2008年04月20日

日雇い派遣全面禁止法案に関する雑感

<日雇い派遣>「全面禁止」民主が法案 罰金1億円に

こういう法律が出来てしまうとどうなるか。ワーキング・プアは若干減るかもしれないが、代わりに無職が大量発生するのではないか。

企業サイドはコストを減らすことを常に考えている。週1日しか必要のない人間を正社員として雇うなどと言うことはあり得ず、「じゃぁ、なんとか内製しちゃいましょう。既存正社員の皆さん、頑張ってくださいね」となるのがオチ。今いる社員の仕事は増え、これまで短期労働していた人の仕事はなくなる。

民主党は「規制したらどうなるのか」という思考実験を経営者側の立場に立って、あるいはワーキング・プアの立場に立って実施しているのだろうか。

日本に存在する仕事の量には限りがある。その労働に支払われるお金にも限りがある。その全体量を増やすことはもちろん大事だが、今回の法案はそういう種類のものではない。全体量が限られている場合はそれをどうやって分配するのか、という話になる。ワーキング・プア問題を本気で解決しようと思うのなら、既得権層の受けている支払額を減額するか(つまりは減給)、あるいは仕事の供給を安定的に受けている既得権層を切り崩すしかない。民間企業に対する減給指導が現実的ではないとすれば、既得権層の切り崩しを狙うしかない。このためには、既得権層の固定化を助長している各種規制を取り払っていく必要がある。

ワーキング・プアに対する既得権者は誰なのかと言えば、もちろん正社員である。日本においては正社員という既得権層が固定化しているから、労働力の流動性が確保されず、そしてワーキング・プアと呼ばれる層も固定化する。

本気でワーキング・プア対策をしようとするならば、それは正社員や公務員の権利縮小に直結することが避けられず、当然のことながら反発を食らうことになる。それまでは「ワーキング・プアって、かわいそうな人たちがいるのですね」と、自分には関係のない話として見ていた人たちが、突然「なぜ私たちの権利がなくなるのですか?」と騒ぎ立てることになる。そうした対策は必要だと思うし、少しでも早くやった方が良いとも思うが、全国的にやるのはなかなか難しいだろう。そのあたりについては「石原都知事は銀行なんてやってないで、自由労働特区をやったらどうか」という記事でも書いているのでそちらを見てもらうとして、では、本気の対策でもなく、また民主党案のような筋違いの方策でもないやり方には何があるのか。

一つの案としては、以前、「有期雇用と無期雇用」という記事を書いたのだが、有期雇用の人間に対する労働賃金を無期雇用の人間のそれに比較して高くするというやり方がありうると思う。これにしても、結果的には企業に対する雇用削減圧力として働くのは間違いないが、民主党案が「100ある雇用を限りなくゼロに近くしてしまう」案であることに対して、この案は「100ある雇用を50程度にしてしまう」案である。そして、50の中に入ることの出来たワーキング・プア層は、今よりも恵まれた環境になるはずである。

なんにしても、規制によって社会を矯正しようと考える基本姿勢はどうにも好きになれない。今回の法案も、直接的には労働者保護の方向で機能するように見えるかもしれないが、結果はそうならないのではないか。

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