぁ」などと昔を思い出すのだけれど、それはそれとしてどこがポイントだと思うかと言うと、このエントリーの本題とは少しずれたところなのだけれど、
ところがBERIは経産省系列ということもあってか、
文科省のタンパク3000からはまとまった支援を受けることはなかった。
ここなんですね。以前のエントリーのどこかでも書いたけれど、こういう縦割り的なところが日本の科学行政ではそこここで見られてしまうんです。省庁の縄張り争いによって、国家としての研究体力が損なわれているわけです。この件については僕もちょっと官僚という立場で努力したことがあったのですが、とてもじゃないですが太刀打ちできませんでした。トップダウンで解決するしかないのか、と思い、総合科学技術会議に期待しましたが、それもどうやら無駄だったようです。せめて分野で縦割りにするのではなく、フェイズで横割り(基礎研究は文科省、工業的実用化は経産省、薬品開発についてはフェイズ1以降厚労省、食品開発については開放系以降農水省とか)にできればと思うのですが、これも過去からの歴史があって難しいのでしょう。「各省で競い合って」という考え方もあるかとは思うのですが、国としての力が米国に比較して圧倒的に劣っている現在、国内で競争して力が分散してしまうよりは、一致団結して戦っていかなくては駄目だと思うのですが、まぁこれは個人的かつ評論家的な意見ですね。どうしたら良いのかは皆目見当がつきません。
続いて同じブログの「タンパク3000について」というエントリーについて。
こちらでは倉光さんの「高度好熱菌 丸ごと一匹 プロジェクト」などが取り上げられていてそれはそれで懐かしいのだけれど(これは今も粛々とSpring-8などで続けられているはず)、それはそれとして僕が「ふむ」と思ったのは
タンパク3000の成果は生かし方次第で捨てたものではない
の部分。「和田さんのコメント」のエントリーでも書いたけれど、理研(というか、日本)は基礎研究の産業化が上手ではない。「生かし方」が非常に重要というのは共通認識だと思うのだが、それが本当にできるのかどうかというと正直微妙だと思う。
続いて、「日々是好日」さんの「タンパク3000プロジェクトとB29の絨毯爆撃」というエントリー。
このエントリーの内容は個人的に非常に素晴らしいと思う。僕が何かコメントするような内容ではないので、「まぁ、まずは読んでみて」という感じである。その上で一つだけ書くとすれば、
今、目に見える限られた範囲では、「タンパク3000」の事業としての側面は容易に見えるが、科学研究の側面が見えにくい。見えにくいところをも見えるようにするためには、第三者による徹底的な事後検証というか、事後評価が行われるべきであると思う。578億円の出費の中には、今の今、その効果を期待できないものの、5年後10年後の大木を育てるようなものがあるのかも知れない。昔は良い意味で『ボス』がいたものである。自分の裁量で研究費をさらに将来有望なる若手研究者に投入する。支出名目はどうでもよい(なんて云うと、今どきの国会では大変なことになりそうであるが)、たとえ年間200万でも300万でも何年か投入し続ける、その様な使われ方が隠されていたりするとそれは面白い。
この提案に対して、僕たちや、僕よりも若い世代の人たちが当事者として何をやっていけるのか、だと思う。少なくとも、ブログで評論しているだけでは駄目なはずである。
続いて「月丸の庭」さんの「ちょっと見方を変えて」というエントリー。
見方を変えた擁護論、ということなのだけれど、特に変わっている感じもせず、普通にさらっと「そうだよね」という感じである。さて、
私には、このプロジェクトはヒトゲノム計画で存在感を示せなかった日本の生命科学の底上げを狙ったものではないか、とさえ思えてくる。
っていうか、そのものだと思うのですが(^^; まぁ、背後には当然色々あるんだと思います。折角作ったNMRパークをどうやって使っていくのかを考えたとか、ゲノム計画で折角良い提案をしたのにそれをポシャらせてしまった行政が和田さんに対して贖罪したとか、タンパク研究を地道に予算化している経産省に対抗したとか・・・。でもまぁ、その根底には「ゲノムの借りをタンパクで返す」ってことだったんだと思います。それで、それが今はトランスクリプトームになりつつあるわけですが(笑)。
問題にすべきは、後に何が残ったか(残りそうか)ではなかろうか。
全くその通りなんですが、今の僕の考えは、「今までの実績を考えると、あんまり残らなそうだよね」というものです。どうやって生かしていくか、これを考えて実行に移していくための実務者の姿が見えてこないんです。
#もちろん、もしかしたらたくさんいるのかもしれません。僕は今はITが軸足ですから、見えないことも当然たくさんあります。僕の危惧が部外者の杞憂であれば、それはそれでハッピーです。
他方、日本発のソフト・ハードの開発があれば後世への波及効果が見込まれる。
そういえば、理研では林崎さんがRISAというシーケンサーを作りましたが、なぜか榊さんのゲノム解読チームではこれを使わずにABIを使っていたと思います。謎だ。
NMRは日本電子製
線材は・・・・・・あれ?これってオープンにしちゃいけないのかな?守秘義務が良くわからないので書かないでおきます(^^;
結局、今出ている意見の多くは費用対効果の観点からなされており、図らずも財務省のお役人のような見解になってしまっているように思われるのが残念である。
うーーん、僕は決して費用対効果みたいな話はしていません。僕が残念なのは、皆さんのスタンスが評論家であることです。20年以上この業界を見てきていますが、「これでは駄目だ」という人は当然ながら山ほどいました。今はブログがあるおかげで意見が顕在化しやすいだけです。問題なのは、「変えていく」と行動に移せる人がいないことです。
多比良グループが蕩尽した15億のお金よりは実のある使われ方をされたはずだ。
僕は元多比良研の人と今でも時々仕事を一緒にする機会がありますが、優秀です。多比良さんを正当化する気は毛頭ありませんが、比較する話でもないかな、と思います。
続きまして、「大学の窓から(北海道大学一教官のブログ)」さんの「噂では聞いていたけど」というエントリー。
世間を知らないだけだからなのでしょうか、もしトップダウン型の研究が上京して陳情するというスタイルで決まっていくのなら北海道なんてたまりません。
基本的には先に紹介した「日々是好日」さんのエントリーに書かれていた
研究者にとって研究費獲得は至上命令なのである。金額の多寡に応じて、攻める相手は異なってくる。私の限られた経験ではあるが、百万から千万円程度なら学会の『実力者』を頷かせられたらなんとか行くものだ。しかし億を超えるとそうはいかない。文部事務官であるお役人が目に見えるターゲットになってくるし、それ以上になると『政治』がからんでくる。
という部分が参考になると思います。この機会に世間がわかったので良かったのではないでしょうか。ちなみに経産省の場合、北大のキャンパスのすぐそばの、札幌駅徒歩5分のところの合同庁舎に経産省北海道局があります。ここの方々が経産省のサテライトとして情報収集に奔走していますので、何かあれば相談すると良いと思います。文科省の情報収集スキームはちょっとわからないのですが。あ、ちなみに経産省系になると文科省の風当たりはきつくなります(笑)。
npの日記さんのエントリーにも言及しようと思ったのだけれど、TBできないようなのでとりあえずパス。
続きまして「大安亭記文:浮惑記 in 朝風呂」さんの「生命科学分野での大型プロジェクト」という記事。
ただ、ここにも書かれているけど、雇用維持という側面もあるんだよねぇ。ポスドク問題ではないけど。
研究者の雇用というのは非常に難しい問題です。僕が経営者としてこれまで見て来た人たちは、どれもこれもそこそこに立派な大学(東大、東工大、早大、筑波大・・・・)の博士を持っている人たちでした。肩書きは立派なんですが、どの人も「研究者」としては能力があっても、「研究者として食べていく」能力がありませんでした。「好きな研究だけやっていられれば、多少給料が安くてもオッケー」みたいなスタンスがだんだん許されなくなってきていて、「好きな研究をやりたければ、実力を示せ」という、欧米型競争社会の思想が研究の場でも導入されてきているわけですが、そういう社会において勝ち抜いていく能力が決定的に欠けていると思います。
そもそも、「好きな研究をやる」というのは研究者として最大の贅沢であるわけで、それを実現できるのは本当に限られた人です。大企業に就職したらまず実現不可能です。経営サイドから見るとこれが現実なんですが、研究者のスタンスから見るとこれは「ささやかな願い」みたいな感じなのかもしれません。このあたりの齟齬があるとすれば、立場の弱い研究者の側にとばっちりが行くのは明らかです。
そうした現実を前にして、競争慣れしていない研究者が次々と職を失って社会に放り出されたらどうなるのか、非常に心配です。ただ、経営サイドからすると、そういう人材はなかなか使い難いんですよね。どうしたって競争能力がある人を優先して採用してしまいますから。大学サイドはそういう現実を大学に入った時点できちんと学生に教え込んで、学生は大学で何を勉強しておくべきかを理解しておかなくてはいけないと思います。
すでに大学を出てしまって大変な人たちをどうするか。これについては僕は何の回答も用意していません。先日、あるところでバイオ系のベンチャー社長と飲んでいたときに「ポスドクの自殺率、行方不明率が非常に高い」という話がありました。死ぬ気になれば色々やれることがあるはずなのですが、こういう考え方自体がすでに強者の論理なんでしょうね。これについてはリバネスの丸さんなども含め、今後色々とアイデアを出していきたいことろです。
#そういえば、ブログでバイオシリーズ、しばらく停めちゃってるな。そろそろ再開しようっと。
さて、蛇足的に今後について。何度も書いているけれど、僕はもうバイオに軸足がない。ただ、これも何度も書いているけれども、バイオに対して評論家としてのスタンスは取りたくない。何か思うことがあれば、微力であっても努力し、一定のインパクトを与えたいと思っている。今僕がバイオについて実施している活動は3つあるのだけれど、1つは顧客との関係があってオープンにできない。もう1つは大学の講師なので、ブログを読んでいる人にはあまり関係がない(あ、どこかで講師に雇いたければやりますよ(^^)。3つめは以前ライブログで運営していたバイオ関連のポータルとSNSの運営会社のサポート。今後一番インパクトを出せそうなのはこの最後の奴である。
バイオインダストリー協会が放っぽり出してしまったのを回収したのが今年の1月。それをベースに株式会社を立ち上げたのが3月末。ふらふらしつつも一応ポータル部分とSNS部分の運用が進んでいる。
株式会社バイオクオリ
バイオポータル:バイオエンカウンター
バイオ関連SNS:バイオエンカウンターSNS
僕はこの会社の取締役という立場。会社の目論見は「バイオ関係者のネットワーキングを進め、情報を共有し、日本のバイオの体力を増強していくというもの。本来は公的なところでやっていくべき話だと思っていたのだけれど、文科省と経産省の縄張りとか、経産省の中でも地方局同士の縄張りとかがあって話が全然進まないので、もう面倒だから民間でやっちゃえ、ということになってしまった。まだまだ耕している段階で、種すら蒔いていないというのが正直なところなのだけれど、ポテンシャルはあると思っている。なので、「一緒に何か変えて行きたい」とか思う人がいれば会社の人として迎え入れる用意があるし、またSNSに入りたいという人がいれば、このコメントにメアドを書いてくれれば招待状を送ります(現在は完全招待制、メアド入りのコメントは公開しません)。