2012年02月18日

シェイム

shame


「セックス中毒」を描いた作品ではあるが、セックスを前面に出したプロモーションにはちょっと違和感がある。セックスの描写はあくまでも表層で、実際はニューヨークに住む孤独な人間の苦悩を描いた、悲しくて苦しい作品である。

主人公とその妹は、両極端で、かつ普通ではない暮らしを続けている。その暮らしぶりや、そうなってしまった背景が少しずつ語られていく。どれもこれも明示的ではなく、ぼんやりと語られていくので、わかりにくいところが多い。男性の僕が見ても「あれ?今のはどっち?」と思ってしまうような場面があるくらいだから、女性が見たらもっとわかりにくいだろう。「なんで、その状態で便座を丁寧に掃除するの?」みたいなところもあって、主人公が常識的ではない行動を取るので一層難解になる。加えて、途中では、それまでやっていなかった形で時間軸をいじり倒すものだから、脳みそが汗をかくこと請け合いである。

成人指定やむなしのシーン満載なのだが、内容は、と言えば、非常に精神的、かつ暗示的なものになっている。

映画を観終わってから、「あれって、こういうことだよね?」と会話するような映画であるにも関わらず、表層的には「セックス」が描かれているし、考えようによってはもっとずっと危ないことが隠されたテーマだったりもする(だから「シェイム」なのかも?)ので、「この映画、誰と観に行くの?誰と語るの?」ということになる。

例えば、職場の女性とのエピソード。単にダメだったとも考えられるし、いやいや、それにはきちんと理由があるでしょ、とも考えられる。このエピソードだけで、約100分の比較的短い映画の中でそこそこの時間を割いているのだから、制作者とすれば当然理由があるはずなのだが、そこまできちんと踏み込んで考える人がどの程度いるのか。

洋画の多くは全編通して音楽が鳴りっぱなしのものが少なくないけれど、この映画はBGMがない時間が多く、ちょっと邦画っぽい作りになっている。その上で、音楽の質が高い(もともとバッハ、好きなんだけど)ので、無音と有音のメリハリがあって、一層印象的だ。

他にも色々なチャレンジが窺えて、内容以外の、演出の部分でも見所が多いと思う。

いつも見事な字幕をつける松浦美奈さんだけど、今回は「クリームパイ」をそのままカタカナ表記にしたのだけがちょっと納得いかない。まぁ、大したことではないのだけれど(隠語の意味は『中出し』)。

色々と深読みすると、非常に悲しい映画だったけれど、希望の持てる終わり方も良かった。表現上の問題と、アカデミー賞にノミネートされなかったこともあり、日本では上映館も絞られて苦戦が予想される作品だけど、二度観ても楽しめる傑作だと思う。

なお、リリー・フランキーさん率いる「宣伝グリーンベレー」のメンバーとなったので、隊員としてネタバレ動画をアップすることになった。映画を観た人限定で、「そうなの?もう一回観なくちゃ!」と思うような情報を提供予定(もちろん、「そんなのあたりまえじゃん」と思う人もいるとは思います。

追記1
「総統閣下はお怒りです」の番組内で紹介しました。35分ぐらいから、映画について語っています。ほぼ、ネタバレなしです。



Video streaming by Ustream


追記2
ネタバレ有りです。閲覧注意で。



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