先月ぐらいから「機能性表示食品」 などというものが市場に出始めました。そのせいもあってか、ここ数日で「どれを食べたら良いの?」という話を何度か耳にしたので、昔、経産省時代にトクホの勉強をしていた立場から申し上げたいと思います。
まず、健康な食生活とは、多種多様な食材によるバランスの取れた食事と世界中の保健機関の見解は一致しています。日本、オーストラリア、カナダ、英国、米国などを調べましたが、バランスの良い食生活を推奨していない国は一つもありません。「バランス良く食べる」というのは大原則です。
次に、身体にとっての有効成分についてです。例えば食塩は身体に必須ですが、摂り過ぎても害になることが知られています。少なすぎても、多すぎてもダメで、適切な量を継続して摂取することが大切です。これは食塩に限らず、ほとんど全ての物質で言えることです。では、実際に高血圧とか、高尿酸とか、高中性脂肪とか、高コレステロールといった不具合が発生した時、どうしたら良いのでしょうか。日頃の食生活で塩分摂取やカロリー摂取に配慮するのは大切ですが、特定の食品によって生活習慣病の改善を図るのは、前述の「バランスの良い食事」という大原則に反してしまいます。例えば高中性脂肪を改善するために特定のお茶を飲み続けることは、すなわち偏食であり、バランスを崩しているのです。具体的に何か不具合が生じた場合に、特定の食品でそれを改善しようとするのは、逆に不健康な食生活を招くので避けるべきです。玉ねぎでも、にんにくでも、ウコンでも、じゃがいもでも、鯖でも、マグロでも、豚肉でも、どんな食材でも、たくさんの成分の複合体で、摂り過ぎたら問題が生じる物質がほぼ間違いなく含まれています。高中性脂肪を改善する目的で特定の食材を食べ続ければ、本来不要な物質まで摂取してしまうことになります。これは食材のみならず、調理法についても同じです。もし何らかの健康上の不具合が発見されたのなら、有効成分だけが配合されていて、適量がきちんと研究されている「薬」を利用するのが一番効率的です。
したがって、トクホにしても、機能性表示食品にしても、健康食品全般に言えることですが、どれもこれも、摂取し続けて健康になるものはひとつもありません。健康な食生活を送りたいなら、必要にして十分なエネルギー量と各種栄養素を確保し、健康な体重を維持できる、バランスの良い(すなわち、食材の産地や製造方法、調理方法など、あらゆる面で多種多様な)食事を摂るべきです。例えば長野県は、県を挙げての長期に渡る食生活の見直しによって、平均寿命の延長に成功したことで有名ですが、やったことは塩分摂取の制限と野菜摂取量の増大(特定の野菜を摂取するのではなく、野菜全般の摂取量を増大させ、肉に偏っていたバランスを改善しました)です。
そして、健康的な体重を維持していて、食生活もバランスが取れているにも関わらず各種健康指標に不具合があるのならば、特定の食品に頼るのではなく、薬を飲むべきなのです。
ということで、「トクホとか、機能性食品とか、何がなんだかわからない」という方が覚えておくべきは、これらの各種健康食品は、普通の摂取量では全部効かないし、効くほど摂取してしまったら逆に不健康である、ということです。もっとストレートに言うなら、
全部効きません
です。色々な能書きは覚える必要がありませんから、これだけ覚えておきましょう。たった7文字です。
もちろん、健康目的ではなく、「このトクホが好き」といった理由でそれを摂取することは、皆さんの勝手です。ただ、この手の食品は開発にそれなりにお金がかかっているので、その分が小売単価に上乗せされています。「高くて、健康に良いわけでもないけれど、食べたい」という人だけどうぞ、お召し上がりください。