2013年12月05日

シス・カンパニー公演 日本文学シアターVol.1【太宰治】グッドバイ

シアタートラムで上演中の「グッドバイ」を観てきた。

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遊眠社時代から大好きだった段田安則さんと、女優としては二階堂ふみさんと並んで注目している蒼井優さんが出ているというのが大きな理由である。

段田さんの舞台は実はすっかりご無沙汰で、2008年にケラ演出で上演された「どん底」が最後だった。この芝居でも、あるいはそれ以前の「贋作・罪と罰」や「赤鬼」でも、安定したうまさだった。遊眠社時代に僕が好きだった役者さんは段田さんの他に佐戸井けん太さんと向井薫さんがいるのだが、彼らに共通するのは良く通る声である。前回の観劇から5年も経ってしまい、段田さんの声は大丈夫かな、と心配していたのだけれど、冒頭のシーンですぐにそれが杞憂だったとわかった。当たり前のようにちょっと年齢を積み重ねてはいたけれど、細かい演技には深みが増していた。

もう一つの楽しみだったのが蒼井優さんである。「南へ」などで何度か観ている彼女は、なかなか声が遠くに届かない。芸術劇場の中ホールぐらいだと、彼女には大きすぎる印象だった。映画では非常に良い演技を見せているので、かつて深津絵里さんが「農業少女」で素晴らしい演技を見せたシアタートラムで、彼女の良さを表現してくれるのではないかと期待していたのである。そして、その期待に、蒼井さんもきちんと応えてくれた。彼女には、シアタートラムぐらいの大きさがしっくりくると思う。まだ、大きな舞台でやるには声に肉体的なサポートが足りないんだと思う。それは体型面からも、年齢面からも、で、もっと体に厚みが出て、声がもうちょっと低くならないと、射程距離が伸びないのではないだろうか。大きな舞台で無理をするよりも、ある程度余裕のある舞台で、持ち前の演技力を発揮したほうが良いと思う。今回の芝居では、彼女の魅力はきちんと表現されていた。

他の役者さん達も、良い味を出していた。高橋克実さんは実は離風霊船時代から見ているのだけれど、当時は神野美紀さんを見に行っていて、気がついたらトリビアに出ていた。昔はモスラだったけれど、今はハゲをネタにできる貴重な役者さんになったようだ(笑)。

芝居の内容は太宰治の絶筆「グッドバイ」をなぞったものになっているけれど、小説は未完で、設定段階で中断している。芝居では主人公の年齢設定などがだいぶアレンジされていて、原作では34歳の雑誌編集長だったのだが、今回の芝居では50代半ばの大学教授になっている。「たくさんの愛人を囲っているのだが、事情があってその愛人たちを一掃したいと思い、すごい美人を見つけてきて、彼女を連れて愛人のところをひとりひとり歴訪してまわるという一計を案じる」という、おおまかな部分は下敷きにしているけれど、そこで見つけてきた美人と主人公の関わり方は原作とは大分違っている。しかし、それがつまらないかといえば、そんなこともない。上手に現代劇として料理されていて、最後まで飽きさせない。

チラシでは山崎ハコの名前があって、谷山浩子、中島みゆきとセットで語られることが多かったシンガーソングライターがどんな役なのかと思っていたのだが、きちんとそれらしい役になっていた。

芝居は、このくらいの大きさの劇場で、のんびり観るのが楽しい。一時はバブルもあって大きな劇場にテレビで有名な俳優を呼んできてのプロデュース公演が花盛りという時代もあったけれど、価値観が多様化して、ビデオやCDなどの複製コンテンツの価値が暴落したおかげで、音楽も芝居も、ライブの良さが再認識されてきつつあると思う。おかげで、こういう贅沢な時間を過ごせるようになった。これで6,000円なら、十分に満足である。それにしても、シアタートラムは良い芝居をやると思う。

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