2013年03月27日

千年の愉楽

中上健次の代表作を映画化した作品だが、この映画を理解する上では最低限知っておかなくてはならないことがあって、しかし、この映画ではその説明は「常識」として説明されない。この映画は、その常識を知らないだけで、簡単にワンランク下になってしまう。ということで、まずは中上健次に関するトリビアである。中上健次は和歌山県の被差別部落の出身である。非常に複雑な家系に育っていて、彼が暮らした地域は「路地」と呼ばれる部落住民の居住地だった。また、彼の兄は首吊り自殺していて、彼の作品には首吊りが何度も出てくる。「路地」が部落を意味することを知らなければ、舞台がどこになっているのかもわからないし、彼の兄の自殺が彼の作品に大きな影響を及ぼしていることを知らなければ、この映画での首吊りの意味もわからなくなる。

さて、本作の内容である。海に面した斜面に立つ集落を舞台にした、3人の「中本の血」を受け継いだ男たちを描いた作品で、描かれる人数は原作よりも半減している。登場人物をとりあげた産婆を語り部として映画は進んでいくが、各話は濃淡がかなり激しく、加えて3人しか描かれていないので、「なんでこの産婆さんがこの人達を語るのか」というところが良くわからない。やはり、3人は少なすぎたと思う。彩度が低い、日本らしい海、山、空を背景にして、刹那的に生きる男と、それに絡む女たちを描いているのだろうけれど、話は単調で、乗り切れない。音楽も純和風で、ニッポンが好きな外人には受けるかもしれないのだけれど、日本人にはちょっと退屈な内容だと思う。

話としてはラストで「えーーーーー」みたいな展開になるのだが、その前のエピソードも含めやや唐突だ。また、導入も一気に画面に引き込まれるというよりは、置いてきぼりにされているような感じで、あれ?と思った。

高良健吾、高岡蒼甫、染谷将太という演技派男優たちがそれぞれに良い演技を見せているのだけれど、染谷はかなり扱いが軽くて気の毒である。あと、どうでも良いけど高岡蒼甫は実年齢不相応の若い男の役をやらされるなぁ、と思った。

正直にいうと、冒頭に書いたトリビアを含めても、この映画のどこに魅力があるのかちょっと理解ができなかった。複数の男たちとの関わりを通じて、語り部の産婆の人生が浮き彫りになってくるはずだったのに、取り上げる人数が少なくて、良く見えて来なかったということか。あるいは、見えて来なかったのは「中本の血」なのか。どちらにしろ、言葉足らずの印象が強く、せめて前後編ぐらいにして、もうちょっと丁寧にそれぞれの登場人物たちを描くべきだったのではないかと思う。あと、佐野史郎の遺影が喋り出すのはちょっと吹き出してしまうような演出だったと思う。ただ、この映画が中上作品を読むキッカケになるかも知れず、その点は評価できると思う。評価は☆半分。

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