2001年05月21日

模倣犯

ミヤベの「模倣犯」読了。

模倣犯〈上〉

模倣犯〈下〉

とにかく、長い本だった(^^; そして、登場人物が多い。それで、その登場人物ごとに、多少の濃淡はあれ、非常に細かい描写 をしている。1冊(正確には上下巻で2冊だけど)の本で、普通の本の2、3冊分の人物描写 をしているんじゃないか。 しかし、それでも「この人物についてもうちょっと書いて欲しい」「その後はどうなったのか気になる」という読後感がある。分量 が多くなっているのは最近のミステリーの特徴だが、この作品はその最高峰とも言えるかも知れない。その位 、分量が多いことが仕方ないというか、納得させられるというか、そういう作品だった。

内容は、今までのミヤベとは異なる感じもする。あそこが違う、ここが違う、という点が沢山ある。前向きに捕らえれば「新境地を開いた」ということにもなるのだろう。ただ、個人的にはあちこちで違和感を感じたことも確かである。安心して読める、というのは裏を返せばマンネリなわけで、クリエイターである以上、「新しい」ことが良いのは自明であり、この作品は古くからのミヤベファンを裏切りつつも、高く評価されるべき作品なのだとも思う。

そして、長い長い小説の最後に描かれる、劇場型シリアルキラーの劇的な最後。「この場面 を読むためにここまで読んだ」という満足感。最後まで読んで「やっと電気を消して眠れる」という安心感。これは他の本ではなかなか得られない感覚だろう。

誰にでも薦められる本ではないが、私的な評価はやはり☆☆☆にせざるを得ない。ということで、以下、ネタバレ満載の感想。

あ、そうそう、僕はミヤベのファンだから、べた褒めして当たり前。客観的な評価ではないので、そこんところよろしく(^^

さて、ここからはネタバレありの読書感想文。まず、ちょっと残念な点をいくつか。一つ目は由美子を作品の中で殺してしまう必要があったのか、ということ。できれば彼女が生きたままで、前向きな希望を持って終わって欲しかった。これはちょっと無理な注文かも知れないが、カズも死なないで済む展開にして欲しかった。 カズも死に、由美子も死んでしまっては、長寿庵は何も良いことがないじゃないか。次に残念なことは、ピースに関する描写がカズ、ヒロミに比較して非常に少ないこと。彼の生い立ちは通りいっぺんに語られてはいるが、それにしてもあっさりし過ぎじゃないだろうか。他にもヒロミの母親、篠崎など、折角登場してきて妙にあっさりと片付けられてしまった人物がいる。どうせここまで書いたのなら、そこら辺も書いて欲しかった。さらにいうと、ここで終わりではなく、その先も書いて欲しかった。将来を暗示させるのは塚田、義男、滋子、強いていえば篠崎程度で、他の人間達の「その後」が希薄だった。ここまで読者にどっぷりとその世界に浸らせるのであれば、もうちょっと回答を与えてくれても良かったと思う。

次に良かった点。特に第三章に入ってから、連載小説らしく、小さな山場が次から次へと押し寄せてくる。飽きさせず、これだけの長篇を一気に読ませてしまうのが凄い。また、細かい表現にミヤベらしさがきちんとうかがえる。人を殺す場面 など、今までのミヤベ小説には見られなかった残虐な部分での意外性も感じられたが、それと同時にミヤベらしい優しい描写 も随所に見られた。安心させつつ、同時に新しいものも与えてくれる、そんな作品だったと思う。同時期に「理由」も連載していたということを考えあわせると、ミヤベは間違いなく現代の天才のひとりだと思う。

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