2011年09月19日

Pain

ここ数年、まじめに観に行く芝居は野田秀樹さんが池袋芸術劇場でやるやつか、あるいは野田さんが連れてきて芸術劇場でやるものだけだったんだけど、この間、吉祥寺でやった秦さんの芝居がなかなか面白かったので、今回中目黒でやっている「Pain」も観てきた。

正直、これはめっけもん。適度に躍動感があって、適度に複雑で、そして面白い。冒頭から「この女性は何なの?幽霊?」って感じの登場人物がいて、彼女を中心にして1970年ぐらいと、2000年ぐらいの間を行ったり来たりする構成になっている。簡単に言ってしまえば母と子の物語なのだけれど、そこに描かれているものはなかなかに普遍的であり、奥が深い。一つの正解があるわけでもなく、それでいて秦さんの明示する一つの「解」があって、それが潔い。「観る人が勝手に解釈してくれ」じゃない。正直に言って僕はこの芝居が提示したものには共感ができない。それは物凄く近い境遇にある人間として。だけど、そういう人生もあるだろうな、と思う。

僕が「いちろう」だったり、母子家庭育ちだったり、ベンチャー企業の社長として金鉱探しをしていることもあって、何か、非常に個人的な芝居に感じられてしまった。

いくつか疑問点をあげるなら、まず、冒頭とラストにあったシークエンス。これ、なくても良かったと思う。別にあっても良いけれど、これがあるおかげで大きなメリットはなかったような。一方で、これ自体が結構面白いつかみなので、それが尾を引いてしまって、「あれ?あれは何だったの?」となってしまう。ダンスシーンも可愛らしいけれど、無理に子供たちを引っ張り出してきた意図は良くわからない。どういう意味なんだろう?あと、何か肝になる名台詞が欲しかった。この芝居を一言で表すならこれだ、というもの。もしかしたらあったのかも知れないけれど、ラストのシークエンスのおかげでそれがぼけてしまったと思う。そういう意味でも、ふたつのゴルフのシーンはなくても良かったな、と思う。

役者に言及すると、まず主役の藤原習作さんが良い。どこにも駄目な点が見当たらない。重要な役どころの築山万有美さんも良い。ほとんど感情を表に出さず、淡々とした演技に徹しているのだけれど、黒子のようなセリフのない動きを様々な場面の背景として提供していて、ここが一つの見所になっている(かといって、こればかり観ていると舞台のメインストリームを見失ってしまうのだが)。それから、これまた重要な役どころの藤沢大悟さんもなかなか味がある。ずっとテンション高めなんだけれど、その背後に悩みや影を背負った若者を好演している。何人かの感想を聞いたら、「あぁいう軽い男は嫌い」という女性がいたけれど、彼は軽いのかなぁ。あんまりそうは思えない。滅茶苦茶貫禄のある年増女性を演じていた比企理恵さんも良かった。もう十年以上観ていなかったと思うけれど、今でも活躍していて素晴らしい。

他の役者さんたちも、みんな地声で頑張っていて良かった。小さい劇場だから当たり前といえば当たり前なんだけれど、芝居はやっぱり地声が良い。

この芝居は本当に良い芝居だよ。これを観ないのはもったいない。まだチケットがあるのかどうか知らないけれど、明日、暇なら中目黒に行くべきだと思う。これが後に「あの芝居がさぁ・・・・」と語られるかどうか、僕はわからない。だけど、4500円の価値は間違いなくある。もし明日、空席ができるなら、その分は僕が埋めても良いくらいだ。

明日最終日。マチネが13時から。ソワレは18時から。

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