2016年04月29日

僕が日本から逃げ出した理由(6)

(6)贈る言葉
他に課題はないのか、ということなら、そんなことはない。例えば東京への一極集中などは日本の構造的問題で、最近話題の保育所問題も少なくない部分がこれに影響しているかも知れない。しかし、多くの部分が「日本の労働者マインドの変革」で解決すると考えられる。ここで、ひとくちに「マインドの変革」と言っても、それは頑強な価値観の、あらゆる角度からの破壊と再構築を意味している。例えば「同一労働同一賃金を実現する」と言えば、法律を作れば良いだけではない。これを実現するためには、年功序列を前提とした様々な状況・制度を全て変えていく必要がある。何の準備もなしに突然「あなたは部長ですが、コピーを取るだけの働きなので、明日から給料は90%減になります。それが嫌なら、もっと貢献してください。無理なら退職してくださっても結構です」というスタンスでは、それはそれで大混乱となるだろう。

全ての要素が複雑に相互作用しつつ、今のバランスが構築されているので、それをリセットする作業は楽ではない。個人的には、この日本人のマインドは弥生時代以降の農耕民族としての日本人に長時間かけて念入りに刷り込まれたものだと思っている。しかし、その刷り込まれた価値観の破壊抜きに日本が世界の舞台に復活してくることはなく、このままでは徐々に衰退していくだけだろう。

大学の研究環境が悪くなる一方なのも、育児環境が整わないのも、地方の社会保障が悪化しつつあるのも、格差が一層固定化しつつあるのも、あるいはもっと卑近なところで言えばアジアチャンピオンズリーグで日本のチームが活躍できないのも、全ては日本の経済の衰退で説明がつく。文科省に「もっと基礎科学にお金を投入しないと、このままじゃ、ノーベル賞科学者は日本から出なくなる」と文句を言っても、「サンフレッチェ広島はもっと良い外人ストライカーを補強すべき」と文句を言っても、仕方がないのだ。しかし、なぜか多くの人がそれ以上踏み込むことをしない。「でも、それじゃぁダメですよね。目の前の問題の解決じゃなくて、経済の再建が必要ですよね」と言っても、「確かに、経済の再建が重要だ。だけど、まずはこの目の前の問題だけは何とかして欲しい」と、身近な問題だけを解決したがる。だから、それがダメなんだって。何でそこで本質から逃げるのか。必要なのは、経済の再建である。これ抜きでは、日本が抱えている問題のほとんどは解決しない。目の前の問題に対応しているのは、がん患者にモルヒネを投薬しているのと同じだ。きちんと病巣と向き合うこと、すなわち、経済の再生から目を逸らしてはならない。そして、それは公共投資では実現不可能だ。もちろん、金融緩和でも不可能である。日本社会の構造改革による経済再生しかないのだ。

では、経済の再建は誰の仕事なのか。もちろん、その旗振り役は総理大臣である。

今できることは、日本経済を立て直すための方策を持ちうる政治家を見つけ出し、その政治家に投票することだ。ところが、寡聞にして、そういう政治家に心当たりがない。関東の政治家はちょこちょこチェックしているのだが、以前希望を持っていた河野太郎もダメだったし、日の出テレビの関係者たちにも失望させられた。ただ、もしかしたら、小泉進次郎だけは可能性があるのかも知れない。他にも誰かいるのか、あるいは、そもそも誰もいないのか。

経産省時代、僕は投資家に対して「日本には技術はあるんです。ただ、それを顕在化させるプラットフォームがありません。だから、経産省はそこを整備していきます。皆さんは、潜在能力の高いスタートアップ企業を見つけ出して、投資してください」とお願いして歩いたものだ。しかし、今になってみると、日本には技術はほとんど存在しなかった。当時もてはやされたアンジェスMGを筆頭に、バイオベンチャーはどこも討ち死に状態である。ないものはない。それと同じ状態が、政治家にも言えるのかも知れない。すなわち、日本の経済再生に向けて適切な政策を講ずることのできる政治家はいないのかも知れない。だとすれば、僕が言える言葉は一つだけである。

ご愁傷様です。

そして、僕は日本を逃げ出して、米国に来た。

(1)最低賃金のアップが招くもの
http://buu.blog.jp/archives/51522709.html

(2)大学の運営費交付金の減額
http://buu.blog.jp/archives/51522710.html

(3)彼岸と此岸
http://buu.blog.jp/archives/51522711.html

(4)日本の向かう先
http://buu.blog.jp/archives/51522712.html

(5)日本の成長力が低い理由
http://buu.blog.jp/archives/51522713.html

(6)贈る言葉
http://buu.blog.jp/archives/51522714.html

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