2009年08月20日

野田秀樹 芸術監督就任記念 プログラム 『ザ・ダイバー』

a0901476.jpg野田秀樹さんの作品の最大の特徴は「役者に合わせた作劇」であって、これが結果的に「再演はうまくいかない」という結果につながっているというのが僕の考え。これは遊眠社時代に半神をダブルキャストで演じたときから感じていることで、あまりにも役者を上手に使う、あまりにも役者の良さを引き出してしまうがゆえに、一つ一つの役が役者のためのオートクチュールになってしまう。そんな中での傑作英語劇、The Diverの日本語版上演である。

参考:現代能楽集検The Diver(ザ・ダイバー)

英語版でほぼ完璧に作り上げられていた役を天才大竹しのぶさんがどう演じるのか、というのがこの作品の最大の注目点だった。

日本語になって、劇そのものは格段にわかりやすくなった。英語版もきちんとした字幕がついていたけれど、それは細かい会話までは及ばない。役者のアドリブも表現できない。その点、日本語はどんなことでも聞き漏らす心配がない。渡辺いっけいさんのアドリブもきちんと拾える。そうやって、言葉の壁が取り払われてクリアーになった作品を、大竹しのぶさんが演じて、どうなったのか。一言で言えば、キャサリン・ハンターさんの剛に対して大竹しのぶさんの柔。ロンドンの兵隊のような直線的な動きに終始したキャサリンさんに対し、今日の大竹さんは日本女性らしい曲線的な動き。もちろん日本人の観客には大竹さんの演技の方が違和感がないのだけれど、その結果見えてきたものと言うのはストレートな生々しい愛憎劇だった。

日本の文化、日本の事件をベースにしたロンドンバージョンをロンドンでやるということは、いわば水の中の舞台を水辺から見させるようなもの。大まかなことは把握できるけれど、詳しいことは良くわからない。でも、雰囲気だけで引き込まれる。正直なんだかわからないストーリーだけれど、ラストには言葉のないシーンが配置され、「なんだか良くわからないけれど、凄い」という印象を与えたんじゃないだろうか。そのロンドンバージョンを日本で上演したのは、同じ水の中の舞台を水の中にいる観客に見せたような感じ。ただし、裸眼で。水辺で見るよりも色々と把握できるのだけれど、細かいところはクリアにならない。そこがもどかしいところでもあるけれど、英語版だから仕方がない。そして今回のバージョンは、水中の舞台を、水中にいる観客に、水中眼鏡をつけさせて見せたような感じ。今まで見えにくかったところが全てストレートに伝わってくる。気がつかなかった言葉や感情が刀となってどんどん飛んでくる。おかげで、観ていてものすごく痛い芝居になった。考えてみれば「THE BEE」も痛い芝居だったけれど、最近の野田さんはこのあたりに容赦がない。

細部までは良く見えないけれど、その分イメージが広がるロンドンバージョン、細かい心理描写までがくっきりしていて、主人公の苦しみがどんどん伝わってくる日本バージョン。どちらが好みかというのは観る人次第だと思うのだけれど、意外なまでに両者は違う芝居になっていて驚いた。

渡辺いっけいさんは、僕は芝居で色々観て、そのあとテレビで観たくちなので、「こっちに戻ってきてお帰りなさい。こっちの方が良いですよ」という感じ。同じことは佐戸井けん太さんにも言いたいけれど、まぁそれはそれ。一人で色々やらなくちゃならない役だったので大変そうだったけれど、楽しそうにやっていた。北村有起哉さんも野田さんの芝居にちょくちょく顔を出しているので、野田芝居は心得たもの。というか、そういう人だから野田さんは使ったんだろうけど。野田さんを含め、全ての役者が「芸術監督就任記念」にふさわしい演技をしていたと思う。

ここ数年、野田秀樹はこの手の小さな舞台は三茶でやることが多かったわけだけれど、これからは当分池袋なんだろう。どちらが良いか、というと、個人的には三茶の箱の方が好き。池袋はちょっと横にワイドで、客席の斜度が少ないので、ぱっと見、ちょっと観にくいかなぁ、という印象がある。でもまぁ、シアターアプルとかもこんな感じと言えばこんな感じだったので、それほどでもないのかなぁ。今日はH列2番で観たけれど、そんなに端という感じもなく、観にくいという印象も受けなかった。何しろ演劇はこのくらいの大きさの箱で、このくらいの距離で観るのが一番だ。

今日は初日と言うこともあって、若干危なっかしいところとか、こなれていないところがあったと思う。だから、評価は☆2つ半。でも、来週ぐらいには☆3つの舞台になっているんじゃないだろうか。6500円という値段も手ごろだし、毎日当日券も出るみたいなので、首都圏に住んでいる演劇ファンには満遍なくお勧めしておきたい。

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