2008年06月11日

水平線の歩き方

7aed91d3.JPGキャラメルボックスの「水平線の歩き方」を観てきた。ブログライター枠で無料で見たので、20列目、10番という、シアターアプルではほぼ最後尾という、あまり良いとはいえない条件での観劇。

物語は、一人で生きてきたつもりだった青年が、一人で生きていなかったことに気がつくという話で、テーマ自体はそれほど新しいものではない。ポイントはそれをどうやって見せるか、なのだが、この芝居はマザコン青年のドラマとして仕上げているところがちょっとした工夫。そのことはさておき、特に物語の前半、あまりにも説明的なのが気になる。また、母親と主人公の置かれている状況に関するねたばれが早すぎるのはどうかと思う。これはこの劇団の良いところでもあり、悪いところでもあるのだが、観客に対して親切すぎる。謎解きは大体クライマックスと相場が決まっているもの。ラストは、アサミにあたっているスポットが徐々に暗くなると同時に、安部、豊川といった主要登場人物の声がかかり、スポットがあたり、そして照明を一気に明るくして終わり、とか、そういった、照明を使った工夫があったらどうだったのかと思う。この劇団の芝居ではいつも思うのだけれど、照明、下手ではないのだけれど、もっともっと効果的に使えると思う。これは技術的な問題ではなく、演出の問題なのだが。演出サイドに「照明をとことん効果的に使ってやろう」という貪欲さがないのかもしれない。

膝に故障を抱えたラガーマンの話なのだが、杖のつき方などは上手に表現していたと思う。実際に一年以上びっこで、松葉杖との付き合いが長い僕が見ても違和感はなかった。ときどき左脚が悪いのに松葉杖を左側につくというとんでもない演出にぶち当たったりするのだけれど、この芝居はそんなことはなかった。一方、故障の大きさと競技への影響に関する考察についてはイマイチと言えるかもしれない。再起不能の大怪我が初めての靭帯断裂、という設定はかなり違和感がある。靭帯断裂というのは僕もやっているが、決して選手生命が途絶えるような怪我ではない。スキーで見ても、一流どころの選手はほとんど靭帯断裂を経験している。また、サッカーでも珍しくない。ラグビーはサッカーやスキーに比べたら接触の機会は確かに多いが、選手生命が終了というのは大げさだ。

役者では、岡田♂が結構良かったと思う。今までの彼の演技の中では一番印象が良い。もともとひいきの前田さんは今まで通りの存在感なのだが、怪演というほどのはちきれ方がなく、やや型にはまってしまっている印象。今回の役柄なら、もうちょっと外れる演出があったらどうだったのか。

芝居初心者には結構お勧めできるが、芝居を見慣れている人にとってはやや物足りなさがあると思う。しかし、これは劇団のキャラクターでもある。結果的に飽きが早い、ということにつながるのだが(笑)。

評価はトータルで☆2つ。前から7、8列目程度なら4000円払う価値があるが、それより後ろだと、ちょっと厳しい。

と、ここまでは普通のレビュー。しかし、この芝居の評価はここで終わりません。かなり厳しい評価が続きますので、読みたくない人はさようなら。ねたばれを含みますので、ねたばれが嫌な人もサヨウナラ。


なお、トラックバックの都合があるので製作総指揮の加藤さんのブログにリンクをはっておきます。

ハーフタイムシアター、最高の初日開く!!
さて、ここから追記。

この芝居、個人的に許せない点がある。それは主人公に飲酒運転をさせたこと。結果として主人公は事故を起こし、そして死線をさまようことになる。つまり罰を受けたわけだが、ではその事故が必然だったのかといえばそんなことはない。他にもこのラストにつなげる方法はあったはず。ラグビーができなくなって、やけを起こして、飲酒運転をして、自爆事故を起こして重体、って、なんじゃそりゃ、って感じ。そして、さらに筋悪なことに、飲酒運転をして事故を起こした主人公を許すという主旨の発言までもが含まれる。制作者サイドとしては決して飲酒運転を肯定するというスタンスではないと思うけれど、そういう形で誤解される可能性は否定できず、それなら最初からこんな本は書くべきではない。

僕は自分のブログで散々書いているけれど、飲酒運転というのは情状酌量のない罪だと思っている。それは事故につながろうが、つながらなかろうが、である。それが招くかもしれない悲劇と、飲酒運転の必然性をはかりにかければ、飲んでから乗るだけで重罪だと思っている。今回の芝居のラストの展開は、そうした僕の価値観から言って完全にアウツ。そして、そのことに劇団の誰もが疑問を持たなかったことに驚きを禁じえない。必要がないのに自殺について詳細に報道してかえって自殺の増加を招くことがあるのと同様、飲酒したあとに自動車を運転することがストーリー上重要な役割を果たすわけではないのに、酒を飲んで車を運転するという可能性を提示したというのはいかがなものか。そういえば、今日の前説では芝居の録音を禁止する一方で、「当劇団の上川はラジカセで録音したことがあります」と述べていた。これを聞いた客は「あぁ、やっても良いんだ」と思うかも知れず、「上川がやったことがある」というのは完全に余計な情報である。この劇団の関係者は犯罪を誘発することに対する感受性が低いのかもしれない。

ということで、この芝居の評価は☆ゼロ。たとえそれに至るまでがどんなにすばらしくても、そして役者の演技が良かったとしても、観る価値はないと思う。

今からでも遅くないから、主人公をあくまでも肯定する(部分的であったとしても)のであれば、ラストに至る経緯は書き換えるべきだと思う。酔っ払ってホームから落ちたでも、酔っ払って車道を歩いていて轢かれたでも、真冬の雪の中で酔っ払って凍死しかけているでも、他にやりようはいくらでもあるのだ。

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