2009年03月20日

仕様書を満たしています

先日、共同で事業を展開しているある会社と仕事の相談をしていて、気が付いたことがひとつ。

僕たちが複数の会社で共同で開発しつつあるウェブサービスの仕事の中で、その会社にはデザインを担当してもらうことになっていた。ところが、なかなか思ったようなものになってこない。デザインとしては何の問題もないのだけれど、それが機能的になってこないのだ。

色々やってみてわかったのは、その会社が見ているのはうちの会社の、もっと言えば、僕だということ。僕から色々なオーダーとか、商品の説明とかをしているので、確かに一義的には彼らが見る対象は僕にならざるを得ない。でも、僕が期待しているのは、僕の背後にいる、僕たちの会社の商品を使うお客様たちである。その、マーケットを見て動けない会社なんだな、ということに気が付いた。

その視点からちょっと考えてみると、会社と会社の関係のみならず、会社と従業員の関係というのも大きく分けて二通りに考えられるのだろう。わかりやすく会社と従業員に絞ってみると、それは、

従業員が会社のために働く会社
従業員が会社のお客様のために働く会社

の二つである。

#ひとつの会社の中でも、従業員の考え方次第で両方のスタンスがありうるし、職務内容によっても変わってくるとは思う。例えば事務系の職員は基本的に前者になるはずだ。

思い返してみると、僕のこれまでの職歴では、ほとんどが後者だった。そうなったのは、多分一番最初に入社した三菱総研が後者だったからなんだと思う。当時の三菱総研は小規模事業者の事業協同組合みたいな会社で、それぞれの従業員(ただし、研究職のみ)がそれぞれに顧客を抱え、三菱総研という看板を利用して仕事をしていた。当然、従業員達は顧客を見て、顧客の満足度を考え、働いていた。売り上げさえクリアしていれば、上司の顔色を見て働く必要がなかった。

次に働いた理化学研究所では、僕は事務方だったので、僕の仕事は主として前者だった。理化学研究所がうまくワークしていくために何をしたら良いか、を考えて働いたし、「誰のため」という部分では8割方、研究所の研究員達が良い環境で良い研究ができるように、というのがメインテーマだった。ただ、僕自身は広報をかなりの部分担当していたので、理化学研究所に興味を持ってもらえるように、あるいは理化学研究所の研究内容がみんなに少しでも理解されるように、というスタンスを持って働くケースもあった。この仕事をやっている時間は、後者の色彩が濃い働き方だったんだと思う。

理研のあと、僕は経済産業省に行ったのだけれど、ここでの仕事はほぼ100%、国民のため、というものだった。僕がいたのは「生物化学産業課」という部署だったので、ほぼ完全にバイオの領域だけを扱っていたのだけれど、少なくとも僕が動いた範囲では、仕事の色彩は後者だった。公務員が「国民のために働く」のだから、当たり前と言えば当たり前の話である。

その次のアドバンジェンという会社は、正直に言って、微妙な位置づけになると思う。僕はこの会社では社長として働いたので、当然のことながら僕の仕事は会社のためであり、株主のためだった。育毛剤の研究開発と事業化がメインのミッションだったので、「どうやって製品化するのか」がメインテーマで、当時僕が見ていたのはハゲに悩む人々ではなく、テストを繰り返すためのネズミ達だったと思う。ただ、社長に就任して一年経ったところで、株主のために動くべきか、従業員のために動くべきか、お客様のために動くべきかの決断を迫られ、僕はお客様のために動くという姿勢を打ち出し、そして株主の理解が得られず、会社を辞めた。このあたりの詳細についてはそのうち書けるときがくると思うけれど、まだその時機ではないと思う。一つだけ情報を提供しておくとしたら、僕が会社を辞めて数年後にこんなことが起きている、ということぐらいだろう。

アドバンジェン 薬用育毛ローションの回収の概要

ちなみにクラスIIIとはこの製品によってもたらされる健康被害が「その製品の使用等が、健康被害の原因となるとはまず考えられない」と分類されるものである。

そして、アドバンジェンをやめた後、今の会社を創業したのだけれど、ライブログで見ているのは100%お客様だし、あるいはライブログのお客様のその先にいるお客様たちである。これは、普通のメーカーなどでも一緒だと思う。凄く分かりやすいところでは、自動車の販売。トヨタや日産は自動車販売店に自動車を卸すんだろうけれど、そのときに考えることは、「販売店の皆さんが売りやすい自動車」であり、それはすなわち「お客様に喜んでいただける自動車」であるはずだ。

色々なところを見てきたけれど、やはりうちの会社はエンドユーザーの方々が喜ぶことをイメージして動きたいし、それができる人としかうまくやっていけないと思う。「仕様書を満たしています」というせりふが出てくる人たちとは難しい。すくなくとも、共同事業者としては。

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