2012年11月07日

「科学的には、コラーゲンは効かない」

コラーゲンが効くとか、馬鹿言ってんじゃないぞ、というキャンペーンを改めて展開中なんだけど、予想通りのツッコミがコメント欄に入った。

曰く、

サイエンスの世界では、「ない」ことを証明するのはとても難しい。コラーゲンを食べて、はだがぷりぷりになるわけは「ない」ということを、どうやって証明しますか?


本当に科学を知っている立場の人間は決して「ない」などと断言はしない。
効果があるかどうかわからないが、今のところ、効果があるというデータは発表されていない(科学者の支持を得られていない)。だから、科学者の現時点での合意としては、「効果はなさそうだ」という話。
教科書的に考えても高分子のコラーゲンがそのまま吸収されて肌に届くなんてことは考え難いが、教科書で全て片付けば世の中に科学はいらない。
教科書を否定し、更新していくのが科学であって、はじめから「ない」と否定しているだけでは何も進まない。


だそうで。こういう科学原理主義者(?)がいるから、資生堂や明治や富士フィルムやアサヒやロッテやグリコやハウス食品や森永製菓がインチキ商品を売り続けるのである。

「科学的である」とは、「絶対に正しい」ということではない。コメントの主も書いているように、「その時点でどうやら正しいようだ」と合意形成されているという意味だ。例えば野口英世の研究は、当時は国際的に評価されたけれど、今となってはその多くが間違いだと判明している。これらの間違い(=否定されている研究成果)は、当時の技術的限界に起因するもので、仕方のないことである。それらは、野口英世の時代には"科学的に"正しかった。

繰り返しだが、「科学的である」ということは、その時点で蓄積されているデータによって、科学者が合意しているということで、「必ず(=絶対に)正しい」という意味ではない。大体、「必ず正しい」ということが大前提で、「少しでも反例があれば断言できない」ということであれば、空を飛べる人間がいるかもしれないし、水中でも生存できる人間がいるかもしれないし、月の裏側には近代都市が存在しているかもしれないし、今これを書いている僕はすでに死んでいるのかも知れないのだ。もちろん実際にはそんなことはなくて、どれも科学的には否定できる。

コラーゲンについて言うなら、現在の科学的知見は

調べられる限りにおいて、ヒトにおける有効性については論文が見当たらない(「「健康食品」の安全性・有効性情報」(独立行政法人 国立健康・栄養研究所)の情報をもとに判断)


の一行で終了である。コラーゲンの有効性を主張したいのであれば、まずそれを支持するような実験結果を論文によって示し、他の科学者による追試と議論を経て、「どうやら有効性が認められるようだ」という合意を形成する必要がある。ところが、現状ではコラーゲンの有効性に関するまともな論文がひとつもないのだから、議論にすらならない。「まともな」とわざわざ但し書きを書いたのはもちろん意識的で、まともではない論文が何かの間違いでどこかに掲載されてしまうことはままある。論文は書かれただけでは意味がない。多くの科学者によって吟味され、認められて初めて価値が出る。ときどき新聞に「論文が掲載された」と書かれたりするが、これは必ずしも論文の正当性を担保するわけではない。

では、なぜ誰もがコラーゲンの有効性を主張するような実験をやらないのか。それは、これまでの科学的知見からは、容易に「どうせ有効性はないだろう」と推察が可能だからである。無駄な実験は誰でもやりたくない。

やや専門的になるが、地球上のほとんどの生物は、限られた種類のアミノ酸しか、たんぱく質合成の材料として利用できない。一般的には、20種類のアミノ酸だけで、しかもL型とD型の2種類が存在する同一アミノ酸の中でも、L型のアミノ酸しか利用できない。コラーゲンにはヒドロキシプロリンという特殊なアミノ酸が大量に含まれている(プロリンと合わせて約20%)けれど、これはコラーゲンを合成する際にはプロリンという形で導入されており、ポリペプチド鎖が形成された後に翻訳後修飾を受ける。なぜなら、ヒドロキシプロリンに対応するtRNAが存在せず、たんぱく質の合成系に直接ヒドロキシプロリンを導入できないからだ。では、ヒドロキシプロリンからプロリンを合成できるのか、ということになるのだが、僕が調べた範囲では、体内でヒドロキシプロリンから直接プロリンが合成される反応は見つかっていないようである。つまり、体内にヒドロキシプロリンを供給しようと思うなら、コラーゲンを材料とするよりはプロリンを直接補給した方がずっと効率的ということになる。この他にコラーゲンに特徴的に含まれているアミノ酸としてグリシン(約30%)、アラニン(約10%)をあげることができるが、プロリン、グリシン、アラニンはどれも必須アミノ酸はおろか、準必須アミノ酸ですらなく、通常の食生活を送っている限りにおいては不足するはずのないものである。

こうした知識が、「これまでに蓄積されている知見」であって、これをもとに、科学者は「コラーゲンなんか、食べても無駄だな」という結論にいたり、結果として、「無駄な実験は辞めておこう」と考えるのである。

もちろん、どこかの誰かが、「これまでの科学的知見には穴がある。改めて実験を重ねて、これまでの常識をひっくり返してやろう」と思うのは勝手だし、やりたければやれば良い。しかし、その実験をやってみて、「コラーゲンは肌をぷりぷりにするサプリとして有用」という結果が出て、それが論文となり、多くの科学者がその結果を支持し、「どうやら、コラーゲンは肌に良い影響を及ぼすようだ」という合意が形成されるまでは、「コラーゲン食って肌がぷりぷりになるわけねーだろ(笑)」というのが、科学的な結論なのである。1億人ぐらいが食べれば一人ぐらいは効果がある人間がいるかも知れない。しかし、その状況において「効果がない」と断言できなくてどうする。これができないというのなら、「効果がない」はもちろん、「効果がある」とも断言できないことになる。「科学的」であるということは、「絶対的な真理」と同値ではない。「科学的には」とはひとつの免罪符であり、その但し書きをつければ断言は可能であるというのが僕の考え方である。

つまり、「科学的には、コラーゲンは効かない」。

#こう書くと「科学的には」という言葉の信頼性が低く感じられるかも知れないが、この上を行くことができるのは「神」レベルである。

「絶対に効かないとは言えないでしょ?だから、コラーゲンを入れた商品を、さも効果があるように宣伝して販売するのもオッケーだよね」というのはただの詭弁なのである。「本当に科学を知っている人間」かどうかが問題なのではない。「科学」をどうやって産業にフィードバックするかを考えるときに、「科学」が抱えている弱点に付け込んだマーケティングを許すのか、許さないのか、ということだ。僕は、それを許しているからこそ科学が信頼されていないと考えているし、科学のステータスをアップさせるためにも、今のようなマーケティングを許容するべきではないと思っている。しかし、消費者庁はそういった対応をせず、こんにゃくゼリーなどのどうでも良いことへの対応に終始している。仕方なしに、自主的にキャンペーンを張っているのである。

#僕のスタンスからすれば、「コラーゲンを食べても、肌がぷりぷりになるという科学的データは存在しません」と注意書きがされるなら、コラーゲン入りの食品を売っても構わないと思っている。正確な知識をもとにした判断であれば、そこに第三者が口をはさむ必要はない。

冒頭で紹介したコメントの発言者がどういう属性の人間かは不明だが、「本当に科学を知っている人間」を自称しながら、実は科学をわかっていないのか、あるいはコラーゲン商品を扱っている当事者であろう、というのが僕の判断である。何しろ、僕は今でこそITベンチャーの社長だが、それ以前はずっと、国やそれに近い組織において、約15年間に渡ってバイオテクノロジーを推進する立場にいた人間である。どこの誰なのか、自分の素性や属性すらも表明できないような人間に、「あなたは本当の科学を知らない」と言われる筋合いではない。

#と、非常に丁寧に書いたけれど、本音はもっと毒入りで、かつ端的なので、興味がある人は「「コラーゲン食って肌がぷりぷりになるわけねーだろ(笑)」のまとめ(インチキ企業リスト付き)」というエントリーのコメント欄をどうぞ(笑)

##この手の奴の始末におえないところは、全部が全部間違いなのではなく、ほぼほぼ正しいのに、肝心なところでおかしい、ということである。正しい中に巧妙にインチキを忍ばせる点は、コラーゲン関連商品を販売している企業と全く同じである。

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この記事へのコメント
私の知人でゼラチンはコラ−ゲン豊富で肌に良いからと、毎日味噌汁に入れて摂取している人がいます。美容に関する認識は、感情的なものが多く、藁をもすがる気持ちで美肌になりたい人程、企業のインチキ謳い文句に踊らされやすいのかもしれません。
因みに、件の知人には、ゼラチンの効果は全く現われていないようです(笑)
この記事を見せてあげたいです。

Posted by あきこ at 2012年11月07日 14:44
わざわざ記事にしていただいてありがとう。

>では、なぜ誰もがコラーゲンの有効性を主張するような実験をやらないのか。それは、これまでの科学的知見からは、容易に「どうせ有効性はないだろう」と推察が可能だからである。無駄な実験は誰でもやりたくない。

実験の骨子自体は簡単である。
,靴辰りとnをとり、コラーゲン入り食べ物を食べる群とプラセボを食べる群にわけ、一定期間摂取を続ける。
∪歇莉了後、アンケートをとり、コラーゲン入り食べ物を食べた群の方がプラセボより優位に「肌がぷりぷりになった」と答えているかを確認する。
「相関関係と因果関係は異なる」可能性があるため、コラーゲンを食べるとなぜ肌がぷりぷりになるのか、仮説を立ててそのメカニズムを解明していく。
Posted by poteto at 2012年11月08日 00:13
では、なぜだれもやらないのか?

いわゆるアカデミックな研究者がこれをやらないのは、あなたがいうように、これまでの科学の世界で演繹的、帰納的に「コラーゲンを食べて肌がぷりぷりになるわけない」ということが正しい可能性が高いと考えられているから。
こんな研究をしても時間の無駄になるリスクは高いし、そもそも誰もお金を出してくれない。(まじめにやっている人がいる可能性ももちろんある)

では、コラーゲンを売りにしている企業がこの研究を行い結果を公表しないのはなぜか?負け戦が見えているから?自分は違うと思う。

理由の一つは、お客さまにとって最重要なのは、本当に肌がぷりぷりになることであり、科学的根拠はそれよりも優先順位が下がるから。
(もちろん科学的根拠があるに越したことはない。が、科学的根拠はあるけど肌はぷりぷりにならない、では意味がない)

もう一つは、この研究を企業が行い、公表することが、必ずしもその企業にとって利益につながるとは限らないから。企業が研究を行うのは企業の利益のためであり、必ずしも研究成果のすべてを社会に対して発表しなければならないというわけではない、というか、すべてを発表したら潰れてしまう場合すらある。

どのような研究を行い、どのような結果を社会に発表し、どのような結果をノウハウとして蓄積していくかの判断は、企業がこの先も生き延びていくための重要な戦略であり、「研究成果を発表すること」による利益が「研究成果を発表しない」ことによるそれを上回った時、初めて発表すると判断される。
Posted by poteto at 2012年11月08日 00:14
>コラーゲンにはヒドロキシプロリンという特殊なアミノ酸が大量に含まれている

例えば。

・摂取されたタンパク質は消化の過程でプロテアーゼによる分解を受け、アミノ酸やアミノ酸がいくつか繋がったポリペプチドに分解される。
・コラーゲンはヒドロキシプロリンという「特殊なアミノ酸」を大量に含むタンパク質である。
・コラーゲンを摂取した場合、コラーゲンもタンパク質であるため、プロテアーゼによる分解を受ける。
・分解された「特殊なアミノ酸」やそれからなるポリペプチドは体内に吸収され、血液に乗って体中の細胞に運ばれる。
・肌を構成する細胞にも消化吸収された「特殊なアミノ酸」やそれからなるポリペプチドが運ばれる。
・通常、肌を構成する細胞にコラーゲンの分解物である「特殊なアミノ酸」やそれからなるポリペプチドが蓄積されるのは、自身のコラーゲンが何らかの原因によって分解された時である。
・コラーゲン摂取により吸収された「特殊なアミノ酸」やそれからなるポリペプチドが肌を構成する細胞に蓄積されると、細胞は自身のコラーゲンが分解されたと勘違いし、コラーゲン産生に関与する遺伝子を活性化させる。
・その結果、肌を構成する細胞でコラーゲンが産生される。
Posted by poteto at 2012年11月08日 00:16
これは、現在の生化学の常識で考えても、大きな矛盾はない仮説。
少なくとも、高分子タンパクであるコラーゲンを摂取してもそのままは吸収されないから効果なし、とかいうストーリーよりは次元の高い話。

しかも、標識したコラーゲンを摂取させ、肌を構成する細胞にその分解物が届いているかを確認し、さらにその分解物がコラーゲン産生に関与する遺伝子の転写翻訳活性を高めるかを確かめるだけで、検証可能である。

少なくとも麻原彰晃が空を飛ぶことが真かどうかよりも簡単に研究できる内容であるにもかかわらず、客観的に真偽を検証する仮説を立てることもできないのは、常識にとらわれて思考が停止してしまっているから。

そんな科学者はいらない。
Posted by poteto at 2012年11月08日 00:19
> この記事を見せてあげたいです。

見せてあげてください(^^
Posted by buu* at 2012年11月08日 07:18
> わざわざ記事にしていただいてありがとう。

ここまで読みましたが、あとは面倒くさいので読みません。「関係者、必死だな」という感じですが、オナニーお疲れ様。
Posted by buu* at 2012年11月08日 07:20
消化不良のオナニーですが、めんどくさいのでもういいや。

まぁ、一生なんちゃってコメンテーターやってろ。
Posted by poteto at 2012年11月08日 08:06
> まぁ、一生なんちゃってコメンテーターやってろ。

はいはい。

お陰様で、Twitterで「コラーゲン」で検索すると、アフィリエイト関連のつぶやきの中にかなりの頻度で「コラーゲンは効かないよ」という文言を見つけることができるようになりました。この調子でインチキマーケティングを撲滅しようと思います。

では、さようなら。
Posted by buu* at 2012年11月08日 08:14
buuさん、ご無沙汰してます。
「うま・しか」の相手ご苦労様。
面白いヒトが湧いてきましたね。
現在の生化学の常識から導き出せる仮説という
最高の台詞にずっこけました。
Posted by どらごん at 2012年11月08日 10:42
> 現在の生化学の常識から導き出せる仮説という
> 最高の台詞にずっこけました。

あ、すいません、マジで読んでないんですよ(笑) キチガイの面倒を見ている余裕が、今、なくて(笑)。最近、こんな辺境のブログでも3,000/日ぐらいのアクセスがあるので、朝日新聞の馬鹿とか、色々湧いてくるんです(^^; 書くのは勝手なんですが、別に僕にそれを読む義務はないので(^^;、結構スルーしています。特に、長いのは。
Posted by buu* at 2012年11月08日 10:56
コラーゲンが意味ないことを証明するのって塩酸とペプシン、トリプシン、キモトリプシンなどによって分解された時点で完了するんじゃないでしょうか?
分解された時点でコラーゲンとしての吸収は否定され、アミノ酸なんて20種類(コドン対応)+αしかないんだし、ジペプチドやトリペプチドなどのオリゴペプチドとして吸収されたとしても肉食ってるのとなにも変わらないんじゃ…
Posted by ふぁーましすと(卵) at 2014年03月21日 00:54
> コラーゲンが意味ないことを証明するのって塩酸とペプシン、トリプシン、キモトリプシンなどによって分解された時点で完了するんじゃないでしょうか?

完了するはずなんですが、なぜか真面目に有効性を主張する研究者がいるんですよ。日本限定ですが(笑)。
Posted by buu* at 2014年03月23日 01:22