2014年07月03日

壽々屋

以前から存在は知っていたのだが、価格帯から「多分、それほど高いクオリティではないだろう」と判断していたところ、ラーメン業界において数少ない「味のわかる人間」であるラーメン・プロデューサー渡辺樹庵氏がTwitterで褒めているのを見かけて食べに行ってきた。

創業昭和31年の老舗で、現在は二代目とのことだが、店内は清潔そのもの。頭上に荷物入れがあるあたりに工夫が見られるのだが、油料理の店で高いところに収納を設置すると日頃のメインテナンスが大変そうで、それでもなおかつこういったインフラを整備しているところにただものではない気配を感じる。

メニューはロースのみプレミアムが用意されていて、ヒレにはない。ちょっと残念だったが、いつもどおりひれかつ定食(1,760円、税別)を注文した。座席がカウンターではなかったので、横目で調理を窺う感じだったのだが、7、8分かけてしっかり揚げている。鍋は一つなので、温度の異なる油で二度揚げしているわけではないようだ。この調理時間だと油の温度が高いはずはなく、低温で揚げているはずだ。ところが、できあがりはかなり濃い目の色にこんがり揚がっている。ちょっと不思議な感じだが、油の量を標準よりも少なめにして、かつを投入することによって油の温度を下げ、その後の火加減で徐々に油の温度を上げているのかも知れない。普通は油の量をたっぷりにして、温度の変化を極力抑えようとするものなので、もしこういった方法を取っているのならかなり珍しい。この方法のデメリットは、一度調理を始めたら、途中で肉の追加ができないことである。そんな比効率なやり方があるのか興味深い。カウンターであればじっくり観察できたのだが、ちょっと残念である。油から引き上げて多少休ませ、肉に熱が行き渡ったところで盛りつけ完了である。




外観から判断すると、まず、肉と衣の一体感がない。かなり濃い目の焦げ茶色の衣で、パン粉は細か目で厚さは薄めである。ちょっと揚げ過ぎなのでは?というのが第一印象である。

さて、一口、素のままでいただいてみた。揚げ過ぎかと心配になったのだが、衣から苦味が出るほどではない。衣にはちょっと油が残っていて、パリッとか、ふわふわといった食感は楽しめない。肉のジューシーさはそれほどでもない。これは揚げ時間が長いからかも知れない。肉には下味がそこそこついているのだが、名店の肉に比較すれば肉そのものの旨味が足りないので、塩かソースは必須だろう。今回は主に塩で食べた。

手切りと思われるキャベツはなかなかだったが、ご飯は、22時ぐらいの訪問だったこともあってか、やや硬めで古い感じだった。ここは開店直後に訪問していないので仕方のないところだろう。豚汁は豚肉から滲みでた脂が味をボケさせていて、ダシよりもトッピングされたネギの味が前面にでてしまっていた。







同行者が上ロースを注文したので一切れ食べさせてもらったのだが、ヒレよりは上ロースの方が高品質だったと思う。




技術的にはとても面白いものがあり、また老舗らしく、接客にそつがない。カウンター越しにお客さんとコミュニケーションを取る店主の才覚も素晴らしく、店の完成度は高い。ただ、1,760円ということもあって、肉の質は最上級とは言えない。このあたりは拙著「とんかつ名店絨毯爆撃」に詳しく書いたが、高度に産業動物化された豚を使っている以上、仕方のないところだろう。コストパフォーマンス的には非常に優れているけれど、「特撰」に選出できるほどではなかった。

店名 寿々屋 (すずや)
TEL 03-3982-1681
住所 東京都豊島区西池袋1-38-3
営業時間 17:00〜23:00
定休日 月曜日



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