2007年08月27日

ちょっと見かけた博士

色々な講演会で「博士がどのくらいのレベルか」という話をしてきているのだけれど、同じ話を何度もしてきているので、面倒だからブログに書いておく。というか、昔書いたと思うのだけれど、見つからない(^^; もう随分前の話なのでディテールは色々違うと思います。また、分かりやすく簡略化もしてます。でもまぁ、アウトライン的にはこんなものだと思います。いや、あんまり自信はないんですが(^^;

#メールでお知らせした人もいるかと思います。「これでしょ」っていうのがあったら是非返送してください(笑) なお、その内容を受けて下記の内容は変更される可能性がありますのであしからず。

あと、最初に書いておきますが、これは個人攻撃が目的ではありません。また、これが博士の平均であるとか、そういう主旨でもありません。あくまでも、ある博士達はこんな感じだった、ということです。もちろん、僕があちこちで見てきた博士の中には非常に優秀な方々もたくさんいました。あくまでもちょっと見かけた事例の列挙です。

その1

【与えた課題】
下記のような[濃度]-[評価陽性個体]の散布データがある(薬剤Aを10段階の濃度で同数の動物個体に投与したときに反応が見られた個体数をカウント)。

 1 -
 2 ***
 3 ******
 4 ****
 5 *
 6 ****
 7 ******
 8 *******
 9 **
10 -

このデータでは二つのピークが見られるため、薬剤濃度を指標として動物個体をA群とB群に分けて実験を進めることとした。その際、感覚的な閾値ではなく、数学的な閾値を決定し、その閾値周辺の個体は以後の実験で利用しないことにした。そのための閾値を決定して欲しい。

【出された回答】
データを見ると、2〜5と、5〜9に活性があることがわかる。そこで、5〜9の活性の中心を求めた。平均を取ると(5×1+6×4+7×6+8×7+9×2)/20=7.25となるので、今後採取するデータは7.25を閾値とし、0−7.25で反応のあったものをA群、7.25以上で反応のあったものをB群とする。

【回答をした人】
博士3名で相談の上、出されたもの。

【その時のやり取り】
「では、7.25より下はA群、上はB群ということで今後実験を進めて構いませんか?」「はい」「でも、6はB群ですよね?」「そうです」「7.25を閾値にしたら、6はA群になってしまいませんか?」「そうですね」「では、その手法は間違っているんじゃないですか?」「いや、でもここは平均を取って決めないと」「では方法は間違ってないのですか?」「間違ってません」「でも、一番最初に『2〜5と、5〜9に活性があることがわかる』って、自分で閾値を5に設定しているんじゃないですか?」「いや、でも、数学的に決めろと言われたので、平均を取りました」「平均を取ることの意味って、分かってますか?」「・・・・・」


その2

【与えた課題】
ある薬剤Bについて、下記のような[濃度]-[活性]データがある。

1 0
2 0
3 3.5
4 5.1
5 10.2
6 4.2
7 1.0
8 0
9 0

活性があると判断される濃度範囲はどこからどこになるか。

【出された回答】
2.5〜7になる。

【回答をした人】
博士

【そのときのやりとり】
「でも、生データを見ると、2は活性がないですよね?」「ありません」「なんで2.5から活性があることになるのですか?」「3では活性がありますから、2.1、2.01、2.001とどんどん2に近づけていっても活性があるはずです。なので、2.5でも活性はあります」「でも、2.5の濃度ではデータを取ってないんですよね?」「取ってません」「うーーん、でも、2.5で活性があるというためには、2.5のデータを取る必要があるんじゃないですか?」「今回はデータを取っていないので」「では、2.5じゃなくて、2.01でも良いんじゃないですか?」「中間を取ってみました」「じゃぁ、それはそれとして、上限はなぜ7なんですか?7.5になるのではないですか?」「7.5は調べてませんから」「でも、2.5も調べてないんですよね?」「・・・・・」


その3

【与えた課題】
ある薬剤Cについて、動物実験で活性の有無を調べて欲しい。

【実験】
薬剤Cをマウスに投与して、その効果を観察する。コントロールとして水を投与した群を用意する。

【実験結果】
薬剤C:反応なし
水:反応あり

【出された報告】
今回は実験がうまく行きませんでした。やり直します。

【回答をした人】
博士

【そのときのやりとり】
「薬剤Cが無反応だったのはともかくとして、コントロールである水で活性が出ちゃうのはおかしくないですか?」「相手は動物なので、こういうことは良くあります」「じゃぁ、今までも水で活性が出るというのは良くあったのですか?」「ありました」「それはおかしいですね。実験系に問題があるんじゃありませんか?」「でも、もう論文出してますし」「いや、論文出したとか、特許取ったとかじゃなくて、やっていることが正しいかどうかですよね?」「正しいと信じてます」「では、何に問題があると思いますか?」「今回は薬剤CをDさんが作成しました。Dさんはマニュアルどおりに作るのですが、この薬剤は作成にかなりコツがあり、いつもはEさんが作成したものを使っています。次回はEさんに作ってもらいます」「薬剤Cは普通に販売されてますよね。それを使ったらどうですか?ちょっと高くても必要ならお金は出します」「市販品は精製が良くないようで、うまくいきません」

【後日、繰り返し検証実験をやって判明したこと】
薬剤Cは精製の段階で手を抜くと細胞毒性が高い物質Fが濃縮されてしまうケースがあり、その際はFの活性によって個体の反応が阻害されていた。マニュアルどおりに作ったDさんや市販品が悪いのではなく、マニュアルどおりに手順を踏まずに作成していたEさんに問題があった。マウスにはもともと期待した反応を自発的に起こす性質があり、水で反応があったのは当然だった。薬剤Cをラボで作成せず、市販品で同じ実験を実施したところ、薬剤C、水ともに陽性となり、両者に有意な差は見られなかった。


その1は「平均を取る」ということの意味を理解せず、とにかくデータがあったら平均を取るべし、というマニュアルを叩き込まれてしまった博士が、自分が感覚的にやっている「個体群を二つに分ける」という作業を論理的に表現するにあたり、間違って適用してしまった事例、その2は、自分が一つの場面でやっている二つの行動について整合性が取れていない事例、その3は、実験の結果を客観的に評価せず、過去の経験や論文といったものでバイアスをかけてしまい、本質を観ることができなくなった事例です。

以前、僕が社長をやっていた会社の顧問の方が、「研究者とは、事実に対して真摯に向き合い、それを受け止めることが最低限の資質だ」という話をされたのですが、僕も全くその通りだと思います。研究者である以上は、ものごとをきちんと客観視し、自分の持っている知識を利用してそれを適切に処理し、そして自分の考えを論理的に表現する必要があると思うのです。これが最初のラインだと思うのですが、上の3つの事例は、少なくとも僕の評価基準では「がんばりましょう」という感じです。

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この記事へのコメント
その3に関してですが、「実験の結果を客観的に評価せず、過去の経験や(権威のある研究者の)論文といったものでバイアスをかけてしまう」研究者は、establishした研究者(欧米のfacultyレベル)の中にも、一定の頻度で存在すると思いますよ。特に、強い仮説を持って研究を進めているけれど、もう自分では手を動かしていないボスが、その仮説に基づいてグラントを申請して研究資金を得ている場合などは、かなり高頻度で見られる現象と思います。
Posted by U at 2007年09月02日 13:53
「事実に対して真摯に向き合い、それを受け止めることが最低限の資質」であることは、間違いないことですが、この資質を評価して研究資金の分配を決定するシステムを作らない限り、この「最低限の資質」すら備えていない研究者がラボヘッドのレベルでも一定数存在し続けると思います。しかし、この「資質」を正しく評価するには、一緒に仕事をするより他にないと思われ、あまり現実的ではありません。このようなボスが存在する限り、博士レベルでも当然、存在し続けると思います。
Posted by U at 2007年09月02日 13:54
>この「最低限の資質」すら備えていない研究者がラボヘッドのレベルでも一定数存在し続けると思います。

今いるのは仕方ないし、将来も一定数存在するのは確かでしょう。

しかし、「研究とはかくあるべし」ということを叩き込み、その人数を減らすために努力するのが教育だと思います。そして、その姿勢が今は不十分だと思います。

「これは第三者の視点から客観的に見てどうなんだろう」と問い直すことは、研究に限らず、ビジネスのおいても非常に重要なことです。そして、これがきちんとできる人間こそが「優秀な人間」だと、僕は思っています。そういった価値観をきちんと教え込むことが重要だと思うし、それができている人間であれば、就職に困ることも少ないというのが僕の考え方です。あくまでもこれは主観であって、誰もが同意することではないかもしれませんが。
Posted by buu* at 2007年09月03日 00:44