遺伝子組み換え食品に関する典型的な間違い
今日、こんなやりとりがあったんですが、非常にありがちな間違いなので取り上げて説明しておきます。
まず、「組み換え食品とはっきり表示した方が良い」という指摘ですが、イオンは法律のとおりに表示しているだけです。遺伝子組換え食品の表示内容は法律で規定されていて、勝手な表示は許されていません。「遺伝子組換え不分別」という表示は、加工品の場合は主原料ではない場合に省略が可能となっており、ほとんどのメーカーはこの「省略特例」を利用しています。イオンは
省略しても良い表記をわざわざ消費者のために行なっており、それを取り上げて「イオンは遺伝子組換え不分別でけしからん」と言うのは全くお門違いということになります。僕は別にイオンに対して特段の思い入れはありませんが、「正直者がバカを見る」という事態は避けないと、みんなが「隠しておこう」と考えるようになります。それは、遺伝子組換え食品忌避派にとって最も都合が悪い事態のはずです。
参考資料:
遺伝子組換え食品の表示(厚生労働省、PDF)
次に「生態系への影響が明確でない」という指摘ですが、これも間違いです。生態系に対してどの程度の影響が出るのかはきちんと判定されていて、大きな影響は及ぼさないことがわかっています。遺伝子組換え植物は基本的に農作物で、農作物はどれも一般の環境下では生態系を乱すほどに繁殖しないことがわかっています。特定の農薬に対して耐性があったとしても、それはあくまでもその農薬に対してであって、
現在栽培されている遺伝子組み換え農作物は、一般の自然環境下においては非遺伝子組換え農作物と同じように、繁殖することができません。いくら畑でトウモロコシやダイズを栽培しようとも、自然環境下でそれが雑草化しないのと同様、遺伝子組換え農作物も雑草化して生態系を乱すことはありません。
さらに人体への影響も厳密に検討されています。ときどき「次やその次の世代に影響が出るかも知れない」という意見を見かけますが、分子生物学上の知見からは、現在食用や飼料に供されている遺伝子組換え農作物についてはそんなことは起きないことがわかっています。むしろ、
一般の交配によって作られた農作物のほうが、きちんと安全性が検討されていない分、危険と言えます。
大国の巨大企業が農業を支配する、というのは現状を正しく認識しているとは思いますが、そういう状況をつくりだしてしまったのは日本人自身です。危険でないものに対して感情的に大声をあげて否定したせいで、当初参入していたメーカー達が次々と撤退してしまいました。今、遺伝子組換え農作物の市場が少数のメーカーに支配されているのは、そういう逆風に対してそれらのメーカーが踏ん張った結果に過ぎません。日本の研究が最も進んでいるイネだけでも、きちんと研究を進め、技術開発を進めるべきだと思います。
なお、遺伝子組み換え食品については、6月3日(日曜日)の朝9:30からBSフジで放送されるガリレオX「「遺伝子組み換え食品」神話 本当に危ないのか?」が参考になるはずです。番組の内容は僕が去年執筆した「遺伝子組み換え食品との付き合いかた」をほとんどそのまま踏襲していて、30分でとてもコンパクトにまとめられていると思います。
テレビを見て、もっときちんと勉強してみたいと思った方は、下記の書籍をお買い上げいただければと思います。
Posted by buu2 at 23:55│
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ものすごい恥ずかしい質問なんだと思いますが
>いくら畑でトウモロコシやダイズを栽培しようとも、自然環境下でそれが雑草化しない
ちょっと目から鱗でした。遺伝子組み換え云々は置いておいて、これは何故なのでしょうか?
あーそれと、「下記の書籍」がありませんけどw
> ちょっと目から鱗でした。遺伝子組み換え云々は置いておいて、これは何故なのでしょうか?
もともと物凄く特殊な環境下にのみ生育していたものを、目的とした農地で、手間隙かけて育てるように品種改良したものが農作物です。稲ひとつとっても、中国南部の山岳地帯の植物だったものを、低地の湿地帯で育てられるように改良してきています。その栽培に当たっては、種を撒き、苗を作り、田植えをし、肥料を与え、害虫を取り除き、水の量を調節し、雑草を取り除き、中干しをし、落水をしてようやく収穫まで辿り着きます。放置しておいてもどんどん育つセイタカアワダチソウとは違うのです。農作物はほとんど全てがこういう性格を持っています。それは、手間をかけることを前提として品種改良を重ねてきているからだと思います。
こうした点で、環境負荷という観点からは、ブラックバスなどの動物の外来種とは大きく異なります。
ときどき、こぼれ落ちた種から育ったナタネが見つかったりはしますが、こういった植物が生態系を大きく乱すほどに生育することはありません。あたり前のことですが、こうしたチェックを行政はきちんとやっています。
> あーそれと、「下記の書籍」がありませんけどw
あれ??Chrome、Firefoxあたりでは見えているのですが・・・。なんで見えないんだろう・・・。Amazonのリンクを設定してあります。「遺伝子組み換え食品との付き合いかた」という本です。
ありがとうございます。勉強になりました。
んー、やっぱりリンク見えないんですけど。
私の Linux + Chromium っていう環境のせいかな…
とりあえず本は探してみます。
科学的に安全性が証明されているものに対して、日本の消費者はどうしてそこまで疑ってかかるのでしょうね?
遺伝子組換えの表示義務自体にも悪質なものを感じます。
> 私の Linux + Chromium っていう環境のせいかな…
> とりあえず本は探してみます。
よろしくお願いいたします。
> 科学的に安全性が証明されているものに対して、日本の消費者はどうしてそこまで疑ってかかるのでしょうね?
科学的が全てではないので、拒否するのは別に構わないと思います。ただ、「俺は気分的に嫌なんだよ」なら良いのですが、似非科学を持ちだしてきて反論し、それを信用する人がたくさんいたりするので困るのです。もうちょっとちゃんと勉強して欲しいと思います。「エライ人にお任せ」というのならそれでも良いのですが、インチキ科学を信用するのではオウム真理教と一緒です。
ちなみにこんなのもいたりして。
http://togetter.com/li/236871
>>http://togetter.com/li/236871
...食品の話をしているのに、いつの間に、いや、自分の旗色が悪くなると原発の話になってる...
この人とは話をしたくないです。傍から見ている分にはいいけれども。現実に出会ったら全力でスルーすると思います。
>>似非科学を持ちだしてきて反論し、それを信用する人がたくさんいたりするので困るのです。
似非科学を騙る人、それを直接信じる人よりも、善意の第三者って立場の人たちが、一番タチが悪い気がします。
> >>似非科学を持ちだしてきて反論し、それを信用する人がたくさんいたりするので困るのです。
>
> 似非科学を騙る人、それを直接信じる人よりも、善意の第三者って立場の人たちが、一番タチが悪い気がします。
その通りなんですが、ほとんどの「まともな有識者」はそういうのが面倒くさくて、相手にしないんです。おかげでトンデモ情報にバイアスがかかって流れ続けてしまい、「遺伝子組換えって何か気持ちが悪い」という雰囲気だけが残ります。
こういう感じで、細々と抵抗するぐらいしかないんです。
http://togetter.com/li/259702
先日出版した「遺伝子組み換え食品との付き合いかた」みたいな本も爆発的に売れるわけでもなく、どうしたものかなぁ、と。
>先日出版した「遺伝子組み換え食品との付き合いかた」みたいな本も爆発的に売れるわけでもなく、
一冊購入しました。勉強させてもらいます。
>http://togetter.com/li/259702
真っ赤な言葉と黄色い言葉が、さも真実のように垂れ流されていますね。つぶやいている人たちの他のつぶやきも見てみましたが、それは、もう、突っ込み所満載です。確かにいちいち相手してられないですね。
> 一冊購入しました。勉強させてもらいます。
ありがとうございます(^^
> 確かにいちいち相手してられないですね。
なかなかねぇ(^^; 世の中は広い、と。