2013年06月18日

残業まみれの組織を回ってきた僕が脱高残業体質への処方箋の一例を書いてみる

日経ビジネスにこんな記事が掲載された。

「人命よりも企業?!」 過労がなくならない日本の歪んだ価値観
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20130616/249728/

読めばわかるけれど、なんか、評論ばかりで実のない記事である。こういう記事は「ダメだなぁ、じゃぁ、できる範囲で僕が書いてあげるよ」というトリガー程度にしか貢献しない。これで誰も何も書かないとゴミ記事になってしまうので、ちょっとだけ書いて、記事の顔を立ててあげようと思う。

僕は残業が多い、いわゆるブラックを渡り歩いてきたのだが、「なぜ高残業なのか」はそれぞれの組織によって違った。それぞれ、僕が見てきた時代における状況を中心に分析し、残業体質の改善についてアイデアを出してみる。

三菱総合研究所(1992〜1998)
この会社の体質は「実績主義」である。受注が多い人間の意見は何でも通ったので、成績が良い社員が禁煙スペースである就業室内での喫煙を主張すれば、喫煙室が存在するにも関わらずその主張を突っぱねることができず、嫌煙者である僕に空気清浄機を買い与えるような会社だった。つまり、「俺は稼いでいるから喫煙しても良いんだ」と、ドヤ顔でそっくり返って喫煙することが許されるような会社だった(今はどうなのか不明)。そんな実績主義の会社だが、上長から強制的に長時間労働を迫られることはあまりなかった。むしろ、残業が増えたのは、クライアントからの要求によるところが大きかった。

日本ではこの会社の業務内容を知らない人が多いのだが、要は中央官僚や地方公務員の雑用係である。官僚が財務省に予算要求する際の資料を作成し、官僚がその資料を財務省の主計官に見せて「民間シンクタンクの調査によれば、こんな状況なんです」と説明する。あるいは、官僚が有識者会議の事務局を命じて、議事録作成や必要な資料の作成、日程調整、最終報告書の作成、および効果測定などをやらせたりする。こんなのが日本におけるシンクタンクの使い方である。肝心要の「シンク」の部分はキャリア官僚が担当する。シンクタンクと言いながら、実情は官僚の手足である。当然のことながら、発注者の意向通りの資料を作成するので、入り口と出口が決まっているブラックボックスの中身を創作するのが仕事だったりする。簡単にいえば、「各省の考えた施策はこれ」という入り口と、「2010年のバイオ市場規模は25兆円」という出口が決まっている時に、どういう理屈でバイオ市場が25兆円になるのかを考えるのである。だから、色々な有識者会議の末席にシンクタンクの研究員の名前が良くある。

さて、この会社がなぜ高残業なのかといえば、最大のものは「報告書に満点がない」ということである。作業は「より満点に近くなるように努力すること」になる。実質上のゴールがないので、最終的には顧客の「満足」ではなく、「妥協」を得ることが重要だ。つまり、「これだけやらせたのだから、そろそろ我慢してやろう」と思ってもらうことが大事なのである。多くの場合、発注者も高残業なので、電話したのに不在、などは非常にイメージが悪い。イメージが悪いと、リピートオーダーが取れなくなる。また、相手が官僚だと、突然「国会の質問が当たったので、至急対応して欲しい」といった電話がかかってきたりする。クライアントの要望に的確に応えるためには、いつも会社にいることが重要だ。

では、なぜこんなにまでして仕事を取らなくてはならないのか。それは、やりたい仕事をやるためである。やりたい仕事を確保できない場合、この会社ではやりたくない仕事の手伝いをやらされることになる。給料をもらっている以上、これは当たり前だ。三菱総研の場合、所員は小規模事業者的な色彩が濃く、できる奴は頑張れ、できない奴は手伝え、会社は知らん、という感じだった。

#僕は、この姿勢は良いと思っている。不幸にして僕の専門であるバイオは政策課題の表舞台に出てくることがなかったので、ほとんど何もできずに退職した。それまでに担当したことは、環境アセスのマニュアル作り、大深度地下駅におけるごみ処理システムの提案、空港の付帯設備の検討、水産業振興プラン、高速道路の割引制度設計、高速道路の補修技術の調査とまとめなどで、バイオ関連の仕事は一つもなかった。

そして、この会社が取ってくることができる仕事の「柱」は、中期的に変わってくる。1990年頃は防衛庁の仕事が花形だったし、そのあとは環境や住宅、そしてITと変わってきた。今はどのあたりが花形なのかわからないが、以前飛ぶ鳥を落とす勢いだった管理職が窓際に追いやられているとかの噂は頻繁に耳にする。社会情勢はコロコロ変わるけれど、自分の専門性は簡単に変わらない。とすれば、少しでも長く、役所にぶら下がって仕事を確保することが大事で、そのためにはクライアントのご機嫌取りが欠かせない。これが高残業体質の理由である。

では、どうしたらこの会社の高残業体質は改善できるのか。結局、問題は「専門に流行り廃りがある」ことで、こればっかりはどうしようもない。仕事内容に対策がないのだから、考えるべきは人事である。つまり、もっと人間の出入りを頻繁にすれば良いのである。仕事が増えてきたら人材を増やし、減ってきたらクビにする。こんなにも終身雇用が似合わない会社も珍しいのだ。30代前半でも1000万円以上の年俸を稼ぐ人材なら、すぐに次の仕事ぐらい見つからなくてどうする(もちろん、日本のような硬直した労働市場では、実際には難しかったりする(笑))。

#実際、総研を辞めて独立し、総研の外注先として頑張っている人も数名知っている。仕事があるときは発注できて、ないときは発注しなくて良いのだから、総研としてもありがたいはずである。

理化学研究所(1998〜2001)
この組織は三菱総研以上にクライアントがはっきりしてる。言うまでもなく、文科省である。完全に文科省の下請け組織、予算消化組織だが、この組織の面白いところは高残業と低残業の所員がくっきりとわかれていることである。高残業なのは企画担当者で、研究所の研究員の意向と文科省の意向をすり合わせ、一所懸命調整を続ける。特に予算の時期は大変で、文科省の担当補佐のオーダーにあわせて各種資料を作成している。ここで文科省に対して「今日は定時で帰りました。明日対応します」といった返答をしたらどうなるのかは非常に興味深いのだが、その影響は文科省にとどまらず、財務省や政治家にも及ぶ可能性があって、「どうなるか」は空論に過ぎない。このあたりを理研の人事部も良くわかっているので、そもそも「もう帰りました」などという事態になりそうな人間をこうした要職に配置することはない。

そうやってボロボロになるまで働く人材は、異動のたびに忙しい部署にまわされ、あっという間に出世する。このあたりの人事制度はそこそこ良くできていると思う。

理研の場合、こういった優秀な人材の他に役に立たない人材も山ほどいるのが特徴で、彼らは同僚が残業していると、お付き合いのように会社に残ってゲームをしていたりする。僕などは全く気にしないタイプなので「お先にー」と言って帰っていたのだが、「同僚が頑張っているので帰りにくい」という意識と、「でも、手伝う能力はないし、やることがない」という現実と、「とりあえず残っていたら残業代が貰える」という打算から導き出される結論がゲームだったようだ。

この組織の場合、意識の高い少数の人間に仕事が集中する仕組みになっている。平準化しようにも、意識が低い人間はそもそも能力が低いので、対応できない。じゃぁ、どんどんクビにして、新しい血を導入したらどうか、というのも正論ではあるけれど、所詮、主役は研究者だし、組織は文科省の予算消化が主業務で別に面白い仕事でもないし、優秀な人材はそうそう集まるものでもない。実際、天下り以外の、プロパーの所員で東大卒とか、全然いないんじゃないだろうか。

公務員の正しいあり方とは、それほど能力が高いわけでもなく、野望もなく、ただ性格はそこそこ良くて、普通に結婚してマイホームを築き、子どもを育てて幸せに生きて行きたいだけの人に仕事を与えることだと思っているので、ある意味、理想的な組織だと思う(ただ、給料はもうちょっと安くても良いと思うけれど(笑)。ノーリスクなんだし。あと、厳密にはここは公務員ではなく準公務員)。そういう理想的な組織を支えているのが、高い意識のもとに働き続けている少数の優秀な人材、というのが実情だった。

この組織の一部の人材の高残業体質を改善することは、組織の存亡に関わるので、非常に難しい。おそらく、唯一の解決策は企画担当者の給与をアップすることである。これによって、有能な人材を少しでも増やす。今は優秀な人間が少ないのが最大の問題点であって、でも、給料は安い、仕事はつまらない、周囲には役に立たない給料泥棒が溢れている、では優秀な人間は見向きもしないだろう。同時に、能力が低い所員の給料は下げる必要がある。安定して給料がもらえるだけでもありがたい話なのだ。

経済産業省(2001〜2003)
この組織は前述の2組織と比較して、人材の能力という点では頭ひとつ(いや、ふたつ)抜けていて、とにかく優秀な人間が多かった。中にはこれまでの一生で見たことがないほどに優秀な人材もいた。

ここでは役割分担がはっきりしていて、各人が求められている能力を提供していた。残業の理由は主として政治家対応と財務省対応があって、根が深いのは政治家対応の方だった。「政治主導」と言えば聞こえは良いけれど、実際には政治家の能力はほとんどのケースで官僚よりも下(それも、はるかに)なので、放っておくととんでもない方へ行ってしまう。問題は先送りすればするほど悪影響が大きくなるので、なるべく早いうちに修正しておく必要がある。つまり、将来の泥沼を避けるために、今の残業があるのである。特に筋が悪いのが議員立法で、法律の初心者が法律を作ろうとするのだからうまくいくわけがない。官僚の仕事を増やすのは、多くの場合で政治家である。政治家が「役所とは敵対するのではなく、使いこなさなくてはならない」と言っているのを耳にすることがあるがとんでもない。使いこなされているのは政治家の方である。能力が低い側が、能力の高い側を使いこなせるわけがない。もし本気で使いこなそうと思うなら、相当真剣に勉強し直す必要があるだろう。

この組織の面白いところはそこそこに勢力争いがあることで、一つの課の中でも「◯◯派と☓☓派の対立」などが存在する。課長が敵対している派だったりすると、部下の課長補佐は全く動かなくなったり、指示を無視して勝手に動いたりする。こういう事態になっても、誰かが仕事をしなくてはならず、結果として課長派の補佐と、派閥争いとは無関係に処理能力を発揮するノンキャリがとばっちりを食うことになる。彼らは彼らで意識が非常に高いので、文句をいう事もあまりなく、黙々と仕事を続ける。こうして、役所はより一層高残業体質になっていく。

中央官庁の残業体質の改善は非常に簡単で、1つ目に国会待機をなくすこと、2つ目に財務省待機をなくすことである。さらに理想を追求するなら、政治家には出馬前に資格試験を受験させ、一定の知性と知識を持ち合わせていない人の議員立法は禁止する、といった手段もありうるだろう。とにかく、この国の政治家の能力は低すぎる。では、政治家の能力をアップさせる近道は何か。僕は政党が自分のシンクタンクを作って、所員として中央官庁の課長や課長補佐を引き抜くのが近道だと思っている。もちろん、彼らは有期雇用だ。

まとめ
理研はともかく、三菱総研と経産省はエリート組織なんだから、そろそろ有期雇用に切り替えて、人材の流動化を図るべきだろう。

三菱総研ははっきり言えば「辞めることができない人」ばかりが残っている会社なので、将来性が感じられない。本当なら、むしろステップアップとして利用されるべき会社である。そもそも、この会社には人材を育成する能力などこれっぽっちもないのである。この会社で優秀な社員は、最初から優秀なのだ。

経産省も、もっと外部人材を取り入れたら良いと思う。僕は任期付きで転職したけれど、入省してすぐの段階でたった一人で外部の委員会に出席させられて、意見を言わされてびっくりしたことを覚えている。何にびっくりしたかって、好き勝手に自分の意見を言って良かったからだ。喋った内容は議事録に残るけれど、事前にストップがかかることはなかった。こうした体質は素晴らしいと思うし、より多くの人が経験すべきだと思う。日本では、役所の内部のことなど何も知らないくせに、新聞やテレビのコメンテーターの無責任な発言をそのままに「だから官僚は」と発言する奴が多すぎる。何か気の利いたことを言いたいなら、まずは2年ぐらい、現場でやってみろ、と思う。でも、今はまだその機会が十分に与えられていない。役所への理解を深める意味も含め、さらに人材交流を深めるべきだろう。それも、企業からの出向という形ではなく、有期雇用で、である。

僕は、全部の人間を有期雇用にしろ、とは考えていない。できる人は有期、できない人は無期、そのかわり、有期雇用は相対的に高給で処遇、ということから始めて、徐々に有期の割合を増やしていけば良いと考えている。少なくとも、東大を出ているぐらいの人材なら、有期雇用で良いでしょ、と思うのだが。

おまけ
冒頭の記事では、人命と企業を天秤にかけている。どちらが大事かって、それは人命だろう。しかし、人を大事にしていたら、企業そのものが潰れかねないという現実もある。企業と労働者の闘争を見ていると、労働者が「会社は潰れない」という前提に立っている気がしてくるのだ。会社の役割は雇用を創出することで、そこに「絶対的安定」までを求めてしまえば、会社そのものがなくなってしまう可能性もある。山一證券、カネボウ、サンヨー・・・と、色々な事例を見てきているのだから、そろそろ会社は潰れるもの、という現実を直視すべきだ。労働者は、もう少し会社から距離をおくべきで、それができないからこそ、会社はブラック化するのである。