2012年01月15日

将棋電王戦の今後の展望とか、ボンクラーズの中身とか

将棋電王戦、毎年一局ずつの予定で来年はプロの四段と対局予定だったのが、昨日の米長永世棋聖の敗戦のあと、5対5の対局に変更となった。

この変更の理由は公表されていないけれど、多分次のようなことだろう。

1.ソフトが予想以上に強い
表向きはソフトとプロ棋士の対局は実施されていないけれど、裏では散々やっているはず。プロ棋士がネットで解説をやっているのを裏方として見ていたことがあるけれど、彼らはいつもソフトで最善手や詰み筋をチェックしていた(2ちゃんも見ている)。また、ちょっとした暇つぶしでソフトと対局することも結構あるようで、自分で「裏ではコロコロ負けています」と告白したプロ棋士もいる(本人が直接僕に話したので間違いない)。最先端のソフトでも普通のPCで動くだろうから、「インストールしますので、使ってみてください」と、開発者からソフトをもらっていても何の不思議もない。なぜなら、開発者にとっても試してみてもらえることはありがたいからだ。

それで、数年前までは、「女流やトップアマには勝てるけれど、プロ棋士にはまだ難しい」レベルだったんだと思う。これだと、プロ対ソフトを頻繁にやっても、「まだまだ駄目だ」ということになるし、かといってソフトはミスを見逃さないので、ちょっとしたミスで負けてしまう可能性もある。となると、棋士にとっては「勝ってあたりまえなのに、油断するとあっという間に必敗になる」という、割の悪い勝負となる。勝ってあたりまえでは、頻繁に勝負する意味もない。ところが、そろそろ男性のプロ棋士とやってもそこそこに勝負になるレベルになってきたのだろう。

2.マネタイズが見えてきた
負けても恥ずかしくないレベルになったとはいえ、プロ棋士にとっては危ない橋には違いない。そして、それがあまり利益にならないのであれば、やる意味がない。しかし、今回の米長永世棋聖対ボンクラーズで、ネット中継にそこそこのアクセスがあったんだろう。そして、中継者にもかなりのメリットがあったんだと思う。コンテンツが収益をあげられるのであれば、もっと数を増やしても問題はない。ただでさえ経営が難しくなっている将棋連盟だから、儲けられるときに儲けておいたほうが良い。「もう人間ではソフトに全くかないません」となってからでは遅いのだ。「コンテンツとしての価値があるうちに対局をたくさんやっちゃいましょう」という判断があったんだと思う。

3.トッププロはまだまだソフトに負けない
渡辺竜王が「来年は絶対にやりません。順番があります」と断言していたところを見ると、まだ渡辺竜王は本気を出せばソフトにほとんど負けないんだと思う。裏で対局していないとも思えず、「大体この程度のレベル」というのはわかっているんだと思う。また、解説を聞いていても、ボンクラーズの指し手については渡辺竜王はほとんどひと目で指摘していた。このあたりを見ていても、ソフトの強さは

渡辺、羽生>二人を除くトッププロ>(中堅以下のプロ、ソフト、女流、トップアマ)>アマチュア

ぐらいの場所なんだと思う(括弧内については順序は不明)。


来年は連盟から5棋士(多分、若手)とソフト上位5つとの対局とのことだけれど、これはどうなんだろう。最強のソフトと5棋士の対局の方が楽しそうなんだが。

人間の能力の限界とソフトの能力の限界なら、ほぼ間違いなく人間の限界が先に来るので、あとはいつまで互角の状況でいられるか、である。


それにしても面白かったのは、米長永世棋聖が断固として角交換を避けたこと。捌きあって持ち駒を持った戦いになると、ソフトには勝ちにくくなるということなんだと思う。実は、これは僕が激指君とかと対局していても思うこと。どうしても読みぬけが多くなる。


ところで、表では公表されなかったけれど、こんな突撃取材を試みた新聞があった。素晴らしい。

米長、敗退…最強将棋ソフト「ボンクラーズ」に迫る

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