2008年07月10日

ツ、イ、ラ、ク

ツ、イ、ラ、ク (角川文庫 ひ 8-13)
最近は著作権の本だとか、資本主義の本だとか、そういうかなりカタめの本を読むことが多いので、「何か面白い本はないかなぁ」などと思っていたらタイミングよくワルツさんに「ツ、イ、ラ、ク」が面白いからどうぞ」と言われた(現場はこちら。七夕ですね。考えてみたら、ワルツさんとこうしたダイレクトなやり取りをするのは一年に一回ぐらいかも(笑))。普段だったら「amazonで買っちゃえ」と思うところなんだけど、ちょうどここ数日遠く(と言っても、電車で1時間とか1時間30分とかだけど)に出かける機会が多いので、珍しく近所の本屋で購入。それ程の分量でもないので二日ほどで読み終わってしまった。

なるほど、まず構成的に非常に面白い。最初はふぞろいの林檎たちみたいな感じの群像劇で、舞台を小学生に置き換えたのかな、という印象で始まっていく。このあたりはこのあたりで、「どうしてこの年代の恋愛小説ってあんまりないんだろうな」と思いつつ、またそれぞれの子供の時代とも重ね合わせて、スイスイと読み進めることができる。ところが、群像劇かと思ったストーリーがいつの間にか一定の方向に収束していく。そこからしばらくは中学生の男女の愛憎劇みたいな感じになってくる。それが卒業という節目を迎えて、さぁ、どうなるのかな、と思ったらそこで土台が一気に失われてしまう。ここに至り、いつの間にか登場人物に感情移入していた読み手は物凄く不安になる。つまり、起承転結の『転』があまりにも『転』なのである。そうした読者の不安感をよそに、物語は『結』へとなだれ込む。非常に長い『起』、そして小説でこういうことを書いてしまうのはどうなのかなぁと思わされてしまう『承』と含め、ほとんど無駄のない、かつ非常に特徴的な構成である。読み終わってみれば誰がヒロインなのかは明確だが、そこがわからないのが一番のポイント。だから、この本を読もうと思う人はあまり色々書評のようなものを読まないほうが良い。いや、ここまで読んじゃんったアナタはもう大分手遅れなんですが、まだダイジョブかな(笑)?

さて、内容はというと8割がた小中学生の女の子達の恋愛話で、僕のような中・高男子校、大学もほぼ男子校(理学部153人のうち、女性4人)という状況で育った人間には「まぁこんなものだろうね」とは思いつつも、明確な実感のない世界の話なので、なかなかに生々しくて勉強になった。しかしまぁ、僕にとってはもう随分昔の世界なので、「良く理解ができなかった映画の細かい伏線について、後日監督からネタバレしてもらった」みたいな感覚でもある。このあたりは男子大学生あたりが読めば勘違いしなくなるかも知れず、でも、男子大学生がこんな本を読んだら逆に勘違いするかも知れず、なかなか難しい。多分、この本のメインのターゲットは30代後半から40代ぐらいの、どちらかといえば女性なんだろう。基本的には女性の女性による女性のための本。っていうか、そもそも男にはこの本は書けないし、書けたらキモイ。そういう本を男が読んだんだから、この本の面白さを正確に伝えることも難しいかも知れない。ちなみに僕の場合は、「なるほどー」(NHKの将棋番組でアシスタントの女性が解説者の説明を聞いたときに発する声)と思いつつ中盤を読んだ。

で、ラストの2割はそうやって広げた風呂敷をどうやって畳むのか、というところ。どんな本だってここの出来で良くもなれば悪くもなるわけだけど、『転』の部分ですっかり飢餓状態にされてしまっている大半の読者は、「そんなこと、あるわけないじゃん!」と思いつつも、読み終わったときには「こういう畳み方で良かった」と思うに違いない。いや、僕も途中までは「第7章と第8章は蛇足かも・・・」と思わないでもなかったわけですが、最後まで読めば、「あぁ、そうは言っても、やっぱりそうなのね」(謎)ということになって、良かったな、と、これは男の感想(笑)。

この本では色々な女性が出てくるけれど、小山内先生が山椒のようなキャラクターで、発散してしまいそうなところをきっちりと締めている。このあたりが非常に良くできていると思う。というか、多分姫野カオルコさんはこういったキャラを一番強調したかったんだと思う。それから、ところどころで出てくる特徴的な表現方法もスパイスになっていて良かった。登場人物を煽ったり、常識では考えられないくらいのコピペ(というか、同一表現の繰り返し)があったり。一つ一つのエピソードがそれほどとっぴではなく、「あぁ、これはありそう」と思うようなものの積み重ねなのも良かったと思う。

さて、結論。多分20年ぐらい前に柴門ふみの「P.S. 元気です、俊平」とかを読んでいた現在のおじさんとか、彼女が原作を書いていた一連のトレンディドラマを見ていた今のおばさんとかには結構お勧め。今のお姉さん達にはどうかなー、と思うけれど、そういう年代の人たちはほとんどこのブログを読んでないと思うので、ま、いっか(笑)。
以下、追記に蛇足。僕は頻繁に「みんなの意見は大体正しいなんてことはない。重要なのは信用のおけるナビゲーターを見つけることだ」ということをこのブログで書いてきているけれど、僕にとってのワルツさんは間違いなくその一人。今回この本を読んだきっかけは
『ツ、イ、ラ、ク』は、是非是非。
女の子の真の姿を体感(?)してみて下さい。(笑)
結構、そのまんまだと思います。(うふふ〜不気味笑)

という推薦文だけだったわけですが、僕が今まさにここで書いているような書評なんか、実は全然不要なもので、「ワルツさんが僕に推薦した」ということが大事だったりするわけです。じゃぁ、どうやってワルツさんと知り合ったかって、それはブログを通じてだから、それはまぁウェブ2.0万歳なわけですが(笑)。ガイドマップは見つけるまでは大変ですが、一度見つけたら一生モノです(笑)。

ただ、本を勧めるというのはそれはそれで難しいもの。例えば先日僕はある20代半ばの女性の友達に数冊本を勧める機会があったんですが、そのときには性別、年齢、読書経験、性格、ライフスタイルなどを考慮して本を選択したわけです。相手のキャラクターがわかってないと、ね。ま、そこら辺を含め、「単なるテキストデータベースの付き合い」じゃなくて、本を片手に一杯飲みながら、という関係が理想的なんじゃないかと思う次第。

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この記事へのコメント
七夕ですねー。
一年に一回、そんなロマンチックなコメント頂いて、ありがとうございます。
早速読んで頂いて、とても感激しています。
Buu*さんの書評はいつもながらすごい!です。
小説を細かく分析してあって、目から鱗というのか、成程と思うことばかりです。
私のblogでのテンションがおかしい(笑)主観的な感想がすごく恥ずかしいです。

>「起承転結」の「起」の部分が長い、というのや
>誰が主人公なのか途中まで分からない手法
あぁ、そうそう!て。小説の特徴的で、効果的な書き方だとbuu*さんの記事から気づかされました。

「自分にとって尊敬すべき得がたい友人(blogという特殊な場所で出来た)」
本当にそういう人とのめぐり合いは奇蹟のようですね。
私なんて、とんでもないですが、友人として加えて頂ければ、この上なく嬉しく思います。
buu*さんは、私にとって、尊敬しているそういう方です。
Posted by ワルツ at 2008年07月11日 21:00
どうにもアナリスト気質が抜けないのですよね。映画とか見ていても、「あぁ、これは」とか思って、忘れないようにメモしたり(笑)。

右脳的な感想もあり、左脳的な感想もあり、まぁ、色々あるわけですが、右にしても左にしても、質の良い感想にすぐにたどり着ける状態を作り上げていきたいものです(って、そういう無駄を排除した生き方も味気ないといえば味気ないかもしれないのですが)。
Posted by buu* at 2008年07月21日 22:07