2001年08月06日

秘密

東野圭吾「秘密」読了。

交通事故で大怪我を負った親子。母親が死ぬと時を同じくして奇跡的に意識を回復した娘。しかし、その精神は母親のものだった・・・。という、ありがちな絶対不可能設定小説。この不可能な設定をきちんと読ませていくところがこの作者の力量だが、残念なところも多々ある。出だしはともかく、主人公の性格設定がかなり特異で、設定と同様、「そんなことあるか??」と思わざるを得なかったりする。そういう点がとても引っ掛かり、序盤で、「うーーーん、なんか、つまらん」と感じてしまった。しかし、そこはもともと読ませる力のある作者だから、徐々に小説の中に引き込んでくれる。そして、無理な人物設定がだんだん気にならなくなって、さて、それからどうなるんだろう、と思ってるところで、「おいおい、そんなラストはないだろ?」という展開になる。読みはじめた直後から、「ラスト、こういうことになったらゴミ箱に投げ捨てるぞ」と思っていた展開。うわーーーー、それだけはやめてくれっ!!! そして、最後に明かされる一つの秘密で、小説は終わる。

全体のストーリー展開はとても良いし、感動的でもある。これが東野氏のデビュー作だったらば拍手喝采である。しかし、この小説は東野氏が小説家としてかなり名をあげて、色々な作品を世に送りだした後のものである。そう考えると、あちらこちらに「うーーーん」と思ってしまう部分があるのが何とも残念である。加害者の家庭との関わりや、ラストの時計屋からホテルに向かうタクシーの中のシーンの描写等々。クオリティがでこぼこで、「優」と「可」がかわりばんこにあらわれる、そんな印象の小説である。

一番の救いは、それほど長い小説ではない、ということ。同時期に書かれたレディジョーカーや理由といった超大作と同じような分量 でこの内容をやられていたら、やっぱり「ううううう」って感じだったと思う。

それで、この本はゴミ箱には行かず、ちゃんと本棚に収納された。評価は☆☆。

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