2008年07月28日

ブログでバイオ46回「God helps those who help themselves.」

今月頭に、「人材関連会社の周辺で検証すべきこと」というエントリーを書いた。

僕が書くものには大体の共通点があって、それは冗長であること。このエントリーもやっぱり長い(笑)。「それで、結論はなんなんだよ」ということになるわけだが、このエントリーを今北産業で説明すると、

「人材派遣業がすげぇピンはねしていてけしからん」とか言ってる奴がいるが、もっと薄利で上手にやれるんならお前らがやりゃぁ良いじゃないか。何もやらねぇで文句ばっかり言ってるのはただの評論家だろ。

ということである。それで、ラストで

何しろ、そういった規制が及ばない範囲で何かできることはないのかな、と日ごろから考えているわけで、これについては近々、何らかの目に見える形で行動に移す予定である。


などと書いているのだが、ようやくそれが形になった。もし本当にバイオ関係者達が就職で困っているのであれば、そうやって困っている人たちにとっては大きな一歩になるかもしれないし、ならないかも知れない(笑)。

じゃぁ、何をやったのかって、それはバイオクオリの社長が「ブログでバイオ」の第45回で書いてくれているので、まずはそちらをどうぞ。

ブログでバイオ 第45回『研究、ポスドク、情報発信

後半で「SYNAPSE(新しいバイオSNSの名称)というSNSで就職支援を試してみる」ということを書いているのだけれど、これまた簡単に書いてしまえば、以前、バイオインダストリー協会(JBA)が運営していたバイオ専門SNSを構築しなおして、バイオ関係者の就職支援サイトに再構築したわけだ。

このバイオ専門SNS、当初はバイオ関係者の情報交換ツールとして利用され、自主研究なども実施し、その成果はPNEに掲載されるまでになった。ところが、途中から風向きが変わってしまった。そのあたりの詳細は省くが、大企業の人間っぽく、「SNSの中でJBAの悪口を書かれるのは困る」などと言論統制が始まったアタリで「これは駄目だ」という感じになってしまった。JBAは検討会において「責任を持ってSNSを継続する」と断言したにも関わらず、その数ヵ月後に「やっぱり無理」と投げ出してしまい、仕方なしに僕の会社で運営を引継ぎ、次の運営主体を探した。その後東大の大学院生が代表取締役となって株式会社バイオクオリを立ち上げ、バイオポータルを運営するとともに、このバイオSNSを引き取り、運営に乗り出したのである。しかし、それからもバイオSNSを取り巻く環境は決して順風とは言えず、バイオクオリの初代社長は退任し、新たにベンチャーキャピタルで経験を積んだ新社長を迎え、この資産をどうやって活用していくのかを検討してきた。

僕はSNSのリニューアルにあたり、SNSの専門家としていくつかのアドバイスをしてきた。その中で最大のものは、mixiではできないことをやらなくてはならない、ということである。ただ、これを言うのは簡単だ。そして、何をやるのかを考えるのは大変だ。バイオクオリの経営陣がこの難題に対して出した答えは、

「バイオ人材の就職、転職の支援ツールとしての利用」

というものである。mixiの最大のウィークポイントは商用利用ができないということ。一方で、SYNAPSEは商用利用を禁止していない。そこにプラットフォームは用意してあるが、個人だろうが、企業だろうが、好きなようにそれを利用して構わないのである。ここが大きな特徴であり、差別化のポイントでもある。そこに目をつけて、こんなシナリオを考えてみた。

1.バイオ関係者で就職、転職を考えている人たちは、SNSの中の日記やコミュニティを通じて明示的、あるいは暗示的に自己アピールをする
2.企業関係者はそれを読み、面白そうな人間がいれば会社に呼び出して実際に話を聞いてみる
3.1と2の間に何らかの溝があるなら、それを第三者が埋める

このシナリオ、思考実験では大きな壁がいくつもある。

一つ目にして最大の壁は、SNSの内部で参加者が自己アピールをする、というところである。日本人はとにかくこういう行動が苦手だ。大勢の中に埋もれて一般大衆として生きるのが大好きで、「普通でありたいんですけど」と考える。例えば、実際には人と自分がいかに違うかを考え、それが企業にとってどう役に立つかをアピールする、「自分」という商品を売り込む場が就職活動なのだが、社長として就職面接をやっていると、このあたりのことをきちんと認識していないケースが非常に多いことに気がつく。こんな状況にあって、果たして「ちゃんと自己をアピールしてください」と言っても、どの程度の人がそれをやれるのか、という疑問がある。また、今、バイオ関係企業は業績があまり良くないということもあって、採用人数が非常に減っている。需要と供給のバランスが供給過多になっているのである。こうした状況においては、一所懸命自己アピールを続けていても、何の反応もないことが容易に想像される。そうした中において、根気良くアピールを続けていけるのか、という問題もある。単にアピールを続けるだけであれば、それはキャッチャーも、壁すらもないところに向かってピッチング練習を続けるだけになる。相手の反応がなければ当然辛い。幸いにして、SNSというシステムの中には価値観を共有したり、議論をしたりといった、本来の楽しみ方がある。だから、効果があるかどうかわからないピッチング練習だけではなく、他のところに楽しみを見つけることは可能なはずだ。問題は、利用者がそれを上手に活用していけるのか、ということである。また、運営サイドとしても、特定のテーマに沿った小論文を募集したり、あるいは議論の場を設けて参加者達の意見を戦わせてみたりといった、「読み手」(=採用担当者)を意識した企画を出していくなどの工夫が必要だろう。

二つ目は、企業関係者がそういった情報をきちんと収集して、採用の参考にするかどうか、ということである。大企業になればなるほど、黙っていても就職希望者はやってくる。これをどうやってさばくかで人事担当者の頭は一杯だろうし、彼らの活動の重心は採用に関する広告活動、応募者のふるいわけにあって、自主的に有望な人間を探すというところにはならないと思う。しかし、ベンチャー企業などであれば話は変わってくるだろうし、外資系のバイオ企業などであれば今の採用方法についての疑問を持つ可能性もある。そもそも、数回の面接とペーパーテスト、履歴書ぐらいで人間を選ぶというのは非常に困難で、情報はあればあるほど良いはずなのだ。日本の場合、「誰でも最低限このぐらいの教育は受けているはず」という教育に対する期待と、「特別なことはできなくても、必要とされることだけはできてくれれば構わない」という人材に対する“不”期待(=あきらめ)があるので、今のような採用活動が定着している。しかし、企業にとっても採用とは数千万、場合によっては数億円の買い物になるのだから、状況は変わってくるはずである。ただ、そうは言っても、「SNSの内部で参考になるやり取りを見つけてくるのは大変だ」というのも正直なところだろう。したがって、SYNAPSEの方でも、面白い意見や議論があった場合には、それを積極的に外部にアピールしてやるといった活動が必要になってくるかもしれない。ちなみに、ライブログでは「WEB 2.0(っていうんですか?)へのステップ」で言及した「SNS内部の有用情報のフィルタリングシステム」を開発中である。もしかしたら、これを導入する最初の事例がSYNAPSEになるかも知れない。

そして三つ目の壁が、1と2の溝をどうやって埋めるのか、ということである。就職をしたい人間と、採用したい会社の間には必ず溝がある。現在のポスドク問題などはその典型例である。そして、それをどうやって埋めていくのか、ということだ。しかし、この壁は実は一番埋めやすい壁でもあると思っている。それは、営利目的の企業が参入しやすい部分だからである。企業のニーズを吸い上げ、実際の就職希望者の現状を分析し、その二つの差異に注目して人材に教育を施す、というのは間違いなくビジネスチャンスである。そこにチャンスを見出す会社があれば何の問題もない。そして、SYNAPSEは、参加者にも、それを閲覧するバイオ企業関係者にも、そしてその両者を結びつけるような活動をする会社にも、今のところ課金する予定はない。つまり、「ピンはね」といわれる部分が全くない。インターネットという技術とSNSというシステムを利用して、ピンはねのない仕事探しの場を提供しようということである。

他にも、SYNAPSEがうまく稼動したとしても、「情報発信能力、コミュニケーション能力のない人間はやはり拾って貰えない」という現実は確実に残る。しかし、今企業が必要としているのは、まさにこの「情報発信能力」(相手は不特定多数ではなく、社内的なもの、客先へのものも含む)と「コミュニケーション能力」なのである。そういった会社側のニーズが顕在化するというメリットもあるかもしれない。そうなれば、「どうしたら良いのかわからない」と途方にくれている人たちに対して、一つの道しるべを提供することになるかもしれない。

何しろ、評論家諸氏が「こんな状況では困る」と言っても事態は何も変わらないし、「国がなんとかすべきだ」と言ったって、そんな社会主義的思想がうまくワークしないことは現在に至るまでに世界各地で実証されてきている。「何とかなるに違いない」的な誤った希望を与えることは実際に困っている人間達を全く救済しないし、「何とかして貰えるように頼みましょう」という主張も実際には問題の先送りにしか過ぎない。このブログでも何度か指摘しているが、荻原博子氏や森永卓郎氏が「節約しましょう」なんて言っていたのを真に受けて節約していた人たちは、対外的な要素からの物価高の中でどんどん追い込まれている。やるべきことは節約ではなく付加価値のアップ、生産性のアップなど、生産力のアップだったはずなのに、本質を考えずに表面だけを考えた結果が今の窮状である。バイオの就職問題も同じだ。資本主義社会である以上、ボトムアップで解決できることは極力ボトムアップで解決すべきである。SYNAPSEがそうしたボトムアップ的な解決手法の提案であることは間違いがない。

問題は、それが市場に受け入れられるか、である。正直なところ、個人的にはSYNAPSEがうまくまわるかどうかはさっぱりわからない。本当に大勢のバイオ関係者が困っていて、自力でなんとかしたいと考えているならうまくまわっても不思議はない。うまくまわらないかも、と思う要因は、一つには「本当に困っているわけではないのかも」ということであり、もう一つは「自力で何とかするのではなく、誰かに助けて貰うのが良いと思っているのかも」ということである。個人的な感覚では、少なくとも前者の要員はそれほど心配していない。つまり、かなりの人数が困っているんじゃないかと想像している。問題は後者である。「自力でなんとかしていきたい」と考えているバイオ関係者がどのくらいいるのか。

僕の軸足はバイオからITに移ってかなりの時間が経っている。しかし、もちろんバイオに飽きてしまったわけではない。面白くなる可能性があるなら、またバイオをやってみるのも良いと思っている。では、面白くなる可能性とは何で規定されるのか。それはもちろん色々な要素があるのだが、僕が一番に重要だと思っていることは、「自分で変えていこう」と考える人間がどのくらいいるのか、である。

ということで、何はともあれ、まずはSYNAPSEに登録をどうぞ。

SYNAPSE

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【閑話休題】ブログでバイオ46回「God helps those who help themselves.」【Science and Communication】at 2008年07月29日 00:45