2009年10月31日

極北クレイマー

極北クレイマー海堂尊さんの「極北クレイマー」読了。新宿紀伊国屋の出版記念サイン会でサインしてもらったんだから、読むのに随分時間がかかった。

海堂さんはこのミス大賞出身なので、ミステリー作家と思ってしまうのだけれど、最近の作品はミステリー色が希薄。そして、この作品に至っては全然ミステリー小説じゃなかった。もともと政治的なメッセージを盛り込むのが大好きな著者だと思うのだけれど、本作はそれが濃すぎてちょっと鼻につく感じ。

福島県立病院の産婦人科医逮捕事件を取り上げるのは別に構わないし、小説を通じて問題提起するのも構わないけれど、あまりにもストレートすぎるし、小説の中にそのエピソードが盛り込まれる必然性が、エンターテイメントの面から全然感じられない。「あぁ、この人は、この話をどうしても世間にアピールしたくて、この本を書いたんだな」という印象を受けてしまう。だから、その話を読んで「そうだったのかー」と思う人は得をした気分になるだろうけれど、そういう話を期待していない向きには、「あらら」という感じになってしまう。それなら、最初からそういう本を書けば良いのに、と思わされてしまう。これは医療事故だけではなく、地域医療の現状とかについても同じ。あるいは、「医者は助けて当たり前。助からなければ責められる。でも、助からない人間もいる」なんていうのも同様。実際に医療の近くにいなくて、コトー先生やテル先生やブラック・ジャック先生みたいに片っ端から解決しちゃう先生ばかりを見ていると、誰でも助かると勘違いしちゃうのかも知れないから、こういう本があっても良いとは思うのだけれど、少なくとも僕のニーズには合わなかった。

例えば宮部みゆきさんなどはこのあたりのバランスが絶妙で、色々な社会問題を取り上げつつ、でも本道のミステリーはミステリーとして存在する、という書き方を完璧にこなす人だと思う。東野圭吾さんぐらいになると、ときどきはずしちゃうことがあって、「うわー、なんでこんな本を書いちゃったの?」と思うこともあるのだけれど、打率としては5割打者。結構な打率なので、「また読んでみようかな」という気になる。海堂さんだと、東野さんよりさらに打率は低い感じ。そして、本作は空振り三振という感じもする。

エンターテイメントとして楽しめたのは姫宮香織のくだりぐらいで、あとは主人公を含めた登場人物たちのキャラもいまひとつ立っていない。何より、目的が「皆さん知らないでしょうけど、こんなことがあるんですよ」とお知らせすることにある(たぶん)ので、内容が説明的過ぎるのだ。その説明を読んでいるだけでちょっとげんなりしてくる。

そして、ラスト。あれ?これで終わるの?という感じ。まぁ、広げた風呂敷の大きさと、本を横から見たときの残りページの分量を天秤にかけると、「これは終わらないな」という感じなのだけれど。続編のためのプロローグ的作品という位置づけだろうか。

それにしても、登場人物たちのほとんどについて、尻切れトンボ。悪役も、善玉も、助っ人も、端役も、あらららら、という感じ。ちゃんと幕引きしたのは一人だけ(笑)。

評価は☆半分。姫宮のところ以外は読む価値ないかな。

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メディアはいつもそうだ。自か黒の二者択一。そんなあなたたちが世の中をクレイマーだらけにしているのに、まだ気がつかないのか。
【医療の最前線はこんな感じ】極北クレイマー【ぱふぅ家のサイバー小物】at 2009年11月18日 17:27