2011年05月28日

御用学者の明けない夜

昔、ある国で歌留多下手議定書(仮名)という国際条約の担保法律を作ったことがあります。この法律は環境に関連するお役所、農業や水産業に関連するお役所、経済や産業に関連するお役所などが相談して一緒に作ったものです。今回は、その時のお話です。

その年の12月、法律を作っている最中に「骨太」案と「骨抜き」案の二種類が役所から立案されました。どこのお役所の人達も、みんな「骨太」案を支持しました。ところが、何故かひとつの省(以後「どこで省」と表記します)だけが「骨抜き」案を支持しました。みんな、何故「骨抜き」案が良いのかわかりませんでした。実は、どこで省は、「法律を出来る限り骨抜きにしたい」と考えていたのです。もっと言えば、どこで省の担当課の課長が、骨抜きにしたかったのです。課長がなぜ骨抜きにしたかったのか。それは今となっても誰にもわかりません。

さて、どこで省はなんとしても骨抜きにしたかったのですが、この意見は本来ならずっと前の、8月に出すべきものでした。それなのに12月になってから突然骨抜き意見を述べ始めたため、他のお役所からの賛同は全く得られませんでした。でも、課長はどうしても「骨抜き」案を支持して引き下がりませんでした。

みんなから反対されてしまい、課長はどうしたら良いのかを考え、自分の課員に言いました。

「他府省のみんなが「骨抜き」案を支持してくれないのはおまえらのやり方がまずいからだ。御用先生(仮名)を担ぎだそう。そして、アカデミックな立場から「骨抜き」案を支持して貰おう。ただし、御用先生には無理強いするなよ。まずはあくまでフラットに、御用先生の意見を聞いてこい!」

もうクリスマスも終わった頃、課員は専門家の御用先生の所に資料を持っていきました。そして、

「御用先生、サイエンスベースに立った見解を伺いたいのですが、どちらが良いでしょうか?」

と、フラットに聞きました。御用先生は応えました。

「私は「骨太」案が良いと思うよ」

課員はみんな「やっぱりな」と思いました。誰がどう見ても、「骨太」案のほうが良いのです。課長以外は。みんなは課長の反応を想像して困ってしまいましたが、フラットに聞いた結果、先生がそういうのだから仕方ありません。役所にもどって課長に説明しました。すると課長は

「お前ら何やっているんだ!説明の仕方が悪いんだ。それじゃぁ何しに行ったんだかわからないじゃないか。ちゃんと採ってこい。」

怒鳴ったのは良いのですが、時間がありません。課長は「このままじゃ「骨太」案になってしまう。課員には任せておけないので、資料だけでも自分で作り直そう」と考えました。その夜、課長は自分で資料を一生懸命詰めて、資料を作り直しました。そして、次の日の朝、その資料を課員に持たせました。「お前ら、これを持って行け」。課員が御用先生の所に行くと、御用先生は話をする前からもうすでに不愉快そうです。当たり前です、年末の忙しい時ですから。

「君たちは一体何をしに来たんだ。昨日、私の意見は言ったはずだ。「骨抜き」案の問題点は昨日述べたとおりだよ。君たちの説明が変わってもやはり「骨太」案が優れていると思うよ。」

課員達は途方に暮れました。でも、仕方がありません。フラットに聞くのは課長の指示ですし、持っていった資料は課長の渾身の作です。そして、課員は誰も骨抜きにする意義がわかっていないのです。これではやりようがありません。みんなはすごすごと引き下がり、役所に戻ってことの次第を課長に説明しました。予想通り、課長は激怒しました。

「年内に御用先生にもう一度説明しろ!」

課長は御用先生が「骨抜き」案を支持してくれるまで引き下がらない勢いです。

課長に言われた翌日の12月28日は土曜日でした。もちろん御用納めの後でしたが、御用先生を土曜日に役所に呼び出すことになりました。年末のお休みの最中だというのに役所に呼び出された御用先生は

「これは困ったことになった。このままでは無事に正月を迎えられないかもしれない」

と考えました。

御用先生は、なぜどこで省がそこまで「骨抜き」案にこだわるのかはさっぱり判りませんでした。でも、こうやって正月が迎えられないかもしれないという状態に追い込まれてみると、自分がそうまでして「骨太」案にこだわる必要もないのではないかと思えてきました。ここでちょっと宗旨替えするだけで、御用先生は平和なお正月を迎えることができるのです。

「うーーーーーん、なんか、「骨抜き」案は筋が悪いので通らないと思うが、まーいいか」

と答えてしまいました。課員は大喜びで自宅にいる課長に報告しました。

年が明けて、各省間での調整が始まりました。しかし、相変わらずどこで省を除く府省は「骨太」案が良いと言って譲りません。このままでは「骨太」案になってしまいます。そこでどこで省の課長は考えました。

「よし、委員会を開こう。各省にも委員会を開かせ、委員会対決に持ち込もう。我々の委員会では、御用先生からアカデミックな視点で「骨抜き」案が良いということを力説して貰おう」

御用先生はすでに「骨抜き」案を支持しています。他の役人がどう言おうとも、やはり所詮は大勢の素人。それよりも一人の専門家の意見の方が重いはず、と課長は考えたのです。課長に委員会の開催を指示された課員は1月22日に委員会を設定しました。

そんな状況の中で、22日の前に各省の担当課長による会議がもたれました。その会議にはどこで省の課長も自ら出席しました。そして、その場で「骨太」案、「骨抜き」案の評価となり、いつも通り白熱した議論が繰り広げられました。このとき、どこで省の課員は全員、課長が「骨抜き」案支持でどこまでも頑張るつもりだろうと思っていました。ところが、他の府省の説明を聞いたあと、課長は何故か「骨太」案支持ということで納得してしまったのです。

「じゃぁ、「骨太」案で」

こうなると、困ったのは課員です。そもそも、何のために委員会を開くのか、その意味がわかりません。意味がわかりませんが、役所ではこういう委員会をキャンセルすることは絶対にありません。仕方がないので、何も決めることがないのに「現状報告」と称してどこで省の委員会が開かれました。年末ののんびりしていたい時に何度も訪問されたり、呼び出されたりして無理矢理梯子を登らされたあげくに梯子をはずされ、おまけに放火までされてしまったような御用先生は本当にお気の毒でした。

そのあと、どこで省の課員が御用先生のご機嫌を取るのに四苦八苦したのは言うまでもありません。

めでたくない、めでたくない・・・・


教訓:明けない夜はない。迎えられない正月もない。

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この記事へのコメント
この素敵な「どこで省の担当課の課長」さんは、いまでも「どこで省」で采配を振るわれているのでしょうか?
「ある国」の将来を心配してしまいます。
Posted by カルタヘナ子 at 2011年05月28日 02:45
> この素敵な「どこで省の担当課の課長」さんは、いまでも「どこで省」で采配を振るわれているのでしょうか?

この怪文書は作成された次の日に霞が関(仮名)に行き渡り(人事院含む)、その後課長氏は退職されました。

なお、本文書は原版に多少手を加えてあり、完全なオリジナル版ではありません。
Posted by buu* at 2011年05月28日 03:18
この課長さんはもしかして「ある国」で議員さんをされていたりするのでしょうか。
Posted by そうですか at 2011年07月15日 01:11
> この課長さんはもしかして「ある国」で議員さんをされていたりするのでしょうか。

そうですね。
Posted by buu* at 2011年07月15日 01:15