2013年10月03日

「小人閑居して不善をなす」の事例

日本の制度の中で珍しくまともなのが大学受験制度だと思うのだけれど、偉い人たちはそれをわざわざ改悪するみたいだ。

<大学入試改革>新共通テスト創設 段階別「点数グループ」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131003-00000006-mai-life

大学入試の新テストは、現行のセンター試験をベースに、「知識偏重」にならないよう、結果は段階別に大まかに示す。受験生は複数回受けることができるようにする。各大学はテスト結果から、受験生が教育についていける学力があるかどうかを判断する。その上で面接、論文、社会活動の成果などを評価し、各大学の理念に合った学生を選抜する仕組みだ。


僕は入試に関与したことがないので、入社試験をベースに書くけれど、人を評価するのに一番確実なのは、とりあえず雇って、使ってみることである。大量採用して、短期間で大量にクビにするブラック企業のことを先週の「朝まで生テレビ」で耳にしたけれど、これが可能なら、有能な人材を確保できる確度が一番高い。次に確度が高いのが出身大学で選ぶこと。確実じゃないけれど、東大、京大あたりを出ていれば、使える人間である確率が高い。ただし、フィルターとして利用できるのは、これに加えてせいぜい旧帝大と一橋、東工大ぐらい。私立大学は全く参考にならない。採用にあたって履歴書を取らない会社の社長がなぜこんなことを言えるかといえば、今、うちの会社に残っている人材は全てこのカテゴリだからだ。次に利用できそうなのが「コネ」で、紹介者がまともなら、紹介された人間もまともである可能性が高い。ただ、コネを使う人間に一級品がいた試しはないので、当たりではないけれど、はずれもない、ぐらいの期待値になる。そして、一番あてにならないのが面接である。そもそも、面接ぐらいで人間を選べるわけがない。

ここまで書いたことは会社の入社試験の話だけれど、大学だって、それほどかわりはないはずだ。にも関わらず、「面接、論文、社会活動の成果などを評価し、各大学の理念に合った学生を選抜する」というのだから恐れ入る。そもそも、「各大学の理念に合った学生を選抜する」というのなら、まず「うちの大学の理念はこれこれしかじか」と明記できる必要があるのだが、そんなことが可能な大学がいくつあるというのだ。地域的なことと、構成学部を除いたら、他大学との差別化は困難を極めるのではないか。例えば島根大学と鳥取大学にどれだけの差異を生むことができるのだろう?ちょっと両大学の理念のようなものをウェブサイトから引用してみる。

島根大学
島根大学は、大学憲章に「知と文化の拠点として培った伝統と精神を重んじ、『地域に根ざし、地域社会から世界に発信する個性輝く大学』を目指すとともに、学生・教職員の協同のもと、学生が育ち、学生とともに育つ大学づくりを推進する。」と謳っています。この理念をより端的に表す言葉として、「人とともに 地域とともに 島根大学」を定め、全構成員がこの精神を等しく共有してその実現に向けて取り組んでいます。


鳥取大学
鳥取大学は,「知と実践の融合」を教育研究の理念に掲げ,次の目標を達成するため,広く知識を授けるとともに,深く専門の学芸を教授研究し,知的,道徳的及び応用的能力を発展させ,もって平和的な国家及び豊かな社会の形成に資する有為な人材の育成と学術文化の進展に貢献するものとする。
1 社会の中核となり得る教養豊かな人材の育成
2 地球的,人類的及び社会的課題解決への先端的研究
3 地域社会の産業と文化等への寄与


島根大学の理念から地域の概念を除いたら何も残らない。鳥取大学は「社会の中核となり得る」人材を育成するようだが、鳥取大学の卒業者を調べてみても全く知らない人ばかりだ。

鳥取大学の人物一覧

鳥取大学が地球的、人類的及び社会的課題解決に向けた論文で世界的に高く評価されたという話も僕はまだ聞いたことがないし、3つ目は地域ネタである。

結局「僕は生まれも育ちも島根です。島根に貢献したいので、島根大学に入学したいです」という学生ぐらいしか評価することができないはずだ。別に島根大学や鳥取大学をディスりたいのではない。今の日本においては、大学は、地域、国公立・私立(費用)、学部、偏差値ぐらいしか、選ぶ要因がないのである。僕が東工大に行ったのだって、僕が理系で、家から一番近くにある国立大学で、かつ現役でも合格しそうな難易度だったからだ。

大学が面接や論文で学生を選ぶというのなら、まずは大学の側が大学の個性をきちんと打ち出せ、ということであって、それができないなら、こんな選抜方法はそもそも成立しない。

「学校の勉強についていけるか」などといういい加減な尺度を持ち出すなら、一度東大を卒業したことがある人間なら、大抵の大学は無試験で再入学できることになる。

今の大学入試制度のどこが悪いのか、正直なところ良くわからない。強いて言えば、一発勝負という問題はあるけれど、スポーツ選手の選抜にも通じるところで、一発勝負が一番わかり易い。むしろ、柔道連盟がやったような「過去の実績を勘案して」などという方が不透明感が強い。とはいえ、この点で譲るのは構わない。それなら試験の回数を増やせば良いだけのことである。

むしろ、問題があるとすれば東大・京大を頂点とした大学のヒエラルキーそのものであって、やるならそこに手を付けろよ、と思う。それができないからって、そこそこ機能している大学受験制度をいじるというのは、「小人閑居して不善をなす」という奴だ。

#大学入学のハードルを下げて、卒業を難しくするという、「とりあえず入れちゃう」という作戦が一番確実な大学入試改革ではある。でも、それは嫌なんでしょ?あと、偉い人たちは、大学のヒエラルキーは維持したいんだよね(笑)?予算をつけるのが楽だもんね(笑)。

本質的な問題を棚上げしておいて、小手先の改悪案を練る。小人の暇つぶしにはうってつけである。


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