2016年04月29日

僕が日本から逃げ出した理由(1)

(1)最低賃金のアップが招くもの
最低賃金を上げろと言っている人たちがいるのだが、彼らの多くは重要なことを忘れている。それは、労働者の最低賃金を上昇させた場合、給料が増えるのは自分だけではないということだ。安い給料で働いている人たちの給料が全部上昇する。そうなると、社会はどうなるのか?それは、最低賃金が時給15ドルになりつつある米国の状況を見るとよくわかる。

こちらに来てすぐにわかるのは、レストランの価格が非常に高いということだ。ラーメン一杯でも1300円程度。これは、従業員の給料分が価格に上乗せされているからと予想される。「そんなに高コストでは暮らしていけない」と心配することはなく、工業製品化されている食品は逆にかなり安い。例えば、冷凍ピザなどはホールで一枚350円ぐらい。ハーフを食べたらお腹いっぱいになるので、一食あたりのコストは175円である(オーブンの光熱費などは除く)。米国のことだから裏で色々と力が働いている可能性も強いのだが、安いのだけは間違いがない。それに比較してファストフードやそれに類するサービスの価格はかなり高額だ。正確な因果関係を調べたわけではないが、最低賃金をアップさせれば、人件費がかかるサービスの価格がアップすると想像できる。スタバも、マクドも、例外ではない。こうしたサービスが一人当たりの人件費を削ることができず、提供する商品の価格も高くできないのなら(自宅で調理した方が格段に安ければ、貧困層から順に自炊に流れてしまうので、過剰に高額にはできない)、その次に来るのは人員削減である。つまり、必要とされる労働力そのものが減少する。

コンビニのように価格に人件費を転嫁しにくい業態の場合は、店自体が淘汰されていくだろう。実際、米国のコンビニは日本に比べてかなり少ない。日本では美容室、歯医者に続いてコンビニを目にするが、例えば僕が住んでいる駅ではCVSが一軒あるだけである。このように小売りが減っていけば、当然雇用は減少する。

結局のところ、買う側の所得の総量が増えない限り、あとはパイの取り合いになるわけだ。ある特定の分野、例えば介護や保育関連の給与が増えるなら、どこかで減少が起きる。また、一個人だけに注目して「賃金をアップしろ」と主張するのは構わないのだが、社会のシステムが総体として賃金アップするなら、それは雇用の再構築を意味する。そのあと、社会がバランスを見つけた時には、低賃金労働者の所得上昇と同時に、価格の高騰(これ自体はあながち悪いことではないと思う)とサービス業全体の沈滞が発生しているはずだ。つまり、低所得者の生活は思ったほどには楽にならない。
#とはいえ、資本が流動するので、税収は増える。

米国では、それでも大丈夫なだけの成長社会があるようで、高い最低賃金でも新しいバランスを見つけ出している。一食1300円、チップと税金を含めたら1500円のラーメン屋でも、店は普通に営業している。しかし、日本がそういう社会になって、今の低所得者たちは耐えられるのだろうか?その次に来るのは、生活保護対象者の増加ではないのか。また、米国の場合、食料品を扱う小さな商店は、大都市圏ではほとんど見かけることがない。日本食や中華などの特殊な食材であれば別だが、一般的な食料品を扱う商店は全く目にすることがない。みんな、馬鹿でかいスーパーで購入している。流通が高度に効率化し、結果として零細商店が駆逐されたんだと思う。田舎はどうなのかわからないけれど。そういう高度に効率化された社会では、小規模な事業主は切り捨てられていくし、貧困と人口減少にあえぐ地方都市、例えば北海道の歌志内市みたいなど田舎なら、大規模スーパーからも無視され、流通網からも外れ、生活環境は大きく劣化するだろう。

政府は保育関連の賃金アップを打ち出したようだが、これが浸透していけば、保育料が上昇する。すると親の負担が大きくなるわけで、保育の質の格差が生じる可能性がある。つまり、金持ちが良い保育環境を得る、という社会である。この状況は、社会一般のコンセンサスは得にくいだろう。僕も、格差は別に否定しないのだが、格差の固定化には否定的である。

軽減税率でも、ある特定の分野を優遇すれば反作用が生じる。賃金であっても同様で、特定の分野を取り上げてその賃金をどうこうするのは、非常にデリケートな話である。

ある特定の分野、例えば保育士の給料が安い、という現状には何かしらの理由があるはずで、それを無視してただ優遇するのであれば、状況の根本的な改善にはつながらない。しかし、日本人はこういう行動が大好きだ。貧乏な人を見つけると、その人がなぜ貧乏なのかには目をつぶり、ただお金を支援する。おかげで、お金をめぐんでもらった人はいつまで経っても貧困から抜け出せない。目の前に頭痛で困っている人がいた時、ロキソニンを与えているのが日本人だ。しかし、その頭痛の原因を調べて、適切な治療をしなければ、いつまで経っても頭痛は根治しない。場合によっては自己の回復力によって治るかも知れないのだが、治らないなら、時間とともに状況は悪化してしまう。目の前にいる困っている人を助けることによって、お金をめぐんであげた本人は自己満足に浸れるかも知れないが、本質的な援助にはなっていない。こういうのを筋悪という。

(1)最低賃金のアップが招くもの
http://buu.blog.jp/archives/51522709.html

(2)大学の運営費交付金の減額
http://buu.blog.jp/archives/51522710.html

(3)彼岸と此岸
http://buu.blog.jp/archives/51522711.html

(4)日本の向かう先
http://buu.blog.jp/archives/51522712.html

(5)日本の成長力が低い理由
http://buu.blog.jp/archives/51522713.html

(6)贈る言葉
http://buu.blog.jp/archives/51522714.html

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