2012年06月06日

毎日新聞くらしナビ 「組み換え作物 実態見えず」

5月16日の毎日新聞くらしナビに「食品表示の裏側 一元化問題を考える<下> 組み換え作物 実態見えず」という記事が掲載された。<上>が電子化されているので<下>もそのうち、と思って待っていたのだけれど、一向にその気配が見えないので、忘れないうちに書いておくことにする。

この記事で書かれていることは1.日本は世界一の遺伝子組み換え作物の輸入国、2.輸入された作物は食用油、家畜の飼料、清涼飲料水の甘味料などに利用されている、3.組み換え作物の表示の種類、4.表示義務の仕組み、5.表示の実情、6.海外の事例、7.意図せざる混入に対する対応、8.表示義務を厳しくした場合のデメリット、9.メディアの責任、ぐらいで、拙著「遺伝子組み換え食品との付き合いかた」を要約したような内容なのだけれど、僕の本には載っていない部分もあるので、僕の考えを書いておく。

表示の厳格化
まず、表示を欧州並みに厳しくしたらどうか、という意見について。欧州は遺伝子組み換え作物を使用していれば、食用油、家畜の飼料を含め、すべての加工食品が表示義務の対象となっているらしい。これを日本でも適用すべきかどうか、ということだ。食用油の場合、例えばナタネ油などはほとんど全ての製品が遺伝子組み換えナタネから作られているが、日本では特に表示がない。なぜかといえば、ナタネ油を作る場合、遺伝子組み換えナタネは食べ物としてではなく、製造のためのツールとして利用されているからだ。例えばカレーを作る時、鍋で作る人もいれば、フライパンで作る人もいるだろう。だけど、できあがったカレーには、鍋とフライパンで大きな差はない。鍋が非遺伝子組み換えナタネで、フライパンが遺伝子組み換えナタネだと考えれば良い。実際、製造されたナタネ油をどれだけ分析しても、そのナタネ油が遺伝子組み換えナタネ由来なのか、そうでないのかは判別ができない。判別できないのであれば、虚偽の表示がされたとしてもそれを検査することもできない。となれば、表示そのものが意味がないのではないか、というのが我が国の考え方である。仮に「遺伝子組換えでない」と表示されたナタネ油が製品として市場に圧倒的優位性を持つのであれば、みんなが「遺伝子組換えでない」と表示するだろう。しかし、それを規制しようと思えば、原料の検査から始まって、様々なコストをかける必要が出てくる。そのコストは当然「遺伝子組換えでない」ナタネ油の価格に上乗せされることになる。僕としては、これは審査を請け負う(役人の天下り)機関が儲かるだけで、誰も幸福にならない気がする。表示の問題は混入率についても同様で、日本では5%までの混入が認められているが、欧州では0.9%までしか認められていない。ここも、どこまで厳密にするかは、結局「どこまで厳密に管理するか」であって、そのコストは製品に上乗せされる。

イオンのこと
次に、表示の実情についてである。この記事ではイオンの例を取り上げ、「イオンは国の表示制度が始まる前から自発的に表示している。「お客さまの知りたい気持ちに応えて始めた」と説明する。表示があっても売り上げに影響はないという。」と書いている。このことについては僕も思うところがある。ツイッターを見ていると、実に頻繁に「イオンのトップバリュは遺伝子組換えだから食べたくない」という書き込みがあるのだ。試しにちょっと検索して引用してみるとこんな感じだ。





















遺伝子組換え食品について言えば、イオンの姿勢は我が国で唯一とも言えるぐらいに消費者サイドに立っているものである。にも関わらず、中途半端な知識しか持っていない消費者たちが、誤った認識でイオンを不当に中傷している。まさに「正直者(=イオン)が馬鹿をみる」という状況になっているのである。こうした状況では、「イオンみたいになったら嫌だから、俺たちは隠しておこう」という企業ばかりになってしまう。実際、大塚製薬以外の清涼飲料水メーカーは、果糖ぶどう糖液糖の原料として遺伝子組換えとうもろこしを利用している可能性が非常に高いにも関わらず、そのことを製品に明記していない。問い合わせに対して組換えトウモロコシの利用を表明した会社(アサヒ飲料、キリンビバレッジ、サッポロ飲料、サントリー、ヤクルト)もあるけれど、コカ・コーラのように「情報公開を義務づけられた内容以上の質問には答えられない」と回答する会社もあるくらいだ。

清涼飲料水に「遺伝子組換え不分別」と記載しているのは、僕が知るかぎり、トップバリュの製品群だけである。僕は、先日のガリレオXの番組内でも言ったように、「遺伝子組換え食品を食べない権利」は確保されるべきだと思っているのだけれど、その権利が毀損してしまう理由は、実は消費者サイドにあるのだ。

非組み換えによる価格の高騰
食用油などの表示を義務付けると、メーカー間で非組み換え原料の争奪戦が起きて、製品の価格が高騰するのではないか、ということも書いてあったが、現時点でも、非組み換えの農作物を米国の農家にお金を上乗せして作ってもらっているのだから、もうすでに価格は高騰している。トウモロコシは通常の組換えトウモロコシに比較して約1.2〜1.5倍程度のコストがかかっているようだ。

米国視察レポートNO.2 「コーンベルトを行く」
http://www.life-bio.or.jp/topics/topics99.html

日本のトウモロコシの自給率は0%なので、今後さらなる価格のアップを提示されたとしても、日本は言いなりになるしかない。僕としては、組換えで全然構わないので、現在の7割ぐらいの価格でトウモロコシやコーンフレークを食べたいのだけれど、そうならないのが残念でならない。

消費者教育について
最後に、マスコミらしく、「企業や政府、マスコミが表示の意味とともに、遺伝子組み換え作物の原理や実態を正しく伝えることも大切だ」と書いてあったけれど、政府がそれをやるのは民業圧迫である(笑)。そういう書籍はもうすでに販売されているので、政府はこれを大量に買い取って高校生に教科書として配布すべきである。いや、冗談ですが。

参考書


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