2007年10月23日

朝霞市米軍基地跡地問題

僕が10年近く住んでいる朝霞市では米軍の基地の跡地をどう活用するかにあたってちょっとした議論が起きている。要は「このまま放置するか、公園にするか、あるいは公務員宿舎にするか」ということなのだが、当初公園にしようということになっていたものが公務員宿舎にしようということになったため、一部の住民が反対運動を起こしているのである。反対運動自体は別に悪いことではないし、僕自身もその跡地をどう利用するのかには興味があったので、運動の中身を見つつ、また独自にいくつかの調査をしてみて、その概要を把握してみた。そして、結論としては、「反対運動のレベルが低すぎて、とても議論にならない」というところに行き着いた。反対派には大きく3つの問題がある。
まず、見て取れるのが知識の欠落である。そもそも地方の財政というのは住民税、法人税の二つが主たる自主財源であるが、このことを反対派のほとんどの人間がわかっていないようだ。運動を主導している人たちはあるいは理解しているのかもしれないが、そういったことを市民に理解させる努力はほとんどしていない。おそらく、そういった知識を身につけた場合、反対から賛成に回ることはあっても、賛成から反対に回ることは期待できないからだろう。地方都市ならいざ知らず、池袋から20分程度の距離に存在する朝霞市においては当然のことながら自主財源の強化が求められる。約300億円の借金を抱え、さらに毎年数億円の赤字という朝霞市の財政において、ほぼ無条件に、かつ定常的に納税してくれる公務員が850世帯もやってきてくれるのであれば、悪い話ではない。一方でそれによって失われるものもあるが、それが花火大会であったり、そこに生息する狸であったり、というのであれば、「むむむ?」という感じである。財政と切り離して花火や狸を論じている人たちはスーパーの前で自分が欲しいものを買ってもらえずにダダをこねているガキんちょのようなものだ。ところが、この手の意見表明が色々あって、「やれやれ」という感じである(たとえばミクシィの朝霞コミュなどで閲覧可能)。そもそも、自分達が住んでいる自治体がどの程度の借金をしているのか、これすら知らない人がほとんどだというのも驚きである。また、市の自主財源を増やす方法として産業の育成があるはずだが、朝霞市の産業育成政策は貧弱の一言である。これについては僕自身朝霞市でベンチャーを起業して制度を色々調べたのだが、たとえば横浜市と比較すると「何もやってない」といっても過言ではない。結果として新規産業は育たず、今後の税収増に向けては住民税増が頼みの綱となっているはずなのだが、このあたりのことについても知識がない様子である。

続いて想像力の欠如を見て取ることができる。反対派の中には平然と公務員叩きを行っている人間がいる(これも上述のミクシィ内コミュニティで閲覧可能)。この人たちは、朝霞市にも公務員が住んでいることをまったく想像できていない。この問題に派生して公務員たたきをしている人たちは、自分達が振りかざしている正義が「公務員や公務員の家族、あるいは親戚に公務員がいる人を除いた人たち限定で仲良くやりましょう」という状態に陥っていることを認識できていない。自分の立っているスタンスが大勢の人に共有されていると勝手に解釈し、それこそが唯一の価値観であると誤解しているのである。また、これは前項の「知識不足」にも含まれるが、そもそも自分達が一般的な日常生活ができている裏で、多くの公務員の世話になっていると言う知識もないし、それを想像する気もない。朝霞市にも大企業と呼ばれる企業が複数あるのだが、これらの企業が中央官庁に世話になっていることは紛れもない事実だし、またそれらの企業が納めている地方税が市民の生活に寄与していることも事実であるが、そうしたことに思いをめぐらせることもできない。個人や企業が納めている税金でどの程度のことができるのか、それを想像できていないのである。

最後に、判断力の欠如を見て取ることができる。「あなたは知識不足ですよ」という現実を突きつけられてもなお、「知識不足で何が悪い。感情論で構わない」と開き直ってしまう。財政のことなんか良くわからないけれど、とにかく花火は見たい、公務員は嫌いだ、だから宿舎建設には反対、となると、判断力の欠如というよりも判断の放棄であるかもしれない。正しい情報、正しい知識を元に、自治体にとって最も理想的な政策は何なのか、これを考えなくてはならないというのに、情報に目をつぶり、知識を得ることを放棄し、判断材料として感情を最優先する。これまたスーパーの前で自分が欲しいものを買ってもらえずにダダをこねているガキんちょそのものである。

反対派の問題点を3つにまとめて書いたが、そもそも、なぜ朝霞市が公務員宿舎を受け入れる決定をしたかといえば多額の借金を抱えている現状を打開し、健全な財政状態へと向かうためである。宿舎受け入れに反対するのであれば、当然ながらそれに対する代案、どうやってお金を稼ぐのかという青写真の提出が必要だが、反対派の議論にはこれがほぼ完全に欠落している。

普通に考えれば「なぜ公務員宿舎受け入れという判断をするのか」ということをまず考え、その判断の元になる情報を整理し、必要であれば自主的に調査をするといった行動に出ると思うのだが、この「普通」がまったく通用しないのである。まぁ、反対派として正面に立って意見表明している人は実は少数なので、これをもって朝霞市民のレベル全体が低いと断じるのは適切とは言えない。たとえばミクシィの中でも数名の人が反対の旗を振っているが、その人たちが単に政治的目的をもってミクシィの中で活動している可能性だって少なくはないし、他の大多数がこれに賛成しているかどうかは不明である。なので、たとえばミクシィの中で他の意見がないからといってそれがイコール大衆のレベル低下と決め付けてしまうのはそれはそれで問題がある。

しかし、市民の少なくない数(20%程度?)が反対の署名をしている中で、「じゃぁ、借金をどうするんだ」という問いに答えているのを寡聞にして聞いたことがない。比較的筋が良い意見は「市議会議員選挙に出馬しよう」というものだが、代替案なしにただただ反対、という議員が大量発生してしまったら市の財政は一体どうなるのか。それに、市会議員の仕事は当然ながらこの問題の解決だけではない。もっと言ってしまえば、この問題は「市の財政をどうするのか」という大きな問題の一部分に過ぎない。この件について大きな問題意識を持っている人が市会議員になること自体は否定しないが、それしかできない人ばかりが市会議員になってしまったら、これはこれで問題である。もちろんそれは市民の選択であって、僕がどうこう言うことではないが、仮に朝霞がそんな市になってしまうなら、僕は朝霞市には住んでいたくない。

環境に配慮するだけで行政が成り立つならこんなに簡単なことはない。環境に配慮するということは非常にコストがかかることで、結果として生活は間違いなく圧迫される。例えば今、パスタの麺の価格などは数ヶ月前に比較すると驚くほど高騰しているが、これは地球規模のグローバルな環境対策の影響が少なからずある(話が拡大するのでここでは深くは触れないが、興味があるならバイオ燃料あたりを色々調べてみたら良いと思う)。環境と生活をてんびんにかけて、落としどころを探っていくことが政治の役割になるわけだが、「環境は保全、生活は豊かに、借金のことは知りません」では話にならない。

そこに加えて「公務員は税金を無駄遣いしてけしからん」などと本論とは全然異なるところから感情論を振りかざす人まで出てくるので、これではまともな議論になどなるわけがない。国が公務員に宿舎を用意することの是非、公務員の質の低下などはこの議論の本質ではなく、考えるべきはあくまでも借金を抱え、さらに毎年その額を増やしている市の財政と、環境保全のバランスをどう取るか、のはずだ。

原生林でもない二次林を後生大事に取っておいても仕方がないので、それを有効利用しようという考えがそれほど間違っているとも思えない。それは確実に儲かる公務員宿舎でも良いし、産業育成が手薄な朝霞だから、ベンチャー企業のためのインキュベート施設でも良い。とにかく人が増えるか、産業が活性化するために何かをするべきだと思う。もちろん別にここじゃなくても良いけれど、じゃぁどこか他にあるんですか?ということにもなる。そういった代替案が何かあるなら「なるほど」とも思うのだが、何にもなくてただ反対しているだけ。これでは自民党、公明党はもちろん民主党の市議会議員だって耳を傾けてくれるわけもなく、共産党と、せいぜい社民党ぐらいしか味方はいないだろう。安全に暮らすにも、安心して暮らすにも、安定して暮らすにも、必ずお金が必要なのである。そして、もうすでにそのお金を投資して、300億円という借金があるのである。道路がきちんと整備され、図書館やら公園やら運動施設やらが整備され、街がきれいになったのだから、当然それに見合った支払いをする必要がある。その借金をどうしたら良いかを考えることからスタートしないで一体どうするつもりなのだろう。考えるべきは、「どうしたら借金を返せるか」であって、それが既存施策で無理なら、公務員宿舎誘致をする上で「850世帯の入居保証はあるのか」「折角作るなら同時に産業育成のための施設なども作れないのか」「汚染土壌は誰の金で浄化するのか」といったことを詰めるべきではないのか?

それにも関わらず、「どうしたら公務員住宅の建設を阻止できるか」だけに終始しているのでは、市長から「パブコメでどういう意見が出ようとも既定路線」と言い切りたくなるのも無理はない。つまりは、反対派の主張は傾聴に値するだけの意見表明になっていないのである。反対派としては「どうして私たちの意見を無視するのだ」ということかもしれないが、もうちょっと論理的に考えないと勝ち目はないだろう。

反対派の署名が3万に近づこうとしているにも関わらず、市長はもちろん議会の大多数も公務員宿舎の誘致に賛成というねじれ現象がなぜ起きているのか。このあたりを反対派はきちんと考える必要がある。民主主義は衆愚政治と揶揄されることがあるが、今朝霞市ではまさにその状態になりつつあると思う。

なお、このネタは10月11日にTBSの「ピンポン!」でも取り上げられたのだが、視点が「公務員宿舎の必要性」や「住民の反対運動」などを散漫に取材して編集したもので、コメンテーターのコメントすらなかった。どうせなら国サイド、市サイド、反対派住民、賛成派住民のそれぞれの立場をきちんと掘り下げて、国の行動を監視する国民、市の行動を監視する市民のそれぞれにとって役に立つ情報を提供して欲しいものなのだが、この放送局にそれを期待するのは無理なのかも知れない。

#もちろん、推進派の市議会議員は推進派できちんと苦しい財政であること、代替案が他に考えにくいことなどは当然市民にもっと説明すべきではあると思う。反対派がそれなりの数存在することには、当然理由があるのだから。

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この記事へのコメント
先日、「サウス・バウンド」を読みましたが、この本の中で基地跡地問題反対派と同じような人たちが書かれていました。きちんと調べもせずに環境を振りかざしている人たちはまずこの本を読んでみたら良いと思います。
Posted by みぞぬまにあん at 2007年10月25日 22:08
朝霞コミュから来ました。

確かにあのトピはかなり違和感があります。市会議員のほとんどが反対を表明しないことには当然理由があるはずですが、そのあたりから故意に目を逸らしている印象があります。何から目を逸らしているのかは、この記事を読めば一目瞭然ですね。どうもありがとうございました。

市議会選挙に出馬したらどうでしょうか?
Posted by 朝霞市民 at 2007年10月28日 11:15
朝霞に住んでいる者です。
時々駅前で反対派住民が署名活動をしていますが、先日は公務員宿舎が出来ても単身者は住民票を移さないだろうから朝霞に落ちる住民税は少ないとか言っていました。
でも、じゃあどうすればいいのかの提案が全然無いんですよね。これじゃ反対のための反対としか思えません。
彩夏祭の日にも駅で署名を集めたらしいですが、そこで署名した人の中には朝霞市民じゃない人も沢山含まれているんでしょう。そうやって集めた署名に本当に意味があるのか?とも思います。

反対派には本当に代案を考えて欲しいです。
Posted by 彩夏祭の花火は家から見てる者 at 2007年11月17日 17:54
>みぞぬまにあんさま

僕もその本を読みました。確かに良く似ていますね。

>朝霞市民さま

対策なしに環境を振りかざせるのは共産党、社民党ぐらいしかないですからね。市議会選挙に出て当選してしまったら、会社どころではなくなってしまいます。社長の責任上、出馬は困難かと。
Posted by buu* at 2007年11月18日 12:18
>単身者は住民票を移さないだろうから

これは相当な屁理屈ですね(^^; あの人たちの頭の中では反対するということだけが大きくなってしまって、まともな思考が出来なくなっているのかもしれません。

>反対のための反対としか思えません。

おっしゃるとおりです。

>そうやって集めた署名に本当に意味があるのか?とも思います。

あまり意味はないんじゃないでしょうか。福田内閣の支持率を北朝鮮で調査するようなものです。数だけ増やせば良いというものではありません。基本的には納税者ベースで考えないと。

>代案を考えて欲しいです。

これがあれば、随分違うんですけどね。「なぜ市議会が反対しないのか」ということを良く考えるべきです。ちなみに僕には代案がないので、建設は容認せざるを得ないというのが今のスタンスです。
Posted by buu* at 2007年11月18日 12:23
あちらではkanesyohとか、xenoとか、馬鹿が沸いてますね。ああいう風になってくるともうおしまいです。
Posted by kim at 2007年11月20日 00:30
誰が馬鹿だとか、別に名指しする気はありません。

ただ、僕はもう随分前からあちこちで表明していますが、レベルの低い人間の相手はしない人間です。なので、「これはレベルが低いな」と考えた場合は一切レスをしません。あのトピでも、レスをする、しないは僕の中ではきちんと基準を作ってあって、意味のない書き込みに対してはレスをしていません。
Posted by buu* at 2007年11月20日 01:07
そうですか。なるほど。

ところであそこの人たちは魔人さんが出てくると何か都合が悪いことでもあるんですかね(爆)?中立のふりしている社民党関係者とかが紛れ込んでますよね(苦笑)先日、建設反対派の弁護士のビラが朝霞でまかれていましたが、そういえば福島みずほさんも弁護士でしたね。
Posted by kim at 2007年11月20日 01:15
私は朝霞市に住む国家公務員です。毎日のように国家公務員の悪口を駅前でスピーカーでガンガンやられて、本当に悲しいです。
別に公務員を擁護しているわけではないのはわかっていますよ。。。
そんなに私たち厚遇されてるかな?
みんな引越し貧乏です。
Posted by ころすけ at 2007年11月27日 13:00