TSUTAYAの準新作100円に釣られてレンタル。
医療ドラマ、役者がちゃんとしている、の2点からして一定のクオリティはクリアしていると期待できた。ただ、唯一心配な点は監督の演出力。ついこの間見た「八日目の蝉」では、監督の演出力は明らかにマイナスに働いていた。だから、大丈夫かなぁ、と心配しつつ観たのだけれど・・・・
結論から言えば心配は杞憂だった。正直に言えば、ラストまで、「なんでこういう構成にしちゃったんだろう」と思っていた。映画を観ればすぐにわかることだから書いてしまえば、息子がお母さんの日記を見つけることによって始まる昔語りの体裁のことだ。でも、終わってみれば納得。例によってベタであることは否定のしようもないのだけれど、この監督はベタな演出をベタなままでやりたいのだろう。例えば運命的な出会いのバックグラウンドに「ジャジャジャジャーン」とベートーヴェンを流すとか、そういうヤツを。八日目の蝉ではその演出が鼻についたけれど、この作品ではそんなこともない。
映画のテーマは大きく分けて二つ。地域医療の荒廃と、生体肝移植(脳死問題)である。前者は引き続き大きな問題だろう。後者は現代では一定のコンセンサスが形成されていて、「そういえば、昔はねぇ」という感じである。ただ、そういった社会問題を指摘しつつも、この映画は信念を貫き通す一人の人間を描いた映画であり、また、恋愛映画でもあった。外科医当麻のような生き方は、誰もが理想とするものであると同時に、ほとんど全ての人間が諦めるものでもある。すでに諦めてしまった人にとっては、もう戻ることのできない生き方で、単に「残念でした」で終わってしまう。だから、この映画はまだきちんと理想を持っている若い人と、今も苦しみながら頑張っているごく僅かな年長者のためにあるような感じだ。そして、恋愛パート。描かれている関係は普通の恋愛ではない。しかも、片想いである。さらに言えば、結末がわかっている。それでも、そのパートは最後まで楽しめる。これは役者の力によるところが大きいと思う。
僕は医者ではないから、手術の現場にいたことはない。いや、正確には、いたことは何度もある。火傷の皮膚移植に始まり、最低でも4回は手術室に入り、そのうちの3回は全身麻酔だった。手術室に音楽が流れていることぐらいは知っているのだけれど、生体肝移植みたいな手術は見たことがない。だから、この映画がどの程度手術をリアルに再現しているのかは良くわからない。良くわからないのだけれど、生体肝移植手術が物凄く大変な大仕事であることはきちんと伝わってきた。このあたりも演出力と役者力に寄るところが大きいと思う。
分かりやすい善玉と悪玉の対立はちょっと映画を軽くしてしまったけれど、その点を割り引いたとしても、良くできた医療映画だったと思う。役者では、夏川結衣が良い。
評価は☆2つ半。