2010年02月24日

日本の科学行政を問う

日本の科学行政を問う

荒田洋治さんからいただいた本。なかなか時間がなくて読むことができなかったんだけれど、ワシントンに行く飛行機の中で読むことができた。前著である「がんとがん医療に関する23話」の続編という立ち位置で、カバーのデザインなどは同一(カラーリングは補色になっている)。でも、内容は全く別に感じる。

読み始めて最初に何気なく巻末の謝辞を読んだら、いきなり僕のことが書いてあってびっくり(笑)。荒田さんから連絡をもらって新宿でジュースを飲みながら話をしたのが10月29日なんだけれど、ブログを読み返してみてもそのときのことは特に書いてない。それで、新宿の中村屋で話したことは、僕の視点から見た今の科学行政の問題点について。荒田さんが僕に話を聞こうと思ったきっかけは、僕がブログに書いた下記の記事だったようだ。

今日の朝日新聞朝刊の中村桂子さんの「私の視点」について

この記事は中村桂子さんが朝日新聞に載せた「私の視点」について書いたもので、中村さんからもコメントをいただいたし、それなりに広がりがあったとは思うのだけれど、本に引用されるほどにインパクトがあったとは驚きである。

僕自身は、理研なり、経済産業省なりで働いて得た知識というのは、全て税金をいただきながら勉強させてもらったものであり、可能な限り、国民にフィードバックすべきだと思っているので、僕が知っていることについてはいくらでも公表するし(守秘義務違反と言われない範囲で)、話を聞きたいという人がいれば誰にでも話している。そういうスタンスなので、このときも普通に出かけていって、普通に喋ってきた。その内容を荒田さんが荒田さんのフィルターを通して本にしてくれたわけだけれど、内容はなかなか面白かった。

この本の特徴的なところは、科学者らしく、色々なデータについてきちんと出典が書かれていること。今入手できないデータはどうすれば良いのかも親切に書いてある。データの取捨選択は荒田さんの主観でやっているから、部分的に見れば良い所取りかも知れないけれど、反論したいなら反論するためのデータを見つけてくれば良いだけのことであって、その点で非常にフェアだと思う。

こういう本は正しいとか、あるいは間違っているとかではなく、議論の発端になるかどうかが重要なので、とりあえずはなるべく多くの人が読んだら良いと思う。何しろ、官僚に対する文句は的はずれなものがほとんどで、Twitterやはてブなどを見ていると「やれやれ」と思うことが少なくない。僕は意地が悪いので「そんなに官僚が羨ましいなら、一度やってみりゃぁ良いじゃん」と思うのだけれど(笑)、中に入って見てみれば、そこがどう正しくて、どう間違っているのかなんて、すぐにわかる。でもまぁ、実際のところ「やってみれば?」といわれても、学力的な問題(試験における解答能力なので、受からないからといってバカというわけではなく、単に試験スキルが低い、ということだけれど。あと、僕は官民交流法という法律を使って、特別な技能(僕の場合は政策立案能力だったかな?)を持っている人間として入省していて、試験は面接だけだった)でなりたくてもなれない人たちがほとんどだろうから(だから僻みの対象にもなる)、こういう本でちょっとでも官僚たちがやっていることを垣間見てみるのも悪くないはずだ。(純文学であっても)本の多くは一種のシミュレーションであって、実際に経験しなくても、経験したのと同等(は無理でも、ある程度)の知識が得られるもののはず。

色々と面白いフレーズがあるのだけれど、いくつか拾ってみると、

ノーベル賞が偉いのではなくて、実力があるからノーベル賞を受け、それによって自信が増して、さらに修業の道を、氷の容器とともに走っているのである。これが、真に力のある者しか通じないアメリカのの厳しさであろう。ノーベル賞であろうと何であろうと、極端に言えば、過去の燃え殻としか見られない。


人を傷つけるような発言をすることを善しとしない日本の美徳をサイエンスに持ち込むのであれば、あとは卓上の資料、すなわち官僚の思うままである。サイエンスは、インテリジェンスとインテリジェンスの闘いである。ここで日本の美特にこだわり続ければ、官僚主導の体制は変わることはあるまい。


あたり。この文章の意図するところは、本書を読めばわかるはず。

後者の姿勢はタンパク3000のプロジェクトリーダー、横山さんについて(名指ししてないけれど、分かる人なら分かる)「卑怯にも敵前逃亡し、現在はX線結晶解析の専門家に変身して、大きく政治的に発展しておられると聞いている」と言及しているあたりからも読み取れる。

荒田さんと話をしていたとき、いくつか見解の相違があったところがあるのだけれど、僕の中でひとつ大きく心に残っているのは、横山さんが自身の研究室のポスドク達を切り捨てた、というところについて。荒田さんは、「ちゃんと全員の面倒を見てあげるべきだ」という考えだったようだけれど、僕は、「横山さんも面倒を見るべき人については面倒を見たいと思ったはず。でも、予算が取れなかったのなら仕方がない。そして、横山さんは、そのことについては心を痛めているはずだ。それから、科学者として一本立ちしているなら、次の就職先ぐらい自力で見つけてくるのが当たり前だし、研究者の世界は本来そうであるべき」という見解だった。僕がその考えを提示したとき、荒田さんはちょっと意外そうな顔をしていたのを覚えている。この本を読む限り、荒田さんはかなり先鋭的だけれど、もしかしたら僕はそれ以上に先鋭的なのかも知れない。あと、横山さんに対する評価も違うのかも知れない。

いくつか、見解が異なる部分もあるのだけれど、「きちんと評価しようよ」という根底のところは全く一緒で、それを科学者的なアプローチで書いてもらったのはとてもありがたい。

僕が新聞の記事を読んでさらっと書いたブログのエントリーが巡り巡って一冊の本になったのは嬉しい感じ。そして、この本をベースに、さらに議論が進めば良いと思う。別にこの本が全て正しいと言いたいんじゃない。みんながきちんと知識を得て、その上でどうしたら良いのかを議論すれば良いだけのこと。

この本は献本していただいたので、評価はなし。

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