CHABUYAをご愛顧いただいた皆様へ お知らせとお詫び。
http://ameblo.jp/y-morizumi/entry-11232009985.html
ちょっと前から噂にはなっていたので、あぁ、本当だったんだ、という感じなのだが、それでもちょっとしたニュースである。ちゃぶ屋と言えば、比較的早い段階から「ニューウェーブ系のうまい店」として知られた名店で、「MIST」という野心的(?)な展開も図っていた。
ちゃぶ屋(移転前)の評価
http://www.netlaputa.ne.jp/~buu/Date/ti.html#anchor286114
ちゃぶ屋(移転後)の評価
http://www.netlaputa.ne.jp/~buu/Date/ti.html#010723
MISTの評価
http://blog.livedoor.jp/buu2/archives/50169585.html
個人的には森住さんの手腕自体はそれほど評価していなかったけれど、そのアクティビティについては興味深いと思っていた。そのちゃぶ屋が倒産した原因はどのあたりにあるのか。
ここ数年で、ラーメン業界は大きく変化してしまった。その最大の要因は、製麺技術の進歩だと思う。それによって、一義的には「マニュアル通りにやれば誰でもそこそこのラーメンが作れる」ようになった。おかげで、20年近くにわたって麺、スープ、チャーシューの3要素で評価し続けている「ブウ*式ラーメン評価」では、この1、2年、麺がC評価になるケースが激減しているのである。もともと、この5年ぐらいは「随分麺が良くなった」という印象があったのだけれど、最近はそれが特に顕著なのだ。
試しに、最近5年(と、今年の4月末まで)の麺の評価を書きだしてみるとこんな感じになる。
2012年
A10 B4 C1
2011年
A25 B17 C7
2010年
A19 B11 C12
2009年
A23 B16 C14
2008年
A25 B26 C11
2007年
A29 B20 C16

なお、僕の麺の評価はコシ、スープの絡み具合、かんすい臭などによって行なっている。全体的な傾向として、A評価が増えて、逆にC評価が減っていることが見て取れる。定性的な部分で特徴的(あくまでも僕の主観だが)なのは、「これは柔らかくて食感が悪い」と感じる麺が激減していることである。なぜそうなるかと言えば、太い麺が増えていることが大きいと思う。逆に言えば、麺を太くしておけば、素人店主でも大きな失敗はない、ということでもある。
さて、製麺技術の進歩についてはこれまでも何度か指摘してきているのだけれど、近年、これに加えて、スープの質も高くなった印象がある。一方で、独創的なスープは減ってしまい、この数年の流行は「動物系のこってりしたスープをベースにしつつ、カツオなどの和風だしを強めに効かせたもの」であると指摘できる。こうしたスープは武蔵(新宿)系列、大勝軒系列、渡辺樹庵氏プロデュース店など、いくつかの流派があるものの、全体として一つの大きな流れを作っている。その源流をたどれば、当時ラーメン食べ歩き界に大きな影響力を持っていた大崎裕史氏の「好み」に行き着くというのが兼ねてからの個人的見解なのだが、単に「日本人の好み」が「和風」にあったということかも知れない。僕は20年以上にわたって、「ラーメンを食べては評価する」ということを続けているのだけれど、今は、つけ麺とラーメンの両方を出しているお店、というだけで、大体の味は想像ができてしまう。これが大きく外れることは滅多にない。悪く言えば、マンネリ化しているのである。
こうした状況は、今のテレビ(家電)市場と似ている。どこも高品質で、備えている装備もほとんど一緒、価格も変わらない。こうなってくると、ラーメン店の勝負どころは価格、立地、そして独自性とならざるを得ない。しかし、価格面では幸楽苑や日高といった廉価店には太刀打ち出来ないから、あとは立地や独自性に走るしかないのだろう。「独自性」は間違いなくセールスポイントで、それはマスコミが求めるところでもあるから、ラーメンオタクの目に止まって、その延長でテレビに取り上げられることもあるだろう。しかし、マスコミに登場することによって一時的に客が増えることはあっても、それが定着することはない。
結局、最後の差別化のポイントは「立地」になる。先日、平日の昼間に新宿ピカデリーに行って驚いたのだが、物凄い混雑である。僕はピカデリーの画面も椅子もあまり好きではなく、これなら郊外の大泉やシネプレックスの方が良いと思うのだが、新宿の大混雑をよそに、郊外のシネコンは閑古鳥が鳴いているところも少なくない。両者で異なるのが「立地」である。
さて、「立地」という切り口でも、考え方は2つある。それは、「交通の便が良い場所」と、「地元に愛される」とである。映画館で言えば前者は新宿ピカデリーやバルト9で、後者は川越スカラ座などである。ラーメンも同じで、歌舞伎町やセンター街にあるだけで客が入る店もあれば、「こましょう」や「一本気」など、ラーメンオタクよりは地元の人に愛されている店もある。そして、ちゃぶ屋は多分、前者の系列だったんだと思う(特に移転後)。しかし、この系列は上に述べたように、製麺技術とスープのパターン化によって、過当競争状態になってきてしまった。その中で求められるのは「斬新なコンセプト」や「新味のある企画」である。それを打ち出すことができなかったということなのではないか。思い出してみても、ちゃぶ屋がMIST以外で何かニュースになった記憶がない。
ラーメンが高いレベルで(味の面でも)均質化しつつある現在、「地元で長く愛される店」はともかくとして、都心部でファンを獲得し続けることは非常に難しくなったのではないか。悪く言えば、「ラーメン屋使い捨ての時代」の到来ということである。かなり長いあいだ人気が維持できていた武蔵ですら、今はちょっと勢いが感じられない。
ツイッターの時代になって、ネタの消費スピードは格段にアップした。これからは、ラーメン屋も代謝スピードがアップしていくのかも知れない。