
脳の血管障害で左目のまばたき以外では意思の疎通ができなくなった元雑誌編集長の話。彼自身がまばたきよって書いた自伝をベースにしている。
完全に体の自由を失った状況で目覚めるところを主人公の視点で描き始めるところから映画はスタートするが、目の焦点が合わないこと、まばたき、視点の移動などをカメラで表現することによって、観客を主人公の主観に導入し、しばらくはその不自由な状態を続ける。これによって、観客達を上手に主人公に感情移入させている。
「実際の目だったら、まぶたの前の針に焦点は合わないよな」とか、「こんな広範囲に人間の目は動かないよな、カメレオンじゃないんだから」とか、そういう微妙な突っ込みどころはある。あるのだけれど、逆に「あぁ、カメラをこういう風に使って涙を表現しているのか」とわかるようなところもあって、リアリティというよりも映像表現として面白い。
ストーリーは、身動きできない状態で目が覚めてから、理学療法士、家族、出版補助者、友人、倒れる前からの愛人などとの交流を描き、そして静かなラストを迎える。
そんな映画なので、いかにもお涙頂戴的な感じがするのだけれど、実際にはそういうトーンの映画でもない。男性は配慮が足らず、女性は単純、みたいなことをモノローグで語らせるブラックユーモア。身動きができない中での視点は女性の口元や胸元、太ももだったりすることによって、主観的な映像で主人公の女好きを表現したりしている。全く身動きができない人間という立場を普通の人は経験する機会がないし、それを健常者の立場から想像しても限界がある。しかし、この映画の原作はまさにそういう立場からの生の情報発信であり、そこに存在するメンタルな世界がどういったものなのかを知る機会として、非常に興味深い。
「可哀想」とか、「勇気付けられた」とか、そういう印象をこの映画から受ける人も非常に多いとは思うのだけれど、個人的には「なるほど、こういう立場になると、こんなことを考えるのだなぁ」と思うと同時に、健康な人間の同情がいかに的外れなのかがわかって面白かった。
なかなか良い映画なので、ツタヤの半額デイで借りてきて観ることをお勧めする。評価は☆2つ。