2011年11月10日

Twitter後のネット社会 番外編 その12 地獄への道は善意で敷き詰められている

「福島の子供たちを救うために24時間」というサイトがあります。
http://www.avaaz.org/jp/save_the_fukushima_children_1/?fp

「請願書に署名してください」という主旨のサイトで、請願書の内容は次のようなものです。

内閣総理大臣 野田佳彦 殿:
私たち憂慮する市民は、日本政府が、 未だに高放射能汚染地区に閉じ込められている福島市の子ども達を守るため、 早急に行動をとるよう強く要請します。 特に、渡利地区の住民に避難の権利があることを認識し、 安全地域に移住したいと望む人々に緊急の支援を提供するよう求めます。 子ども達、孫達の未来がかかっています。もはや時間はありません。


この記事を書いている時点(2011/11/10 11:00)で、Facebookで情報共有した人が約3.8万人、ツイッターでつぶやいた人が1.4万人もいるようです。私の友達の中にも、何人も「署名しました」と表明した人がいます。

しかし、署名する前に一度立ち止まってみて欲しいのです。このサイトの文章には2つ、「?」と思う所があります。

一つ目は、「黒い雨が空から降り」というものです。これは本当なのでしょうか。黒い雨が降ったとなればかなりセンセーショナルなのですが、私は昨日までこのニュースを知りませんでした。

もう一つは請願書の中身で、「特に渡利地区を何とかして欲しい」という趣旨のことが書いてありますが、渡利地区って、どこ?というものです。この手のことはちょっと調べればすぐにわかりますから、渡利地区について調べてみると、こんなニュースが見つかりました。

妊婦と子どもだけでも避難させてほしい――放射能汚染が深刻な福島市渡利地区住民の切実な訴えにも無策の政府
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20111029-00000000-toyo-bus_all

なるほど、渡利地区の人々の状況はこの記事を読めばある程度理解することができます。ただ、同時に、「福島には同じような地域があるのではないか。そこも何とかしないとまずいのではないか」という疑問が生じてきます。それより何より、これまでに署名した人のどのくらいが、このニュースを知っていたんだろう、とも思います。少なくとも私は、こちらについても昨日まで知りませんでした。

ネットでの署名集めは非常に簡単です。しかし、簡単だからこそ、一時の感情でなんとなくやってしまう部分があるのではないでしょうか。そういう署名には、どの程度の価値があるのでしょうか。活動の目的自体は正しいと思いますが、きちんとした活動であることを示すためには、まず渡利地区の実情に関する記事をきちんと読んで理解してもらい、その上で署名してもらうべきだと思います。たとえば、良くある、Eコマースサイトの利用規約に関するシステムの利用などが考えられます。恐らく、利用規約をきちんと全部読んでいる人は少ないと思いますが、何もないよりはずっとマシなはずです。大事なことは、署名する人が渡利地区に関する知識を持っていることです。

署名した人は現時点で8万人近くになります。その人達は全員が福島に黒い雨が降ったと信じているのでしょうか。あるいは、全員が渡利地区のことをきちんと知っていたのでしょうか。

「Twitter後のネット社会」で指摘しましたが、今のネット社会は「空気を読む」「雰囲気に流される」社会です。雰囲気に流されただけの署名を集めるのには、Facebookやツイッターは大きな威力を発揮すると思います。しかし、今回の署名で大事なことは、私達が渡利地区、もしくはその近所の、同じような状況に追い込まれている地域に関する正確な知識を得ることです。知識を得た上で、「これはおかしい。野田総理、なんとかしてください」と署名することには私は賛成です。しかし、多くの人が、何も調べず、なんとなく福島が可哀想っぽいから、とか、みんなが署名しているから、とか、知り合いが署名したから、とか、知り合いに頼まれたから、という理由で署名したのであれば、その署名の価値は大きく低下すると思います。

すでに署名した人が、どの程度、「黒い雨」や「渡利地区」についての知識を持っていたのか、私にはわかりませんし、調べようもありません。しかし、そこそこの割合の人が何となく署名をしていたんじゃないかな、と思いますし、何より、この署名サイトにおいて、そういった情報の提供がなされていないことに違和感を持ちます。

私は福島の人達、特に子供たちのうち、避難したいと考えている人は自由に避難できるのが当たり前だと思います。色々と調べた後では、この請願書の主旨にも賛同します。しかし、この請願書に署名することについては後ろ向きです。

繰り返しですが、署名したみんながきちんと理解した上で署名しているのなら、何の問題もありません。しかし、もし理解しないで署名しているとすれば、それは典型的な「衆愚」です。3.11の前も、そして後も、散々言われた言葉をもう一度思い出してください。

The road to hell is paved with good intentions.
地獄への道は善意で敷き詰められている


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この記事へのコメント
たしかに…「サインする」という事の重大性を認識している日本人は少ないかもしれませんね。街頭の署名なんて、考える余裕与えませんね。
あらゆる事に当てはまりますが、よく調べて考えないとイメージ戦略に騙されて、事によってはとんでもない事になるかも知れませんね
Posted by あきこ at 2011年11月12日 09:47
> 街頭の署名なんて、考える余裕与えませんね。

もちろん日頃から問題意識を持っていて、良く知っていることについてならどんどんやれば良いんだと思うのですが、今回のは「あれ?」という感じでした。確かに、街頭の署名も似たようなものが多いですね。

> あらゆる事に当てはまりますが、よく調べて考えないとイメージ戦略に騙されて、事によってはとんでもない事になるかも知れませんね

調べるきっかけになるなら良いんだと思うのですが、調べていない人が大きんじゃないのかなぁ、と想像しています。
Posted by buu* at 2011年11月14日 14:00