2010年01月22日

情報病

情報病――なぜ若者は欲望を喪失したのか? (角川oneテーマ21)

印税生活ですっかり勝ち組になってしまった三浦展さんの本。彼とは三菱総研に入ったのも辞めたのも同じ時期なんだけれど、会ったことも話したこともない。いや、小さい会社だから会ったことぐらいはあるんだろうけれど。社会公共本部だったのかな?僕は科学技術本部と経済経営本部だった。

さて、内容について。日本特有の世代論をベースに、新人類、ロスジェネ、そして今の若者の代表を登場させ、対談形式にして主として今の若者の特徴をあぶり出していく、というもの。これが「代表性」という面で非常に雑にみえて、その実かなり計算し尽くされているのが面白い。若者代表として早稲田の草男君と立教の鉄子さんが登場するのだけれど、彼らは完全なる代表ではない。ただ、きちんと周囲を見る『目』を持っていて、そういう視点を持てる人間を見つけてきたところが本書の成功の要因だと思う。が、草男君に比較すると鉄子ちゃんはちょっと力不足で、その結果、焦点が草男君に集中してしまったのはちょっと残念。まぁ、なかなかいないんだと思うんだけれどね、きちんと見て、きちんと理解して、きちんとそれを表現できる人間というのは。

個人的に面白かったのは第二章以降。先に進むにつれて面白くなっていく本書はこの手のビジネス本としては珍しい。大抵、最初の章でほとんどネタが割れてしまい、あとは冗長にそれを繰り返しているだけ、となるのだけれど、この本はそうではなかった。以下、面白かったところを抜き出してみると、

モノが進化していく過程を見ていると、その良さがわかる。最終型は標準化された状態で、機能主義的、実益主義的(=ユニクロ的)になってしまう。(105ページあたり)

今はモノを所有する時代ではなく、情報を共有する時代。もっている情報が均質になっているので、空気が読めるといった部分を気にする。(106ページあたり)

みんなと一緒であることが大事なので、「まずい」とか発言するとKYってことになって、言いたいことが言えない。その分、陰の世界で悪口を書く奴が増える。(131ページあたり)

総中流社会になって10年以上が経過し、みんなが同じであるべきというのが大前提になっている。何かの都合で行けない人がいれば、みんなで行くのをやめる。(154ページあたり)

みんなが平等で、誰かが突出するのを嫌がる。仲良しのふりをして足を引っ張る。これは今の若者の特性ではなく、日本人的な現象だが、その悪い部分がネットによって助長されている。(162ページあたり)

時代的に保守的なので、自分が嫌われるリスクを負ってまで上昇したいと思わない。(167ページあたり)

今の大学生は政治や思想じゃなくて、「家族いるといいよね」とか「将来何人子供欲しい?」とかで盛り上がる。(172ページあたり)

小林よしのりなんて知らない。(178ページあたり)

政治についてまじめに議論するのは一部のインテリ層だけ。一生懸命とかは好まれない。「みんな元気?」みたいな単なる日記が好まれる。(182ページあたり)

若者が語ると恥ずかしい。権威主義的な部分がある。(184ページあたり)

周りの目を物凄く気にする。それが理由で、コミュニケーションは横に頑張る。(192ページあたり)

まずは社会が変わるまで頑張るしかない。(225ページあたり)

今は物凄く自由。新人類世代とはそこが全く違う。むしろ、不自由、自分を縛るような言葉の方が受けが良い。(228ページあたり)

均質化が進み、同調したい人には天国。それによって現実をただ享受する若者が8割という状態が生まれた。平等意識とあいまって、友達同士の中で恐ろしく平等に振舞おうとし、突出を避けている。(235ページあたり)

今の若者は人間関係の維持に対して時間とお金を費やしている。同時に、周りの人間の空気を読みすぎて、大胆な消費もしない。(236ページあたり)


といった感じ。

僕自身、大学で教えていたり、あるいは大学院生と話をすることが多いので、このあたりの年代の人間とは色々とコミュニケーションをとる機会があるわけだけれど、「あぁ、なるほどね」と思うことが多い。ただ、ビジネスにおいて僕が話をする若手というのは、この本で述べられている「8割のリア充」ではないケースが多く、その背後にはこんなにたくさんのリア充達がいたのね、ということがわかった。

確かに、この間の講義でも、3年生の韓国人留学生に対して、4年生の日本人学生が非常に親切に色々と解説してあげていて、「コミュニケーション能力高いんだなぁ」と思った。今は、横方向へのコミュニケーション能力の要求水準って、物凄く高いんだろうね。

この本は、「現状」を理解するには非常に良いと思う。「じゃぁ、どうするの?」という部分については「とりあえず頑張れ」だけなので、解法までを求めている人には「あれ?」って感じだと思う。でも、実際のところ、解法なんて「そんな気になる」だけのもので、本の通りにやったら経済が良くなるわけもなければ社会が良くなるわけでもなく(っていうか、そもそも本の通りになんかできないことの方が多いしね)、やっぱ、当事者が考えて、頑張るしかないんだよな。でも、そういうときに、みんながぼんやりと「こんなことなのかな?」と思っていることをきちんと記号化する作業というは非常に大事で、その意味でこの本は良著だと思う。もちろん、これが全てってことではないし、冒頭にも書いた通り、早稲田と立教というのがどの程度の代表性があるのか、ということもあるんだけれど、少なくとも新人類やロスジェネはこういう価値観、教えてもらわないとわかんないと思う。

特に、イマドキの若いのと付き合う機会が多い人にはお薦め。評価は☆3つ。

#ちなみに1月3日の朝日新聞朝刊に載っていた藤原新也さんの「ネットが世界を縛る」というインタビュー記事もちょっと似たようなことが書いてあった。

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