2011年07月30日

Twitter後のネット社会 番外編 その9 自治体までFacebook

こんなニュースがあって、どうして日本人は海外ブランドが大好きなんだろうね、と驚きます。

「市長がはまっている」 佐賀県武雄市、市のページをFacebookに完全移行へ
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110729-00000043-zdn_n-inet

自治体の公式サイトをFacebookにしてしまうそうですが、これは問題点が多すぎてどうなの、という話です。

ちょっと別の話になりますが、私が良く受ける相談として楽天への出店相談というのがあります。小さな会社が「営業チャンネルを増やす目的で楽天に出店したいと思うが手伝ってくれないか」とコンサルテーションを申し込んで来るのです。その際に私がお伝えするのは、

「楽天に出店するということは、いわば銀座の一等地や、超一流のデパートに出店するのと一緒です。また、どんなに長いことそこにいても地上権は発生しません。ブランド力は強化できますが、かなりの部分を運営コストとして持って行かれます。否が応でも、多売を強いられることになります。「たくさん売れると良いな」から、「たくさん売らないとまずい」へとスタンスが変わります。忘れてはならないことは、楽天が多額の利益を出しているということ。その利益は、皆さんのお客様たちが、皆さんにお支払いするお金の中から、広く浅く吸い上げるお金です。言葉は悪いですが、やればやるほど楽天が儲かります。その点を認識してください」

ということです。ごく一部の例外を除いて、楽天への出店はすぐに「こんなはずではなかった」ということになります。なぜなら、楽天に出店する方々がきちんとこのことを理解していないからです。

さて、Facebookです。Facebookは確かにそこそこコミュニケーション機能が利用できて、そこそこに楽しいシステムです。例えば、私は合コンに行った時、そこにいた女性がFacebookに登録している、ということなら、すぐにフレンド申請をします。そのおかげで、相手との連絡が簡単になるのはもちろん、飲み会の際にはわからなかった相手の人となりを知ることができます。そういう、コミュニケーションの補完ツールとしては非常に優れた特性を持っていると言えます。だから、公共機関が、一般生活者とのコミュニケーションチャネルを増やす、というのなら、「あぁ、それは良いかもね。ちゃんと使いこなせるなら」ということになります。

しかし、この場合はどうでしょうか。サイト機能を丸ごとFacebookに移転、というのには、いくつかの疑問があります。それは、楽天への出店(=銀座のデパートへの出店)に通ずる部分が少なくありません。では、疑問点を「銀座の一流デパートに出店する」ということにたとえつつ、説明していきます。

1つ目。まず、公共機関のサイトは常時アクセスできる必要があります。地震で大きな被害が出た時も、津波でやられた時も、常に情報を発信し続ける必要があります。そういう責任があるわけです。ところが、サイトをFacebookに移した場合、アクセシビリティは全てFacebookに丸投げ、という状態になります。デパートへの出店で言えば、「市庁舎をデパートの中に置く」ということになります。確かに、デパートの中にあれば便利かも知れません。しかし、デパートがお休みになったら、同時に市庁機能も麻痺します。Facebookは、ときどき「閲覧できない」とか、「なぜかメッセージが読めない」といったトラブルに見舞われます。そのシステムは決して強固ではありません。そういうトラブルの最中に災害が起きたらどうするのでしょうか。何かが起きたときに「現在、定期メインテナンス中です」とか、「原因不明だけどアクセス出来ない」ではお話になりません。

2つ目。Facebookも何らかの広告モデルを導入するかも知れません。そこに掲載される広告を、店子である自治体は操作できません。市庁機能をデパートに入れた時、横にどんなお店があっても文句を言えないのです。さすがに一流デパートでは隣がキャバクラです、といった事態にはならないでしょうが、Facebookがそういうコントロールをきちんとやってくれる保証はありません。

3つ目。サイトの閲覧環境に口出しできません。Facebookでは、コンテンツを表示できるサイズに制限があります。好き勝手にどんなサイズでも掲載できるわけではありません。大きな地図を載せたいな、などと思っても、その仕様はFacebookサイドに決められてしまいます。デパートに間借りしようと思ったら、借りるスペースの間取りについては文句を言えませんし、たとえバリアフリーじゃないとしても、「これでは困る」とは言えないわけです。その対応は全て大家さん次第になってしまいます。

4つ目。Facebookというコミュニケーションツールと融合してしまうことによって、確かに市民とのチャンネルは増えますが、それは必要以上になってしまう可能性があります。市長のアカウントはもちろん、市役所の職員のアカウントも普通に公開されるわけで、同時に市民もアカウントを持った場合、職員と市民が常につながってしまう可能性があります。「俺が市役所に大事なお願いをしたのに、職員は『今日の昼ごはんがさぁ』などと寝ぼけたことを話していやがる」などとフラストレーションを持たれかねません。職員がオフの時間にデパートで買い物をしていたら、「あんた、職員でしょ!私が出した苦情に対応しなさいよ、今すぐ!」と文句を言われちゃうようなものです。Facebookは実名利用が前提で、複数アカウントも持てませんから、「私は市役所の職員です」とのぼりを立てながら歩き回っているようなものです。

5つ目。下世話な話かも知れませんが、市役所機能をFacebookに移行したことによって、何かしらの経済的効果が発生したとします。たとえばバナー広告とかですが、こうした際に生じた利益は全てFacebookのものです。そういう利益は、できれば国内、もっと言えば市内の企業のものになった方が良いのではないでしょうか。Facebookを使っていては、市の税収も増えなければ、雇用も創出されません。市庁舎機能を移転したデパートが、市の外にあるようなものです(Facebookなら、米国です(笑))。

6つ目。Facebookは、Facebookの論理でアカウントが削除されてしまうことがあります。何かの間違いで市長のアカウントが削除されたらどうするのでしょうか。店長が自分のお店に入ろうとしたら、訳もわからず「あなたは立ち入り禁止です」と言われるようなものです。自分のお店なのに(笑)。しかも、その基準は全てFacebook次第で勝手に決められてしまうのです。

7つ目。FacebookとGoogleが喧嘩をして、Googleの検索結果にFacebookが含まれなくなるといった可能性もゼロではありません。デパートの案内嬢に「納税課はどこですか?」と聞いたら、「そんなの、知らないですよ。勝手に探してください」と言われちゃうようなものですね。

ぱっと考えただけでも、こんなにたくさんの問題が考えられます。ソーシャルメディアは確かにメリットも多いのですが、逆にデメリットもたくさんあります。市のサイトを完全に移行してしまうというのは、非常にリスクが大きいことです。あくまでも、プラスアルファの機能強化策と位置づけるべきでしょう。

今後どうなっていくのか、その動向に注目したいとは思いますが、安易に真似をするとやけどしかねない、というのが現在の私の見解です。


関連エントリー
その1「情報拡散は公式RTを利用しよう」

その2「自分ができることをやる」

その3「ポジティブ情報も生き残れないTwitter」

その4 ツイッターでの議論はソーシャルリンチにつながります(草稿)

その5 自分にとってのカリスマ

その6 芦田さんのツイッター微分論について その1

その6 芦田さんのツイッター微分論について その2

その7 来る前に終わった?フェイスブックの時代

その8 遅れて登場した「村の重鎮」


アゴラブックスより「Twitter後のネット社会」絶賛発売中!
売り場はこちら→Twitter後のネット社会
買い方はこちら→アゴラブックスで「Twitter後のネット社会」を買う! 〜楽天編〜
aftertwitter


この記事へのトラックバックURL