2015年12月07日

ミシュランで「蔦」が一つ星だった件

まず最初に、「蔦」に対する僕の評価である。約3年前の評価なので、今は違うかも知れないのだが、行列が嫌いなので食べる機会がない。

Japanese Soba Noodles 蔦
http://buu.blog.jp/archives/51382917.html

10点満点で6点なので、標準的なところである。最大の弱点は、読めばわかるけれど、スープと麺の一体感が欠如しているところである。この手の店は実は非常に多く、「蔦」がひとつ☆なら、他にもいくらでも☆がもらえる店はあるだろうな、と感じてしまう。

ちょっと前にラーメン王・石神さんが「花月」を褒めていたのでFacebookで「大した店じゃないよね」という主旨のことを言ったら、「最近は、有名店ならどこも結構美味しいんですよ」という旨の反論を受けたことがあるのだが、それなりに美味しい店があちこちにあるのはそのとおり。ただ、それは今に始まったことではない。

昔、東京一週間の連載で石神さん、大崎さん、北島さん(故人)などで店を紹介していた時の手順は、まずラーメンの種類や対象地域を決めて、その上でコレクター派の大崎さんがめぼしい店を列挙し、知らない店の場合は僕や北島さんが食べに行って、雑誌掲載レベルにない場合はダメ出しし、掲載レベルの場合は当番を決めてコメントを書く、というものだった。その時、僕が基準にしていたのは、僕の採点で6点以上かどうか、だった。その時思っていたのは、「美味しい」の基準に差があることで、大崎さんは明らかに許容範囲(美味しいと感じる範囲)が広いと思っていた。当時は、石神さんも僕ぐらいに狭かったと思うのだが、「花月」が食べるに値すると感じるようになったということは、石神さんの許容範囲もかなり広くなったんだと思う。ただ、これは仕方のないことかも知れない。石神さんはラーメン店の経営指導などをやったり、あるいはラーメンイベントのプロデュースをしたりと、客視点から重心を移してきている。一方で、僕はごくわずかな事例を除いて、基本的にラーメン屋にアドバイスすることもなければ、経営にタッチすることもない。なので、常に客目線のみでラーメンを捉えている。北島さんの葬式の時にラーメン関係者からたくさんの弔問があったことからも明らかだが、ラーメン評論家と言われる人達のほとんどは懇意にしている店があったり、店主とつながりがあったりする。これは「評価」という視点からはノイズでしかない。たとえば、ミシュランの審査員が特定の店と懇意にしていたら、その評価の価値は激減するだろう。そのあたりを意識してラーメンを評価し続けているプロを、僕はほとんど知らない。職業としてやる限りにおいては、多数の生活者から薄く稼ぐよりも、特定の事業者に取り行った方がお金にしやすいのだから、当然といえば当然だろう。

ところで、客目線でラーメンを評価する、という点で考えたとしても、相変わらず、「どこまでを許容するか」という問題は残る。実際のところ、この「ハードル」の位置は、一般人においてはかなり低いのが現実だろう。僕の評価で6点だろうが、10点だろうが、パンピーにとっては同じように「美味しいラーメン」なのである。だから、石神さんの「有名店はどこもそれなりにおいしい」という意見はもっともだし、大崎さんの紹介記事にもきちんと価値があるわけだ。一方で、僕の評価はマニアック過ぎてニーズがないとも言える。店の立場からすれば、6点のラーメンを10点にすることは、0点を6点にするよりもずっと大変だし、もしかしたら努力だけでは無理なのかも知れず、だからこそ10点には価値があると思うのだが、その差は世間一般ではネグレクトされてしまうに違いない。たとえば僕は自分の家でも鰹節を削るところから味噌汁を作るし、ダシは必ず料理を作るたびに取っているけれど、そこまでする日本人はほとんどいないだろう。削った鰹節と、袋から出したできあいの鰹節と、粉末のだしの素の違いがわからない人がほとんどなら、だしの素で構わないのである。

しかし、理解する人がほとんどいないとしても、6点の店と10点の店にはやはり差がある。

僕の場合、麺、スープ、チャーシューを3段階で評価して、特定の計算方法で機械的に算出した数値で10段階評価しているのだが、要は、麺か、スープか、どちらかがAランクで、どちらかがAかBで、かつチャーシューがC評価でなければ、6点になる。これを10点にするためには、3つの要素全てでA評価になる必要があるのだが、AとBの差はどこにあるのか、ということになる。これは減点法だ。

麺:茹で過ぎはだめ、食べている最中にのびちゃうのはだめ、湯切りが悪いのはだめ、麺が臭いのはだめ、など

スープ:苦いのはだめ、しょっぱすぎるのはだめ、ぬるいのはだめ、濃厚なスープなのに温度が高く味が薄く感じられるのはだめ、苦味・酸味・塩気などのバランスが悪いのはだめ、つけ麺のつけダレの場合は食べている最中に薄くなったり冷めたりするのはだめ、など

トータル:麺が太いのにスープの味が薄い、スープの量をケチりすぎていてすぐに冷める、など

チャーシュー:肉が臭い、まずい、質の低い肉に濃い味付け、低温処理なのに厚く切ってあって食べにくい、など

などなどが評価ポイントになるのだが、これらについてひとつでも該当する点があれば、10点はつかない。「蔦」の場合、一番問題なのは脂が強すぎるスープによって、麺に味が乗ってこないことである。麺とスープ、それぞれ別に食べれば両方ともに美味しいのだが、ラーメンを「麺を食べさせるもの」と考えた時には減点になると思う。逆に、例えばひばりヶ丘の二郎などは、僕は好みではないけれど、麺とスープの完成度だけではなく、その相性までもきちんと考えられた素晴らしい味だと思う。

ちなみに、ここ数年で僕が満点をつけた店(都内ではない店も含まれている)にはこんなのがあるのだが、

HANABI(ちゃーしゅーめん)@由比ヶ浜
生粋(白湯らーめん)@池袋
えんじ(辛つけ麺 3辛)@池袋
人類みな麺類(macro)@南方
カラシビ味噌らー麺 鬼金棒(担々麺)@池袋
葉山(中華そば並)@牛込柳町
彩々 昭和町本店(白鶏(パイチー)塩らーめん)@昭和町
麺や 高倉二条(チャーシューラーメン)@丸太町
天外天(ラーメン)@水道町
ぜんや(チャーシューメン)@新座
チキュウ(醤油ラーメン)@阿佐ヶ谷

どの店も、「蔦」よりも上だと思う。しかし、ビブグルマンにすら載っていない。特に「チキュウ」は素晴らしいのだが、この店は雑誌掲載などマスコミ掲載を拒否している店なので、何かしらの別の事情があるのかも知れない。逆に、ビブグルマンに載った他の店をいくつか見てみると、「トイ・ボックス」は動物系の脂が強すぎて酸味だけが残ったバランスの悪さが気になるし、「やまぐち」も同じ方向の上に、苦味までも抑えきれていない。ミシュランの審査員は、味のバランスという視点がかなり甘い印象である。また、化学調味料が大嫌いなようで、「伊藤」のような無化調ゆえに旨みが足りないスープでも高く評価する傾向にあるようだ。

ただ、最初の方にも書いたけれど、普通の人が食べる限りにおいては、このエントリーで名前を挙げた店なら、ほとんどの店で満足できるに違いない(「花月」は除く)。個人的には、6点のラーメンを10点にするために努力している人達に少しでも光が当たれば良いな、と思うのだけれど、それは難しいことなんだろう。10点の店の人達が、「理解されないなら馬鹿らしいからやーめた」と撤退してしまわないと良いのだが。

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