2011年06月20日

「放射線被曝による健康への影響の目安は100ミリシーベルト」っていう常識、読売新聞がミスリードしたの?

僕のブログでは、何度も「被曝による健康被害の最小値については1ミリシーベルトから100ミリシーベルトの間で研究者の中でも意見が割れている」と書いてきたのだけれど、僕が一番最初に100ミリシーベルト説を新聞で見たのはこの記事だと思う。

放射線対策 健康への影響、100ミリ・シーベルトが目安(2011年3月22日 読売新聞)
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=38404

今日、ちょっとこの記事を見なおしていて、「あれ?」と思ったのは、

 被曝量が減るにつれて、がんの発症率は減る。100ミリ・シーベルト以下の被曝を受けた約2万8000人のうち、40年間にがんを発症した人は約4400人で、被曝をしていない人に比べ、約2%(81人)多かった。


という記述の中の、「100ミリ・シーベルト以下」という部分だ。100ミリ・シーベルトではなく、100ミリ・シーベルト以下、である。これだと、10だろうが、1だろうが、0だろうが含まれてしまうことになる。どうしてこんな曖昧な記述をするんだろうな、と思いつつ、この記事の元データを探してみることにした。いくつか当たってみたところ、どうやら放射線影響研究所の調査結果のようだ。

財団法人 放射線影響研究所 RERF Website
http://www.rerf.or.jp/index_j.html

しかし、ざっと見たところ、それらしいデータが見当たらない。はてな?と思って良く見てみると、「※ 現在、放射線影響研究所のホームページは東日本大震災による福島原発の事故のため、変更されています。これまでのホームページへはここをクリックして下さい。」という注意書きがある。冒頭には書いてあるものの、何か怪しい気配である。普通なら、トップページはそのままにして、特設ページを作るものだ。これまた不思議だな、と思いつつ、旧サイトにアクセスしてみた。

旧サイト
http://www.rerf.or.jp/index_ja.html

なるほど、URLをindex.j(多分、日本語版の意味)からindex.jaへと変更したわけだ。でも、情報はそのまま残っている。この中の「調査研究活動」という項目の中に、「放射線の健康影響」というメニューがあるので、これをクリック。さらに、「被爆者における後影響 原爆被爆者における固形がんリスク」というを調べてみた。あぁ、これだ、ちゃんとありました。

kokeigan

(クリックすると巨大化します)

細かい数字が若干異なるのだけれど、そこは数字を丸めてあるので仕方がない。結論も、このサイトでは1.8%増となっているところ、読売新聞では約2%と危険よりに近似しているので良心的とも言える。しかし問題は、やはり「100ミリ・シーベルト以下」の部分である。このサイトのデータを見る限り、確かに100ミリ・シーベルト以下には間違いないが、実際は「5〜100ミリ・シーベルト」である(サイトではGy(グレイ)を単位として利用しているけれど、対象となる放射線の線種を考慮するとグレイ=シーベルトと考えて差し支えない)。「100ミリ・シーベルトより低線量では影響が確認されていない」という記述をあちらこちらで見かけてきたけれど、実際は5〜100ミリ・シーベルトで影響が確認されていて、最も安全よりに解釈するのであれば、「5ミリ・シーベルト以上(あるいは5ミリ・シーベルトより上」)では健康への影響が確認されている」とできるのである。百歩譲って5以上とはしないまでも、このデータを以て「100ミリ・シーベルトより低線量では未確認」とは、絶対に言えない。あくまでも、5〜100ミリ・シーベルトの被曝者について「影響あり」と言えるのであって、これは5でもなければ100でもないのである。それが科学的なデータの見方というものだ。常識的に言って全部100でもないし、全部5でもないはずだ。表の傾向を見ればより低線量側に比重がかかっていても不思議ではないけれど、こうした推測もやるべきではない。

読売新聞によれば、この追跡データが放射線の被曝による健康への影響を長期的に調査した唯一のデータとのことだ。その放射線を一度に被曝したのか、あるいは長期にわたって被曝したのかなど、条件面で確認すべき点があるのは間違いないのだが、仮に世の中に流布されている「100ミリ・シーベルトより低線量の被曝では健康への影響が確認されていない」という説の根拠がこのデータにあるとすれば、それは完全なミスリードである。それとも、このデータとは別の、読売新聞が3月22日の時点では確認できなかったデータが存在するのだろうか。

恥ずかしながら、僕は今日自分で調べてみるまでこのことに気が付きませんでした。あたかも常識のごとく、「100ミリシーベルト以下の科学的データは存在しない」というのを信じてきていました。皆さんはどうですか?

#でも、少なくとも、5ミリシーベルトまでのデータは放射線影響研究所のサイトにありますよね?それが都合悪くて、トップサイトを交換したのかな?????

この記事へのコメント
そのページで引用されている原著論文、Preston2007を読むと100mSv以下では統計学的な有意性が認められていません。統計処理をどう考えるかは情報の受け手の問題だとは思いますが。
Posted by g-hop at 2011年06月20日 19:42
> そのページで引用されている原著論文、Preston2007を読むと100mSv以下では統計学的な有意性が認められていません。統計処理をどう考えるかは情報の受け手の問題だとは思いますが。

あれ?だとすれば、読売新聞の記事は全然的外れということですよね。ペーパーはこれか。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17722996

アブストラクトだけじゃわかんないな・・・・。
Posted by buu* at 2011年06月20日 20:00