2011年05月06日

ユッケ食中毒について

こんな感じでユッケが食べられなくなりつつあるわけですが、

<生肉食中毒>ユッケ販売自粛広がる 他の焼き肉チェーン店
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110506-00000028-mai-soci

例によって規制強化の動きもあるようで。

生食用の肉に新基準、罰則も…厚労省方針
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110505-00000581-yom-soci

ただ、現状でも罰則はないとは言え、基準はあるわけです。「えびす」の社長の逆切れ会見で、それを守っているところがないだけとわかったわけですが。



基準があるのに誰も守らない原因は二つあって、一つは「罰則がないこと」。これはあちこちで書かれているからみんな知っている。そして、もう一つは「面倒くさいこと」。つまり、「そんなの、守ってらんないよ」という基準だというのがある。それで、基準ってどんなの?って、それはここにある。

生食用食肉等の安全性確保について(厚生省生活衛生局乳肉衛生課)

確かに面倒くさそうだ。こういう面倒な基準に罰則ができると、新規で業界に参入しづらくなるので、経産省的な視点からは「もうちょっと緩くしろよ」ということになるし、厚労省的な視点からは「しめた!これでもっと厳しい基準を作ることができる。場合によっては監視する組織を作ることもできる。天下り先が増える」となる。

手間がかかるようになるとそのコストは商品に上乗せされるから、ユッケの値段は高くなる。これは安心料。安心料を払えるお金持ちはこっちを食べてね、貧乏人はユッケは我慢しなさい。ユッケを食べなくても死なないよ、となる。

さて、そこで貧乏人はどう考えるか。高いユッケは食えない。俺たちが食いたいのはユッケじゃない。安いユッケだ。安心料にお金なんか払っていられるか。カンピロバクター上等!大腸菌上等!

肉による食中毒はほとんどのケースが加熱不足。では、その肉類の食中毒の状況はどうなのか、というと、こんな感じで増加傾向。

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日本の食中毒全体が減少傾向の中にあって、これは「ほう」という感じ。つまり、生肉の衛生環境はここ数年劣化してきていて、その延長線上に今回の事故があったということだ。じゃぁ、どんなお店が食中毒を出しているの?ということになって、ここからは仮説。

たとえばフーズフォーラス(焼肉酒家えびすの経営企業)の会社概要(なんか削除されているけれど、今ならキャッシュで見ることができる)によれば、設立は平成10年。要は、若い会社がいい加減な扱いで生肉を出しているんじゃないの?と。昔からやっている焼肉店では、厚労省の基準は満たしていなくても、それなりに自主基準でやってきていたんじゃないの?

さて、ではこの仮説をどうやって証明しよう。一番良いのは、食中毒を起こした会社に関する個別データがあることなんだけれど、残念ながら厚労省はそこまでのデータを公開していない。仕方が無いので、もうちょっと遡ってデータを補完してみる。

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あら。単にトレンドが明確になっただけ。つまり、肉による食中毒はどんどん増えているってことだ。これは個人的にはかなり意外。日本の食品衛生はどんどん良くなっているもんだとばかり思っていた。だって、食中毒の数も、食中毒による死者も、ずっと減り続けていたんだから。

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じゃぁ、肉の消費量は変化しているのかなぁ、と思ってちょっと調べてみたんだけれど、例えばこんなグラフを見るとここ20年ぐらいで大きな変化は見られない。

牛肉の家庭内消費

どの肉の消費量も、増えも減りもしていない感じだ。ここでもうひとつ残念なのは「肉」の内訳がわからないこと。牛なのか、豚なのか、鶏なのかは結構重要なのに。厚生労働省、しっかりしろよ。ということで、ここからまた推測の時間。豚肉による生肉食中毒の発生というのはちょっと考えにくい(特殊な豚以外では生食する文化が日本にはない)。一方で鶏肉はカンピロバクターが存在する可能性が高いので、鳥刺しとか、たたきとかでの感染が増えている可能性もあるのだけれど、そこまでのデータがないので良くわからない。推測されるのは、「この10年ぐらいでできてきた焼肉、焼き鳥屋の生肉がやばいんじゃないのか」ということ。いや、かなり乱暴な推測なんだけどね。肉の一番最初の部分での安全性は変化なし、とか、いくつかの前提条件はあるわけで。

乱暴な仮説の上に乱暴な仮説を積み重ねた結果、見えてくるのは「昔からの焼肉屋さんのユッケなら安心出来るんじゃないかな」ということ。最近経営者が代替わりしたとか、経営方針が大きく変わったとか、昔はユッケなんてメニューになかったのに!という店はちょっと注意が必要。それからこの10年ぐらいに新規参入してきたところも要注意。

そして、そういうお店とか、そういうお店のお客さんというのは、今後なされるかも知れない規制強化からはとばっちりを受ける形になる。「過去30年、一人も食中毒を出していません」みたいなのは、それなりに信用に足る判断基準だと思うんだけどね。

#もちろん、今後食中毒を出せばその看板はパーになるわけで、お店はお店で引き続き衛生面で努力するはずだし。

ま、安全性というのは単に規制緩和と言い切れない部分もあって難しいですな。「厚労省の基準を満たした店」と、「過去30年食中毒を出していない店」と、「食中毒が出たら高額の賠償金を払いますという店」と、どれが良いんだろう。

僕としては、昔からの馴染みの店で昔からの価格で昔と同じように食べられるのが良いんだけどね。「当店の肉は表3秒、裏3秒」とかね。ただ、僕はユッケは別に好物じゃないんだよな。あれば食べるけれど、なくても良い。でも、レバ刺しは好き。

確かなのは、「焼肉酒家えびす」がいろいろな意味で大迷惑だってこと。

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この記事へのコメント
元木さん、ご無沙汰しています。
元木さんのブログは本当にためになります。勉強になりました!
Posted by 猪野 at 2011年05月07日 12:58
> 元木さん、ご無沙汰しています。
> 元木さんのブログは本当にためになります。勉強になりました!

おお、こちらこそご無沙汰しております。先日、中山さんと話す機会があって、猪野さんのことも話題になりました。

引き続きよろしくお願いいたします。
Posted by buu* at 2011年05月07日 17:46