2014年01月26日

小さいおうち

(多分)巨匠、山田洋次監督が描く実に凡庸なドラマ。

宣伝で書かれていた「秘められた意外な真実」とは何なのかに思いを巡らせて、こんな結末だろうか、それともあんな結末だろうか、と期待していたら、何もなかった。というか、全部ストレートに描かれてしまっているので、意外性など皆無である。良くもまぁこんなくだらないストーリーにお金をかけて映画化したなぁ、と感心してしまう。

以下、若干のネタバレを含むけれど、朝日新聞の映画評でもバラされていたことなので書いてしまう。ネタバレが嫌な人はさようなら。




時子(松たか子)と正治(吉岡秀隆)の間にもっと意外なことがあるのだろう、とか、タキ(黒木華)は実は大きな勘違いをしているのだろう、とか、ラストのどんでん返しに期待していた僕が馬鹿だった。帯の一件とか、そんな幼稚でわかりやすいことがあるか、馬鹿、という感じだし、それをラストで種明かしするならまだしも、進行形で登場人物に語らせるとは。「どうせ観客は馬鹿だから、ちゃんとわかりやすく説明してやらなくちゃ」という配慮なのかも知れないが、これでは小説でいうところの「行間を読む」という作業が全くなくなってしまう。「次はどこそこの村に行け」「その次は城に行って王様に話を聞け」と、一々事細かに次にやることを指示してくれるロールプレイングゲームのようで、こういう映画を、『つまらない映画』という。

役者陣はなかなか豪華である。主演は格の違いからなのか、なぜか松たか子ということになっているけれど、実質的には黒木華。去年から映画とドラマに大活躍している和風顔の若手女優がこの映画でもきちんとした演技をみせている。それに食われてしまった感が若干あるものの、松たか子も無難な演技である。「北の国から」の純と蛍の共演も楽しみの一つだし、木村文乃や夏川結衣といった綺麗どころをちょい役で使っているところもなかかな豪勢である。しかし、それもこれも、稚拙な脚本で台無しである。皮肉にも、劇中で大伯母のタキが「頭は良いけれど想像力が貧困な若者」を批判しているけれど、映画の制作サイドは観客のことを同様に想像力が貧困だと思っているのだろう。

したがって、映画を見終わっても、余韻のひとつもない。これが、「ねぇねぇ、気が付いた?帯がさ・・・」とでも話し合えるなら、「ええっ!そうだったの?」とか、「もう一回観てみよう」という気にもなるのだが、そんな部分は何一つない。

日本が置かれている国際的立場の変化を、登場する社長たちの会話を通じて表現している点も同様だ。あまりにも説明的なセリフばかりで辟易とする。セリフで説明するならもっと遠回しにすべきだし、セリフではなく映像で観客に感じさせるのが映画人の役目ではないのか。

想像力が貧困な若者ではなく、136分という長い上映時間の途中にトイレを我慢できなくなるようなお年寄りのために、必要以上に説明的に作ったのかも知れない。そういえば、一桁しかいない観客だったのに、二人も途中でトイレに立ったようだ。しかし、普通の映画ファンには全く楽しめない内容なので、一年後ぐらいに早送りできる環境でざーーーっと観てしまえば良いと思う。

#このレビューを読んで、「うわっ!ネタバレだ!」と思うかも知れないが、天下の朝日新聞ですら「旦那様の部下の青年と奥様のただならぬ仲を、タキが察知するのも奥様の帯から。まだ姦通(かんつう)罪は存在し、勝つはずの戦争は泥沼状態へ」と映画評に書いているのだから安心、安心。

評価は☆ゼロ。年始早々から「この映画はいったい誰が観に行くんだ!?大賞」の候補作の登場である。

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