2014年03月26日

上村愛子の引退にあたり

愛子が引退とのこと。

上村愛子 引退「メダルは獲れなかったけど未練はない」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140326-00000099-spnannex-spo

何かというと金科玉条のように「五輪のメダル」を引っ張り出してくる日本のマスコミなので、引退に際してもこんなタイトルの記事になってしまうところが情けない。

スキーとは、自然の中で戦うスポーツである。そして、ひとつ滑走順が変わっただけで大きく状況が異なるものになったりもする。アルペンスキーであれば、自分の前にコース整備が入るだけでも順位が上がったり下がったりするし(整備する人間の技量が低いと、間違いなく下がる)、ジャンプであれば風向きひとつで飛距離が変わってしまう。そのコンディションの差異を解消しようと、ジャンプ競技などでは補正が試みられているし、アルペンでは出走順で便宜を図っているけれど、多くの競技では抜本的な対策は講じられていない。ほとんど全ての選手が「自然相手だから仕方ない」と諦めている。スキーとは、そういうものなのだ。一般スキーヤーだって、遊びに行ったら大雪で酷い目に遭ったということがあっても、当然のように「仕方がない」と諦めるはずだ。そういう性質を持つスキー競技においては、選手の実績は一発勝負の五輪や世界選手権よりも通年で戦うワールドカップの総合成績で見るのが普通だ。愛子で言えば、2007〜2008のワールドカップ年間王者になったことが最大の実績である。愛子が活躍したのは、女子モーグルで言えばジェニファー・ハイルからハンナ・カーニーへと主役が交代していった時代で、この10年間、この二人以外でワールドカップ総合優勝したのは愛子だけである。圧巻だったのはこのシーズン後半で、ワールドカップ5連勝という快挙で締めくくり、総合優勝に華を添えた。愛子自身には「五輪」へのこだわりはあるだろうが、僕たちが彼女を語るとき、一番に言及すべきはこの快挙だと思う。

#スキーのワールドカップで年間王者になったのは、ノルディック複合の荻原健司(1992-1993、1993-1994、1994-1995)、クロスの瀧澤(2002−2003)、ジャンプの高梨(2012−2013、2013−2014)と、モーグルの上村(2007-2008)だけである。

この10年ぐらい、白馬界隈で仕事をすることが多いので、白馬村の人たちと話す機会も多いのだが、彼らは当初、愛子について「なかなか村のイベントに顔を出してくれない」と嘆いていた。彼らにとっては渡部暁斗などと並んで村が生んだスター選手なので白馬村を盛り上げていくために一役買って欲しいという思いもあったのだろうが、同時に、白馬高校時代にいじめがあって、愛子のアルペン引退を引き起こしたという引け目もあり、愛子について語るときはどうしても奥歯にものが挟まっているような言葉になりがちだった。

#愛子に対するいじめについては多くの人が語りたがらないけれど、同じような不幸を生まないためにも、語るべきところは語り、反省すべきは反省し、今後に活かしていくべきだと思う。

それが変わってきたのはこの数年で、秋に行われるトレイルランというイベントのスタート係になったりと、オフのイベントには時々顔を出すようになった。
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(2012.9.19撮影)

愛子の中でどういう心境の変化があったのかは分からないが、愛子と白馬村の関係はようやく雪解けの方向に向かったようで、愛子の両親を含めた飲み会などでも、愛子について語る村のスキー関係者の表情は、年々明るいものになってきていた。

愛子がモーグルを始めたのは、ウィスラーのブラッコムで開催されたモーグル大会を観戦して感銘を受けたのがきっかけである。先週、このブラッコムで滑る機会があったのだが、起伏に富んだコースで、ハーフパイプやクロスのコースなども良く整備されており、景色も含めて素晴らしい環境だった。しかし、同時に、「これなら、八方だってそれほど負けてはいないよな」と思ったのも確かである。もちろん、八方にはまだ本格的なパイプやクロスのコースはないけれど、スキー場の経営会社の会長は、大学スキー部時代に一緒にタイムを競い、今回のウィスラー訪問にあたってはバンクーバーの市内を案内してくれた人間である。広大なゲレンデのどこかに、本格的なフリースタイルスキーを楽しめるコースを設置できるかも知れない。

白馬村のオリンピアンを含めた重鎮たち、現役選手たち、スキー場関係者、そして愛子によって、「白馬で感銘を受けたのがきっかけ」と語るスキー選手を生み出して欲しい。選手としては引退だが、これからも、愛子の活躍に期待したい。

あ、でも、まだラストランが残っている。

-(上村愛子 オフィシャルブログ)
http://blog.excite.co.jp/aikouemura/20506708/

2014/3/28 追記
そして、優勝。お見事。

上村愛子、地元でラストレース飾る「凄く幸せだなと思う」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140327-00000110-spnannex-spo

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